春に唄う花たちよ「隊長は、桜に似てますよね」
陽の当たる時間が延び、まだ白々としている4月の夕刻。
一日の仕事を終え、隊舎を出た通りを馴染みの飯屋へと歩く六車は、左隣を歩く人物が溢した言葉に目を丸くした。
「あァ?」
見れば、その男――檜佐木修兵は、何処か遠くを見ている。視線を追い、六車も通りの先へと目を向けた。
通りの右脇には九番隊隊舎の広い敷地を囲う背の高い白壁の塀が延びている。それが途切れると、商店や住居やらの列が始まる。
その更に先。幾つもの屋根が重なる更に向こう。
こんもりと、薄い桃色が覗いていた。
「お……あそこのも、満開になったのか」
「みたいっす。やっぱここらでは、あれがいちばん見応えがありますよね」
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