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    辰年なので龍(神)に見初められちゃったあきとくんの話(K暁前提で性行為の描写があります)(完結済)

    ##K暁

    昨日は大晦日で、暁人は初めて恋人と過ごした。同性であることや年齢が離れていること、既に離縁したとはいえ相手には妻子がいること等、不安要素は考えれば考えるほど出てきて。でもそれらを溶かしてしまうほど優しく時間をかけてしつこいほどに愛された。
    一番奥で愛する人を受け入れながら
    「明けましておめでとう」
    とキスをされた時に多分年を越したのだろうけれども暁人は相手のイニシャルだけの名前を呼ぶのが精一杯で。それでも彼は嬉しそうに
    「今年もよろしくな」
    と汗だくの頭を愛おしげに撫でてくれた。

    久しぶりに気を失ってしまった。
    KKがある程度綺麗にしてくれているとは思うがきちんとシャワーを浴びて着替えて髪もセットして初詣に行きたい。
    あの夜に色々な神社と縁ができたから全部まわりたいと言ったらKKは嫌がるだろうか。
    そんな風に考えながら目を覚ますとそこにKKはいないどころかKKの家ですらなかった。
    「……えっ!?」
    祟り屋たちに強制的に呼び出された異空間に似た、中華風の間違いなく豪華な部屋の煎餅布団とは対極な物凄くフカフカでツルツルな布団に寝かされていた。
    飛び起きて来ている服が裏起毛のスウェット上下ではなく恐らくシルクの複雑な刺繍の入った寝間着に変わっているのに気づく。
    KKのサプライズ……ではないと思う。準備することを面倒くさがるし、暁人も大掛かりなサプライズは特別嫌いではないが好きでもないことを知っているはずだ。そもそも人間にこんなことができるのだろうか。いくら熟睡していたって身長も体重も成人男性の平均を越える暁人が家を跨ぐほど運ばれて気付かないとは思えないし、側にいるはずのKKならもっと敏い。
    つまりこれは人外の仕業、怪異の可能性が高い。
    暁人は血の気が引くのを感じながら周囲の様子を探る。
    あの夜も建物の構造すら変わるようなことや鏡の中に入るようなことはあった。蜘蛛の糸と呼ばれる異空間も。けれどあれらはあの夜が特別であって、普段はそう簡単に遭遇できる現象ではないらしい。般若面の男がいなくなった今となっては尚更。
    要するに暁人が一人でどうにかできるレベルの怪異ではない。
    (KKは僕に異変が起きてるのに気づくはず)
    果たして布団から消えているのか眠ったままなのか検討もつかないが、KKやアジトのメンバーへの信頼は揺るがない。
    暁人にできるのはこの場から脱出する、のは難しくとも少しでも手がかりを集めることだ。
    とりあえず調度品や装飾品の溢れるこの窓のない部屋には何の気配もないのを確認して唯一ある扉に近づく。ドアノブが龍の形になっていて、多分純金だ。何となく両手で握って気づく。
    「指輪がない!」
    左手薬指のプラチナリングは恋人からのクリスマスプレゼントだった。はっきりとオマエの人生をくれと言われてあんたの人生と引き換えだと返した。あの時のKKの嬉しそうな顔は一生忘れない。
    なのにその指輪がない。
    セックスの時も外していないし、後始末の時に外してそのままかもしれない。
    なるべく良い方に考えつつ、それでも募る不安を消しきれずに重いドアを押す。
    「……お城かな?」
    突き当たりの見えない長い廊下、と表現するには広すぎる場所に若干怯みつつ金縁の赤絨毯を一歩踏み出す。と突然押し潰されそうな圧力を全身に感じて暁人は金縛りのように動けなくなった。
    『目が醒めたか我が妻よ』
    低くゆったりとした、しかし威厳のある声が頭に響く。
    (我が妻?)
    『左様。 貴様は選定された。 光栄に思うが良い』
    心を読まれている。相手の言葉も自分がわかるように翻訳されているのかもしれない。
    不自然に体が浮き上がる。運ばれるように廊下を進み、先程の倍以上の扉をくぐる。謁見の間と表現するに相応しい家一軒入りそうな広さの部屋の壇上、王座があるであろう場所に一体の龍が鎮座していた。あの夜に屏風から飛び出した龍に色がついて更に巨大化して上位種になったような。そう、目の前にいるのは神の類いなのだと暁人にも理解できた。
    倒すなどもっての他で、機嫌を損ねることすら許されない。
    エドの話を思い出しつつ何故僕があなたの妻などという恐れ多い立場に選ばれたのかと問いかける。
    『蜥蜴を助けたのを憶えているか』
    (トカゲ……カゲリエの中に迷い込んでて踏まれそうだったから久桜神社につれていった時の?)
    『彼れは我が鱗である』
    (えっ!?)
    曰く、龍は時折下界の様子を見に行くらしくその際偶然見つけた暁人の慈悲深さと適合者としての能力が気に入ったらしい。
    そのため龍穴に妻として召喚し、龍と交わり、眷属を産ませる大役を授けるという。
    (待ってください!)
    これには流石に異を唱えるしかない。
    (僕はただの人間で、男だから産むこともできないし、それに恋人がいるんです!)
    『問題ない。 其の身体が特別である自覚がないとは言わせぬ』
    暁人の体が蛇のようにとぐろを巻いている隙間に収められる。痛くも苦しくもないがやはり動けない。
    『恩寵を受け入れれば貴様は心身共に我が妻となれる。 短命で下等なヒトのオスなど直ぐに忘れ去る』
    「そんなこと……!?」
    ないと言いかけて龍の眼が合った。急激に意識を引っ張られ、思考が薄れる。
    慌てて視線を反らし、たまたま自分の腕を見て驚愕した。うっすらと緑に変色し鱗が生え始めている。
    『我が永遠の命と不滅の愛を与えよう』
    身体に響く声が甘く誘うように暁人には感じられた。

