駆けるホンルを遠巻きに囲むドローンたち。あれらが逃亡者への制裁をおこなわないのは、融通の効かないシステムのおかげだ。
シンクレアを両腕に抱きかかえ走り続けるホンルはいわば、敵に向かって逃げているようなもの。逃げる連合員を追う職員が戦線離脱者とみなされないように、ホンルもまた処罰されることはない。
だがそれも長くはもたないだろう。何故なら、死体は敵なり得ないのだから。
「シンクレアさん、雨があがって、日が差してきましたよ」
シンクレアは答えない。
「水滴が、あちこちで光を反射しています」
シンクレアは答えない。
「僕は……、今ならみんなと同じ景色が見られると思うんです」
シンクレアは答えない。
「あなたが、空の星を見つけるように僕を見つけてくれたから、僕はこんなに苦しい」
空にかかる虹を見上げて、ホンルは話し続ける。
「ねぇ、シンクレアさん。僕はもっとあなたとこの苦しみを分かち合いたいんですよ」
何もない都市に二人分の影が一つきり、まっすぐ伸びていた。