竜の庭園・おしまいそれは彼女が庭園の世話を引き受けて僅か半年後のことだった。
名乗り出、引き受けたは良いものの勝手がわからず難儀していた最初から比べるとすっかり花の世話にも慣れ、竜という野生に近しい種族らしくやわらかな白詰草の植え込みで昼寝をする日もあった頃だった。
星の巡りにより偶然指名された戦。今回はそう長くはかからないと聞いていたので油断しきっていた。
この戦においてメリュジーヌの働きは実に素晴らしく、マスターから簡易的な勲章を送るよとすら言われ意気揚々と帰還後、突然の警報音、彷徨海の破棄、緊急離脱。
とてもじゃないが最上階のささやかな花園を心配する暇は無かった。休む間もなく次の戦を見据える目をしているマスターに、花を数輪持っていきたいなどとは、口が裂けても言えなかったのだった。
暁の薔薇もやわらかな白詰草も、全てが爆ぜる音が遥か後方から聞こえた。そもそも彷徨海という座標でのみ成立する奇跡の花々であった為、持ち運ぶ事は不可能であったと今更気付く。
きっとまた次の場所で。メリュジーヌは出会いと別れで結ぶ人の輪に手を貸すその意味を理解しながら、目元を悟られぬよう溶けるように霊体化した。