    目が覚めたら濃密な一夜を過ごした恋人がいなくなっていた。
    普通でも蒼白モノの緊急事態だ。
    結構な年下、同性、ズボラで気難しい己。思い至る点はいくつもある。
    しかし今回は確実にそうではない。
    暁人を寝かせた場所に残滓を感じる。霊視してその欠片を見つけ出し手に取る
    「マジかよ……」
    それは下位の妖怪とは一線を画す、強大な力の一端だった。

    龍の鱗ね、と凛子は真剣な表情でそれを見つめた。すぐさまエドがボイスレコーダーを取り出す。
    『龍は自然の象徴であり、幸運あるいは権力の具現化だ。 水や天候を支配する信仰の対象でもあり、神にも等しい強大な力を持つ』
    「何で神様に暁人さんがさらわれちゃうの!?」
    半泣きで絵梨佳が叫ぶ。気持ちはわかる。もし神罰が下されるならそれはKKであるべきで、つまり真逆の理由なら。
    『龍による神隠しという伝承は聞いたことがない。 しかしそれは存在しないことにはならない』
    エドは一旦レコーダーを止め別のモノを取り出した。
    『白羽の矢という伝承がある。 神が生贄として選んだ少女の家の屋根に目印として立てられる』
    「生け贄!?」
    「今年の干支なのも考えれば龍が活性化して生け贄を求めるということもありえる、か?」
    暁人は適合者で妹と同じく引き寄せるタイプだ。妖怪に好かれやすいのも勿論本人のお人好しな性格があるが体質も大きな要因になっている。
    「しっかし人のモンを盗ろうだなんざ、神でも許せねえな」
    漸く出てきたKKの発言に絵梨佳が大きく頷く。
    一度死んだ身だ。龍も神も暁人を失うことに比べれば恐れなどない。
    「前に暁人と屏風の龍を封印したことがある。 手がかりさえあれば同じやり方で龍の根城を見つけられるはずだ」
    龍脈と龍穴の感覚は魂だけだったとしてもしっかり覚えている。
    少し持ち直した絵梨佳がKKの掌を見つめ首を傾けた。
    「その鱗じゃだめなの?」
    「近ければ反応するだろうが家からアジトまでは何もなかったな」
    「最近暁人君が龍と関わるような出来事はなかった?」
    早々あるかよと即答する。年末から干支のあれこれは見たが暁人だけが特別な何かがあったとは思えない。思えないが。
    KKは苦渋の決断でスマホを手にし、麻里の名前を押した。

