対岸の、その先に進むには。 後編「来ますよ、セルジュ!」
「うん、イシトさんっ」
二度の警備交代を経た翌日。少しうわずったセルジュの声が聞こえる。
セルジュとほぼ言葉を交わすことがないまま、ここまで来てしまった。
案の定、名前も呼ばれやしない。
出発の直前に「眠れたか」と声をかけたが、セルジュが朝に弱いのも相まって、軽く頭を下げられた程度のやりとりしかできていない。その瞼は、赤く腫れ上がっていた。一度目の交代の後には床に転がってぐっすり眠っているのを確認したので、少しでも休ませる事ができたのが幸いか。
目の前には、もはやヤマネコでもセルジュでも無くなったもの——『神』を自称するフェイトが、前のめりに構えている。ゆうに十メートル以上はあるかと思われる巨大な上半身を揺らしながら、床を突き破って相対している。こんなものが地下に埋まっていたのか。
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