あなたが欲しい ダブルセンターとしての仕事の帰り道、あまりにもうまくいっていたから、きっとテンションがおかしくなっていた。
「なあなあ、俺っち達相性いいみてぇだからさ」
つきあわねえか。
夜道に抱き寄せられて、耳元でささやかれた。
俺もとっても気分がよかったからつい、
「いいですよ」
なんて返事をした。
最初はめんどくさい奴だと思って、夏の騒動が済めばすぐに離脱するからそんなに深くは入れ込まない予定だったのに。
「お前はどうしたい」
「メルメルそれいーな」
なんて、事あるごとに認めてほめてくれるから。いつのまにか天城の隣が居場所になっていた。
メンバーとして、共犯者としての情にほのかな思慕が混ざるのに時間はかからなかったのです。
「おっ、こんな時間まで仕事か」
寮の共有スペースでコーヒー片手に、今度出演が決まったドラマの台本を読んでいたところ。
「ええ、今回はヒロインに恋心を抱きつつも、彼女の恋を応援するという役なのです」
「うわーかわいそう、そういう立ち回りはぜってー無理、好きなら手に入れたいもん」
HiMERUは、求められるなら役割を演じて見せます。現実でも。
「天城は今、俺のことをどう思ってるのですか」
「ん、大事な相棒で恋人だと思ってる」
少し照れたように視線を逸らすところが、いつもの印象とのギャップでいじらしい。
「今日も、してはくれないのですか」
それを問うのは別れ際の儀式のようなものだった。天城燐音が大切にしているもの、キスという自分にしてみればスキンシップの一つが、彼の中では大きな意味を持つ。だからこそ欲しい。
「お前のことは愛してる、でもまだ戸惑ってる気持ちが大きい。この一線を越えたら戻れなくなるから」
「俺はとっくの昔に戻れないところまで来てますけど」
深夜2人きりなのをいいことに、歩み寄って抱きついてみた。少し見上げるとターコイズの瞳と視線がぶつかる。
「ずっとこうしたいと思ってた。色々負担も増えるけど、いいのか」
「どんなことでも完璧にこなしてみせますよ」
シャツを握る拳にトクトクと天城の心拍が伝わる。
「お前のことも背負わせてくれよ」
「それは、状況によります」
なんだよそれ
なんて呟いて、形のいい指先に顎をすくわれた。
不意打ちのキスは、思っていたより柔らかく、優しくて満たされるものでした。