歴代の眠り ボンゴレ本部があり、昨今は己が庭のように感じるイタリアの大地に彼らは眠る。彼らとは、歴代のボンゴレの長である。荘厳な教会の奥、関係者しか立ち入ることが許されていない一角に、ドン・ボンゴレたちの墓が存在する。小高い丘に一際大きな十字が建てられており、ぶら下がる白百合のリースが、イタリアの穏やかな風に揺られている。ボンゴレプリーモ–ジョットに捧げられたリースはあたかも聖人を讃えるかの如く、小ぶりながらも清廉で高潔な匂いを撒いていた。
この風景を現在のボス、ボンゴレデーチモである沢田綱吉はいたく気に入っていた。緑広がる丘に髪に吹き抜ける潮風、白を基調とした海の街の爽やかな風景、教会から響く、死者を弔い生者を慰める鐘の音…紺碧の水面がキラキラと乱反射するたび、あの光は先代たちの炎の煌めきで、今でもここからボンゴレファミリーや、ひいてはこの街全体を見守っているんじゃないかと錯覚する。特に彼の出身である日本ではこんな風景は滅多にみられず、目の前の光景は何処か御伽めいているように感じられた。死者を神聖視したいわけではないが、現在進行形でマフィアを束ね、数え切れない程の罪を犯した己がいてはいけない場所のような気がしてきた。重ねてきた罪は目の前で安らかに眠る彼らの方が大きく重たいのだろう。しかし罪の背比べは、罪悪感に苛まれながらも、どんどんと初々しい感情を無くし、他人を傷つけることを厭わなくなってきた綱吉には意味の無いものになっている。誰かを傷つける大義名分に「大切な人を守る」を使うあたり、綱吉は自分がとても姑息な人間なんじゃないかと信じて疑わなかった。こんなにブルーな思考に陥っていると、かの家庭教師に一発蹴られそうだが、生憎この場には、あの時より背の伸びた最強の殺し屋は来ていなかった。
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