ラピストリアの穴(3)「……どうして私なの。どうして、私を連れてきたの」
草木で蓋された薄暗い道を、エレノアはジェイドの後に続いて歩く。獣道とまでは呼べないが、人間に放棄されてから何年も経ったような荒れた道だ。鋭い雑草が肌を傷つけそうになるのを、器用に避けながら進んでいく。
「キミは当時のことを知ってるでしょ」
「私が手を貸したのは、組織の壊滅と子供たちの救出だけよ。それまでのことは知らないわ」
「施設の見取り図を覚えているなら十分だ。誰かと一緒に確かめたくてね」
何を、と問いかけたエレノアの声を少年は無視した。前を行く彼はしっかりとした生地のケープで草木の刃から身を守っていたが、右腿の辺りに一筋の傷が走っている。少年がうっすらと地面から浮いて移動していることに、エレノアは気付いていた。足跡が付かないし、時々歩くように見せかけるのを忘れるのか、滑るように進んでいる時があったからだ。
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