【芸術家は2度】君と暮らす【交流】 西暦3023年の日本帝国に存在するジョン・ドゥ、櫟結弦が顕現したのは、数年ほど前のことだった。
顕現させたのは、当時中学三年生だった少年。名前は宗形暮といった。
双子として生まれた暮は、常に兄である朝の陰に隠れていたらしい。本人の口から直接聞いたわけではないのだが、それはおそらく暮自身の望みではなかった。でなければ、どうして、彼はひとり膝を抱えて泣いていたというのか――結弦の著作である童話『かえりみち』を開きながら。
「…………」
おどろいたように見開かれた黄緑色の瞳。まなじりから、ぽろぽろとこぼれ落ちる少年の涙を目の当たりにしたときは、さすがの結弦も大層おどろいたものだった。生前の未練と切なる願いを胸に長い時間をさまよい続け、ようやく今世への顕現が叶ったと思ったら、自身を顕現させただろう少年が泣いている。
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