狂月 三夜 気がついた時には夜は明けており、白濁と汗に塗れた身は清められていた。それを行った人物は今隣で深い寝息を立てている。
最愛の者を奪い、陵辱し、辱めた男。
本来食用肉を捌くのに使っていた黒曜石の小刀なら、柔らかい喉元を掻き切るのは容易い。
小刀を逆手で持ち、煮え滾る憎しみの渦の中殺そうとした時だった。ノクスに甘えていたあの幼子たちの無邪気な声が外から聞こえてきて手が止まる。
皆に慕われ、群れに貢献し、最期の刹那まで姉が愛したノクス。
彼を私怨で殺したら、私もこいつと同じでは無いのか?
私だけが知っている事実とノクスの凶悪性。しかしどこにもその証拠は無い。
私がこいつを殺し、群れを抜けたらアルバはどうなる?病弱というだけで皆から冷淡な目を向けられているというのに、親友を同時に二人も失えば彼の未来がどうなるのか容易に想像できる。
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