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    Amagasa_water

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    Amagasa_water

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    続くのか続かないのかわからないな、、、続かない気がするな、、、cp要素ほとんどないです今のところ。ほとんど景元と鏡流。鏡流がめちゃくちゃ丸くなってます。文章力が微塵もないので変

    #刃景
    #景刃
    jingblade

    現パロ窓を雨が強く叩く。暴力的で乱暴なそれは、自分の知っている穏やかで優しい音ではなく、少年の心に恐怖を生んだ。外はどこまでも黒くて、遠くの方にかろうじてネオンが見える。少年のいる建物はひたすらに暗かったし、この子がいる街は灯りがとにかく少なかった。割と都会に近い街だったのにそこだけブラックホールのように、いや、例えるのなら巨大な虫の口がいいかもしれない、ぽっかりと灯りがなかった。少年は部屋の中で寒さに耐える。彼を温めるものは何もなかった。ガスはとうの昔に止められて、もう水も蛇口から出なくなった。少年はその長い髪を部屋の闇に溶け込ませて体ごと抱え込む。薄っぺらい毛布とそれだけが彼を唯一凍えさせない。温めもしないけれど。
    彼はネオン街の一個手前の建物をじっと見つめている。なんの変哲もないはずの建物だが、そこには不気味な像が肩を突き出して座っていた。建物につけるには悪趣味なその像と少年はどうしても目が合う気がして怖いのに、どういうわけか視線を逸らすことができない。取り憑かれたように。少年はそれを見続けて。日が登ってくるときに呟いた。
    「いない」
    その時、彼の見ていた建物の屋上に像はいなかった。


    景元は大学生活をこれでもかというほど謳歌している大学生だ。そして今日も元気に大学生生活を送っている。バイトが掛け持ちしすぎてハードなことを除けば、体全身で青春を体現できるくらいに充実している。門限だってあってないようなものになったし、友人とまあまあ遅い時間まで家鍋をしたりと、少し行いの悪い学生になりつつある。こないだ母に帰るのが遅いとお灸を据えられた。だが近頃はそう友人と家鍋ができない状態になってきていたので景元は困っている。決して母の機嫌を損ねたからとかではない。まあ夜遅くまで友人の家にいるのが憚られる事情なんて限られている。単純に治安が悪くなったのだ。彼の住む街の近くで三週間前、見るも無惨な姿になった遺体が発見され、それから間も無くして行方不明者が一人出た。警察は連続殺人事件として調査を進めており、大学の教授も生徒たちにくれぐれも夜遅くまで遊ばないように毎日釘を刺しにくる。そういうわけで景元は最近おとなしく家に帰って家族と食卓を囲んでいる。早く事件が解決してくれればいいが、報道を見ている感じだと操作が難航しているようでどうにもしばらく自重する必要がありそうだった。だから食後に一人鍋をして鍋欲を満たしている。この間食べたキムチ鍋は美味しかったな。話を戻そう。その事件ははじめに発見された遺体がまるで殺すことが目的ではなく、世間に対してその凶行を見せつけることが目的だと言わんばかりの有様だったので、ネット上で大きく騒がれた。全てニュースやらSNSで得た情報だが、犯人はどうにも遺体の臓器をまるで標本のように綺麗に並べたようで、特番に出ていたどこかの大学教授がこれは人をおもちゃとしか見ていない、一言で言うならばサイコパスの行いだと言っていたのは記憶に新しい。そして今行方不明になっている人が、もしこの事件に関わっているとするならば、今度は一体どんな有様になっているのだろうという薄暗くてドロドロした何かがSNSを徐々に侵食している。きっと悍ましいに違いないと、皆その有り様を期待しているような、他人には見せられない好奇心で溢れかえっているのだ。あまり喜ばしいことではないが、景元も人並みに気に掛かってはいる。

    「おい景元」
    後ろから女性の声がした。
    「師匠」
    景元の通う剣道の道場の先生である鏡流だった。いつもの道着とは異なり、シンプルとはいえ女性らしい私服を着た鏡流に良い意味で違和感を覚える。買い物の帰りのようで、跨っている自転車の荷台にはエコバッグに詰まった大量の肉が見えた。めちゃくちゃ食うなぁ。
    「こんにちは」
    「あぁ。こんにちは。今からバイトか?」
    「いや、さっきバイト終わったんです。それで帰ろうと」
    鏡流は少し黙って、一人で何を納得したのか頷くと、その赤い瞳で景元をじっと見つめた。嫌な予感がする。
    「ついてこい」
    鏡流の命令は絶対だ。太陽が西から登ろうが、一日が25時間になろうが、景元に提示される選択肢はいつも、はいかイエスかヤーかハーンのみである。全部はいじゃないか!拒否権なんて景元にはない。残念だな。景元は腕時計をチラリと見る。まだいっても四時だ。家に帰るのもおそらく七時過ぎで収まるだろう。いくら凶悪犯でもまだ日の明るいうちに危害を加えることはないかなだなんて思って、景元は頷いた。


