赤い絨毯の上で「すげー!! 真っ赤!」
森林の中にフロイドの声が響き、隣の僕は微笑む。
木々の葉が緑から黄、赤へと変化する頃。「ハロウィーン用の料理をもう少し用意しておきたい」と所属する寮の寮長……モストロ・ラウンジの支配人から命令を仰せつかった僕達は、「異なる視点の情報を手に入れる」という名目で揃って外出を許可された。予約したビュッフェの時間までもう少し。
少し遠くで「今日冷えるね」と話し声が聞こえた時、すぐ近くにいるフロイドが「今日涼しくてよかったぁ」と安堵を漏らす。冷たい深海育ちの僕達は、暑さは苦手でも冷たさにはかなり強い。僕も冷えた風が心地よいと感じていた。
制服を規定通りに着ただけで、風避けなんてものは身につけていない。
「何で葉っぱって色変わんの?」
「葉に含まれる色素の変化が主な要因です」
「ふーん、色素ね」
「興味無いですか?」
「無い」
話を展開させるつもりではなく、ただぽつり疑問を投げただけのようだ。
サクサク音を立てて乾いた葉の上を歩くフロイドに半歩遅れて着いていく。
「フロイド。そろそろお店に向かわないと」
「んー?」
「目的、忘れないでくださいよ」
「覚えてるって」
言いながら、駆け足で僕と距離を取ると、何をしようというのか……黄や赤に色付いている落ち葉を大きな両手ですくい取った。遊ぼうという意図なら帰りでもいい。引っ張ってでも店に連れていこうと近寄って──
「そらっ!」
「んぐ……!」
フロイドが拾い上げた落ち葉が僕の顔にかけられる。
「あっははは!」
「フロイド……貴方」
「あれ、怒った? ごめぇん」
「謝る気が無いなら端から謝らないでください。それに……」
「それに?」
胸元からマジカルペンを引き抜くと、攻撃を防ごうとあからさまに身構えるフロイド。ああ、素直で可愛い子だ。
「──うわっ!」
魔法で浮かせた"フロイドの背後の"落ち葉の塊が後頭部を中心にぶつかって、勢いのまま前へと転ぶ。
「自分が真正面から攻撃したからと、相手も正面からぶつかってくるなんて決めつけてはいけませんよ? ふふふ」
「決めつけたわけじゃねーし……」
「ほら、寝転がっていては制服が汚れます。お手を」
ペンを胸ポケットにしまい、右手を差し出すと、ふくれっ面のまま左手を重ねてくれる。……そこまで気を悪くしたわけじゃないようで安心だ。
立ち上がったフロイドが上半身の汚れをはたくので、僕は足元の汚れを落としてやる。騙し討ちのようなことをした、せめてもの詫びに。
「これに懲りたらもう行きますよ」
「気分じゃなくなったぁ」
「まったく、貴方という人は」
膨らませた頬を僕の肩に擦り寄せ、腕を絡める。
「メニューの詳細とかジェイドがメモ取れよな」
「貴方はそもそも取る気無かったでしょう」
ぎぅ、と腕の力が強まる。転ばされたのに、近くにはいたいらしい。
「仕方無いですね……」
髪を梳かすように何度か撫でてやると、くすぐったそうな笑い声を出して、「もっとぉ」と、甘える小動物のようにグリグリと頭を押し付けてくる。
「この先はまた後にしましょう。時間がありません」
「んぇ〜。じゃあ後なら飽きるまでやってくれんの?」
「ふふ。ええ、飽きるまで」
約束し、2人並んで赤い落ち葉を踏み荒らしていく。
こんな一時期の景色より、互いの方が余程楽しい。