真島からの電話を受けて桐生はデボラへと向かっていた。以前そこで真島が一昔前のアイドルのようなキラキラした衣装を身に纏い喧嘩ではなく『ブレイキングファイト』と称したくさんの客の前で真島と戦ったことがある。
今回もそれと同じようなものなんだと考え、仕方なく真島に付き合うかと半ば呆れつつも楽しみにしていた。
あの手この手を使って真島は桐生に喧嘩を仕掛けてくる。ある時は警官になったりある時はゾンビ、またある時はキャバ嬢にまでなって桐生に喧嘩を買ってもらおうとする。
「(変な所に金掛けてるよな…)」
ゾンビの時に至ってはどころから金が出てるのか大量のエキストラやメイクアップアーティストを雇っていたりもした。さすがと言うべきか喧嘩に対する執念が半端ではない。
前の事を思い返しながらデボラに入り、大きな扉を開ける。
「イェーイ!」
「フゥー!!!」
「真島さん最高ー!!」
派手なライトが彩る広場に前と同じような形で客の真島⸺みんなのアイドル吾朗が踊っていた。キラキラの衣装は特に目立ちすぐに真島を見つけることが出来た。
「お、桐生ちゃーん!待っとったでぇ!」
パフォーマンスしながらも桐生に手を振る。アイドルの鑑というべきか。
「またブレイキングファイトするつもりか?」
「せや…と言いたいところやけど違うねん!まぁダンスっちゅう意味では同じかもしれんな!」
「……??」
首を傾げているとちょいちょいと手を小さく振るので何も分からぬまま真島の近くに寄ると手を取られ真島の肩へと促された。
「兄さん?」
「ヒヒッ、桐生ちゃんとこの踊りを見せれんの楽しみやわ〜」
辺りを見渡すと客たちも何が始まるんだ?とざわざわしている。何だか嫌な予感がして逃げ出したかったがイベントの呪いに掛かってる為桐生の意思では動けない。
いつの間にか右手は真島の肩、左手は真島の手を握っており腰には真島の腕が回っている。
これは、まるで⸺⸺………。
「ミュージックスタートや!」
真島の声を合図にクラブにBGMが響き渡る。
「(何だこの音楽⸺!!?)」
流れてきたのはクラブに似合わないしっとりとしたクラシック音楽。それに合わせるように真島は動き出し慌てて桐生も足を動かす。
「俺がリードしたるから桐生ちゃんはちゃあんと合わせてぇな?」
「は、ちょ……」
真島が腰から手を離すとスッと体が離れる。左手だけを繋いだ状態になり音楽に合わせ桐生の体は勝手にくるくると回りだした。
「???」
「ヒヒッ、流石俺のお姫さんや!踊りが上手やわぁ。たくさん練習したかいがあったのぉ」
「(お姫さん?練習?踊りが上手?)」
今回はどういう『設定』なのだろうか。アイドルじゃなかったのか??とたくさん疑問が浮かんだ。
ぐるりと一周しながらくるくる回るダンスはさながら武闘会⸺ではなく舞踏会。
「(って、何考えてるんだ…)」
「んー?桐生ちゃん何違うこと考えとるん?」
「いや…兄さんの考えてる事が分からねぇ」
真島が片手で桐生の腰を支えながらポーズを取ると桐生も背を反らしてポーズを決める。適応力の高さはさすがと言ったところだ。
「桐生ちゃんは兄さんに着いてくるだけでええよ。何もせんでも桐生ちゃんの魅力は客に伝わっとるからのぉ」
「………」
はぁ、とため息をつきながらも曲はクライマックスになり盛り上がってきた。ようやく終わるのか、と安堵した瞬間真島の顔が近い。
「な、……!」
後頭部を掴まれると口付けられた。そして、あろう事か舌をねじ込まれ、舌同士がざらりと擦れる。羞恥で顔に熱が登り、逃げようと真島の胸を押すが腰を掴まれているため逃げ場が無い。
「ん…っん、ふぅ…っ」
「キャー!!!」
「真桐…hshs…」
「うおおぉ!!推しCP!!!最高!!!」
ハッ、と客の叫び声に我に帰り拳を握ると腹に打ち込む。ぐっ、と声を上げるとどさりと膝を付いた。
「さ、さすが…俺のお姫さんや…王子様にも手加減ないのぉ…」
「もうこんな茶番懲り懲りだ!」
耳まで真っ赤な顔で怒鳴った桐生はそそくさとデボラを出た。
外に出ると涼しく熱くなった体温を少しづつ戻してくれるようだった。
「(……くそっ、)」
真島からの口付けが頭から離れず口元に手をやる。
次会ったら絶対容赦しない。虎落とし100発……いや10000発当てないと気がすまない。どこかで酒を飲んで忘れようとふらふらと歩き出した。