    歩くことおよそ10分。十分だが炎天下だった。汗が噴き出てTシャツを濡らす。鏡流が景元を連れてきた先は彼女の道場だった。今日は休みなのでだれもおらず、敷地には蝉の鳴き声だけがこだましている。いつも聞こえる小学生の生徒たちの笑い声がないとこんなにも静かなのかと思った。道場であると同時に鏡流の自宅でもある敷地の奥を進んでいくと、彼女が寝起きしている離れが見えてきた。改めて家がでかい。そのまま離れへとお邪魔して、玄関で靴を脱ごうと視線を下にした時、違和感を感じた。彼女はこんなに小さな、それも小学生が履くような靴なんて持ってただろうか。景元の視線の先にあったのは、黒い使い古されたスニーカーだ。もしかしたら道場の誰かが忘れて行ったもの?いやでも、靴を忘れるなんてあるのか、取り違えか何かでここに置いてあるのだろうかと一人で納得した。小学生の多く通うこの場所ならあってもおかしくない。そしてそのまま特に何も疑問を抱かずに、景元は家主の行く先をついていく。いまだに鏡流が景元を家へ呼んだのは意味がわからないままだ。二人は建物の、薄暗い廊下の突き当たりにある部屋の前へと辿り着いた。この先の部屋はリビングになっているはずだ。一番日当たりがいいらしいと家主が言っているのを覚えている。家主はドアを開けた。


    「戻ったぞ」
    鏡流が言い放つ。誰に向かって?鏡流がそのままリビングに入るので、景元もそれに倣った。
    「うん!?」
    ちょうど廊下から死角になって見えなかった壁に背を預けて体育座りをしている少年がいた。景元はもう驚いて変な姿勢で固まり、それを少年はじとりと見つめる。
    「刃だ」
    鏡流が口にした名に聞き覚えはない。刃と呼ばれた少年は相変わらず微動だにせずじっと景元を見つめてくるので若干気まずかった。師匠に似ているようで似ていない真っ赤な瞳。一体誰なんだろう、師匠とはどんな関係なんだ、まさか子供!?だなんて疑問が頭の中で渦巻く。
    「その子は遠い親戚の子だ。うちで預かることになった」
    変な考えなんて持つんじゃないと頭を小突かれる。痛いな。まぁまさか子供だったらなんてのは割と冗談で、なるほど親戚かと納得できる。でも一体どういう経緯があったらこの鏡流が子供を預かるだなんてことに落ち着くのだろう。彼女は確かに剣道の先生として多くの子供達と関わりはあるけれど、少なくとも知る限りでは子供の面倒なんて見るような人じゃないのは景元がよく分かっている。小学校高学年からずっと道場に通っているから関わりだけは深かった。鏡流が刃にそこで待ってろと言い残し、景元を廊下へと再び連れて行った。やっぱり薄暗い。

    「あの子は片親だったんだが、あまりにも貧しくて、1ヶ月前に母親が部屋で衰弱死しているのが見つかった際に保護された」
    景元は何も言えなかった。鏡流は続ける。
    「そしてよくあることだが親戚をたらい回しにされているのを、私が引き取ったんだ」
    鏡流はリビングの方を見やる。どこか、どこか悲しそうな目で。
    「あの子はうちに来てまだ2週間。当然警戒心だって強いし、ずっとああやって部屋の隅でうずくまって動かない。まだ十歳だというのに、あの子を縛っている枷が多すぎる。多すぎるんだ。雁字搦めじゃないか、あんなの」
    いつも見ているあの厳しい彼女の影はそこになく、どこか年下の弟を想うかのような憂いがあった。誰も悪くない、勝手に少年をぐるぐる巻きにしている枷に対して怒りをあらわにした彼女も少し静かにすると落ち着いて、ため息をつく。
    「景元、今日ここに連れてきたのは刃のことだ。無責任なのは自覚しているんだが、私はあの子にどう接すれば良いかがわからない。お前ならアドバイスをくれるんじゃないかと思って」
    うーん、難しい。正直に言うと。要するに鏡流は子供との接し方が得意じゃないから、そう言うのが得意な景元に助言をもらいたいのかもしれないがこれに関しては特例すぎる。一体何があの少年を傷つけるかわからない。枷を重くしてしまうのかもわからない。途方に暮れた。景元の様子に鏡流も難しいと察したようで、
    「難しいか」
    と呟いた。景元は肯定の意を示して頷く。鏡流はそっと目を閉じて、今度は長いことそのままだった。




    「私は」
    鏡流が口を開く。
    「私は何があってもあの子を守る。その覚悟で引き取った」
    「彼にのしかかって離さない枷なんて全部私が切ってやる」
    「今は難しくてもいつか彼がここを離れて一人前になる時に、心の底から笑ってほしい、まだ二週間しか共に生活してなくても心の底からそう願っているんだ」
    一言全てを噛み締めて鏡流は言った。意外だった。師としての彼女しか知らない景元にとって、この女性が、引き取った子供のためにここまで心からの愛情を込めた言葉を口にするのが本当に。諦めて笑った。あぁ、この人がここまで誓える子供なんだ、自分が手助けせずにどうする。
    「師匠」
    「なんだ景元」
    景元は右手を差し出した。鏡流は頭の上に疑問符を浮かべながらもそれを握り返す。
    「ちょっと難しいのは難しいけれど、師匠。私もあの子が笑うところを見てみたい」
    鏡流は驚いたようで一瞬固まってから、見たことのないほど暖かな笑顔を見せた。
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