手の中の星空 / 空放 1.
【そら】それが今の放浪者の名である。役職や漠然とした呼称ではない、今までに呼ばれてきたどの呼び名よりも『個』のあるそれを放浪者はそこそこに気に入っている。
そして名付けた人間もまた、名を【空】といった。彼とは長らく敵対していたが、故に放浪者の全てを知っている数少ない人物だった。神の目を授かった後、またふさわしい呼称を失った放浪者に彼は自分と同じ名を提案した。
対して、放浪者が理由を聞く事はなかった。そんなものはひとつしかない。スメールの囚人となった放浪者に、散兵・スカラマシュとして重ねてきた罪を忘れさせぬよう───恐らくこんなところだろう。けれどもどうでもよかった。彼がしばらく悩んだ末に口にした案というだけで、【そら】という名には価値がある。
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