    我が妻よ、と呼ばれて暁人は顔を上げる。頭にはたくさんの飾りをつけられ、服は絨毯よりも豪華絢爛な金糸の刺繍の赤いドレスを身に纏っている。暁人のために誂えたという花嫁衣裳は龍の意匠があちらこちらに施されており彼の者の寵愛を嬉しく思う。更に龍に緩く巻き付かれたまま虹色の瞳に見つめられると身体がざわついて皮膚の鱗が増えるのを感じる。
    『間も無く貴様は身も心も我が物となる』
    「はい……御主人様に触れられたところが熱いです……」
    最初は抵抗していた暁人だったが直接龍にエーテルを注がれ続ければ勝ち目はなかった。変化しつつある心身をむしろ喜ばしいものとして受け止め疼く下半身を愛する巨体に擦り付ける。
    『案ずることはない。 我は先に逝くことも側室を設けることも心変わりすることもない』
    「はい……全ては御主人様の御心のままに……」
    力あるものの庇護下に入り、寵愛を一身に受け、その眷属を産み出す役割を頂戴する。そこに未来への不安はない。幸せだ。そのはずなのに。
    不意に左手を見る。まだ完全な人のままの指に何か大切なものがあった気がする。金でも赤でもない、プラチナのシンプルな。
    「……指輪!」
    無意識に口にすると左手の薬指が光った。そうだ、視えないようにされていただけでそれはずっとそこにあったのだ。
    「KK!」
    本当に愛しい者の名前を呼ぶ。本名じゃなくていい。暁人にとって彼はKKでしかないのだ。
    窓のない大広間で硝子が割れるような音がして一人の人間が飛び込んできた。
    「ようやっと中に入れたぜ」
    いつものタクティカルジャケットにボディバッグ、ついでに無精髭。飛び出そうとして龍の体に巻き付かれた。
    『間男がよくも儀式の邪魔をしてくれたな』
    「間男はソッチだろうが! 暁人はオレのモンだ!」
    『其れは真なるかな』
    龍の手が暁人を掴む。鋭い五本の爪が鳥籠のようになって身動きが取れない。
    「ふあっ!」
    その内の一本がドレスの裾をたくしあげる。脚はほとんど鱗で覆われていてその間を長い爪が優しく擦った。
    「ひっ! や、めろ!」
    エーテルが流し込まれると身体が反応してしまう。素晴らしい適合力だと龍は喜んだ。
    『見よ、我が眷属を産むのに相応しい身体だ。 此の世の安寧の為に其の身を捧げられる栄誉を誇るが良い』
    「ふっっっざけんなこの世の平和はオレが守るから神様気取りのトカゲはすっこんでろ!!!」
    もはや神に対する畏れや敬いはKKにはなかった。例え決して敵わない強大な力を持っていたとしても、今度こそと手に入れた恋人をみすみす奪われるつもりはない。
    暁人、とKKが叫ぶ。求めているものはわかっている。
    『何故だ。 貴様は不老不死と悠久の神の愛を手に入れる事が出来るのだぞ』
    「例えKKが先に死んでも、やっぱり奥さんと息子さんがいいって言っても、僕はKKを選ぶよ」
    二人同時に印を結ぶ。現実世界では出来なくなったがこの異空間では可能だという確信があった。
    「「絶対共鳴!!」」
    龍に与えられたエーテルの全てを吹き飛ばしてKKに引き寄せられる感覚に暁人は身を委ねた。

    気がつくとKKの部屋にいた。日付は既に二日になっていたが、着慣れたスウェットでその下の肌は人そのものであり、左手には指輪がある。
    「良かった」
    「ちっとも良くねえよ!」
    玄関を乱暴に開け放ってKKが入ってくる。正月だというのに随分とボロボロだ。その上これからアジトに報告に行って麻里の説教が待っているらしい。
    「え……それって僕も?」
    当然だろと吐き捨てたKKは煙草に火を点けた。一服はしたいらしい。
    「あの……ごめん、ありがとう」
    「全くだ。 オマエに花嫁衣裳を着せるつもりはなかったが他人に着せられるのを見させられるとは思ってなかった」
    「う……ごめん」
    暁人も着るつもりはなかったし抵抗する術はないに等しかったがKKに対する罪悪感はある。しかしKKはあくまで龍に怒っているようだった。
    「流石に倒せはしなかったが龍野郎もこれで懲りただろ」
    「……平穏な一年になるといいね」
    することが終わったら初詣に行こうよ、と誘うとその後はわかってるよなと欲望を隠しもしない声で言われて暁人は赤面しながらも頷いた。
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    DOODLE #毎月25日はK暁デー 
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    「ここだったよね、KK」
    「ああ、そうだったな」
    あの夜、二人が『運命的』に出会った場所がここだった。

     
    「ねぇ、夜の散歩に行かない?」
    暁人がそう声をかけてきた。正直なところ面倒だな、とKKは思った。もう飯も食って風呂もはいって、後は寝るだけ、という状態だ。出来ることならこのまま暁人を寝室まで引っ張って行って、さっさと押し倒したいところだが。まるで飼い主に散歩をねだる犬のような目で見つめられては、異を唱えることなど出来ようはずがない。甘いな、俺も。そう思いながら答える。
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    32honeymoon

    DONE◇#毎月25日はK暁デー ◇お題:匂い
    ・久しぶりのあまいちゃ糖度120ぱーせんとなので苦手な方は要注意!
    ・KKと暁人くんが同棲してる世界のおはなし
    ・相変わらずKKが暁人くん大好きマン

    長編をあげた後だったので、今回は短くさらっと。
    豪雨つづくここ最近、太陽が恋しくなって書いた作品です。
    台風の余波で大変な思いをしている皆さまの地域に、
    はやく気持ちいい秋晴れが届きますように。
    おひさまのにおいはしあわせの匂い。ーそれは秋晴れがさわやかな、とても良い天気のとある一日のおはなし。


    「KKー、布団下ろすの手伝ってー」
    「お?ああ、分かった」

    ソファでくつろいでいた休日のとある夕方。ベランダから聞こえてきた柔らかな声に、KKはよっこらせ、と立ち上がる。

    「布団、干してたのか。いつの間に・・・」
    「そうだよ。気づかなかった?」
    「・・・気づかなかった」

    少しだけばつが悪そうに目をそらす姿にはにかみながら、
    「だって今日はお日様の機嫌が良い一日だったからね。あやからなきゃ」と暁人が言う。

    「お日様の機嫌ねえ・・・また随分と可愛い事言うじゃねえか、」
    オレにしてみりゃただの暑い日って感じだったがな、と続けようとしたのを、KKが済んでの所で飲み込む。
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