ダキワンドロ【お題】
・キミと会った日がバースデー
・一緒に行こうよ
夢を見ている。
初めて君に会ったあの日の夢を。
チャンピオンになってすぐあの頃、周りにいた筈の友達や家族は故郷に、幼馴染みも新しい夢を見つけたからと俺に背を向けた。
寂しくて寂しくてバトルの時以外引きこもって泣いていた俺に君が
「どうしたの?なんで泣いてるの?…………さみしいの?それならキバナが一緒にいてあげる。ダンデ一緒に行こうよ」
とまだ柔らかな手をさしのべて外の世界へ連れ出してくれた。
まろい頬をふにゃりと緩ませて笑った君の笑顔がかわいくてキラキラしていて見えたことは俺だけの秘密だ。
君と出会えて、そのお陰で俺は皆が憧れるような、無敵のチャンピオンダンデになれた。
そのための努力ができた。
君と出会った日がチャンピオンダンデのバースデーだった。
今でもずっとそう思っている。
君に恋をしたと気づいたのはそれからもっとあとの事。
ムゲンダイナに受けた傷のせいで眠り続ける俺が目を覚ますのを君は暗い廊下でずっと待っていてくれたと知った。
目を覚ました俺の手を握り、綺麗な瞳が溶けて溢れてしまうんじゃないか?という位に涙を流してくれた君を見てようやく俺は自分が君に恋をしていると、君の笑顔を守れる強い男になりたかったんだと気付いた。
だからどんなに苦しくても、立ち上がれたし、君を安心させたくて上手く笑う術も覚えた。
まぁ、君は俺の作り笑いをすぐに見破って
「俺様ダンデの作り笑い嫌い」
そう言っていたけれど。
君といると格好つけらんなくて、でも、そのままの俺でいられたから本当感謝してるんだ。
「ダンデ……ダンデ俺様泣いてるよ?お前がキバナの涙を拭ってくれないから。涙の止め方わかんなくなっちゃった」
夢の中にそんな君の声が聞こえてくる。
ぬるい雨粒……いや、これは君の涙か……
それが俺の頬に当たり地面を濡らしていく。
「キバナ……キバナ泣かないでくれ」
今すぐ目を覚まして泣いてる君を慰めたいのに、腕の中に君を抱き締めて頭を撫でてやりたいのに、俺は夢から覚めることができない。
ブラックナイトの後遺症。
指先から始まった痺れが腕全体に広がった頃に医者からそう告げられた。
「どうにかなるだろう、俺は大丈夫だから心配するな」
そう言ったのに、今の俺はこの様だ。
きっとあの日君の瞳が溶けて溢れてしまう位に泣かせてしまった罰なのだろう。
現実の世界で眠りに落ちる前に最後に見た君の顔は幼い頃の寂しくて、寂しくて泣いていたあの頃の俺にそっくりだった。
あの時の君みたいに手を差し伸べて君の涙をとめたいのに、君を笑わせたいのに……
なんて俺は無力なんだろう
「神様……どうか、どうか俺の唯一から笑顔を奪わないでくれ」
そんな祈りは現実には届かない、手を祈るようにあわせ額に押し当てる。
誰もいない夢のなかダンデはただ一人現実に残してきてしまった愛しい人に届かない祈りを呟くことしかできなかった。