宿儺と呪霊悠仁1
PM 4:00
東京都立呪術専門学校
「宿儺。君に渡したいものがあるんだ」
呪術師としての仕事を終え、部屋に戻ろうとした宿儺に担任である五条が声をかけた。
「なんだこれは?」
彼が渡したものは、古びた箱だった。「催魔怨霊敵」と書かれたそれからは、異様なオーラが漂い、宿儺を混乱させた。その表情に何かを感じ取った五条は、それの説明を始めた。
「君は両面宿儺の転生帯として、二十本の指を全て取り込んだ。僕の目でも確認できる。君は間違いなく宿儺の指全てを取り込んでいる。けれどねーー」
話を右から左に流しながら聞いていた宿儺は、そこでふとこれが自分の指であると気がついた。中手指節関節から切断された左手環指の死蝋であるーーと。
「仙台市杉沢第三高校で発見された、二十一本目の指だよ」
両面宿儺ーー呪術師の歴史において最大の大敵であり、最後まで倒すことが出来なかったと記される呪いの王ーーは、今から十数年前とある形で復活を遂げた。
当時一般人だった子供が指を飲み込み、宿儺が復活してしまったのだ。
不思議なことに、少年ーー悠仁は呪いの王を容易く抑え込み、呪術師として生きる道を選択した。
最終的に全ての指を飲み込み、秘匿死刑は実行された。
しかし、死蝋と化した指だけは残され、それを含めた指全てを虎杖宿儺が飲み込むことを条件として生かされることとなったのである。
両面宿儺の記憶がほんどない宿儺にとっては迷惑な話である。
自分が一体何をしたというのだ。
「全く…何本あるというのだ…」
両面宿儺の指は計二十本だと聞いていたがーーと半ば呆れつつ、宿儺はそれをいとも容易く飲み込んだ。
瞬間、宿儺の体が勝手に動き出した。
「うーん…この感覚久しぶりだなぁ」
自分よりもやや声の高い青年は、伸びをした。
どうやら、過去に処刑された虎杖悠仁らしいと、宿儺は予想した。
「おい」
「あっごめん。勝手に体使っちまって」
彼が地を這うような声を出せば、驚いたように悠仁は体の主導権を明け渡した。
「全く…何なのだ一体…」
「愉快な体になったねぇ。宿儺」
「やかましい」
担任の言葉を一蹴した宿儺は、両手をポケットに仕舞うと、そのまま部屋へと戻って行った。