思いついたから書きたかった小話 3人でデイリーに行こうと決めたとある日。
一歌がホームに訪れると、白銀の姿はあったが黒金の姿がない。
「しろ、くろちゃんは?」
「・・・・・・まだ来てないっぽいよ」
ホームの隅でぼんやりと空を眺めながら白銀が答える。
「たぶん、しばらく時間かかると思う」
「そっかー。じゃあ今日の格好でも考えていようかな」
座り込んでいる白銀のちょうど近くにある試着室が目に入った一歌。
試着室に入り、くるくると回る。かわいい姿、かっこいい姿、キャンドルが足りなくてギリギリになって手に入れたお面や衣装。
少しずつ貯めてきたアイテム達は、悩むには充分過ぎる量だった。
「うー、しろー」
「・・・・・・何?」
「しろだったら、どんなのがいいと思う?」
悩むのにちょっと疲れてきた一歌は、参考にしようと傍にいる白銀に訊ねた。
「やっぱ、かわいいのかな?」
黒ネコの面を右手に白ウサギの面を左手に、「赤いウサギのお面も欲しいのよね」とひとりごちる一歌の問いに、
「何でもいいよ」
そっけない答えが返ってきた。
「何でもいいって、もっとまじめに」
あまりのそっけなさに思わずカッとなった身を乗り出す。
「じゃあ」
いつのまにか一歌のすぐそばにいた白銀が、両手で一歌の両手首を掴んだ。
動きを封じられたことにより、怒りよりも戸惑いが頭を支配する。
「し、ろ?」
「これがいい」
「これって、ノーフェイス?」
「そう。格好は何でもいいけど、ノーフェイス(これ)は顔が近くなるから」
これがいいと、射抜くような視線。
目を逸らしたくなるが逸せない状況に、どうしようかと思った時だった。
「そこまでー!」
聞き慣れた元気な声と共に、白銀の身体が吹き飛ばされた。同時に両手が自由になる。
「だ、大丈夫? しろ? くろちゃんもやりすぎじゃない?」
白銀に黒金が突っ込んだのが原因だと、一歌は理解していた。
恐る恐る二人に声をかけると、先に答えたのは黒金のほうだった。
「大丈夫だよ、これぐらい。白銀なら耐えられるでしょ」
服についた埃を払いながら、「それより」と一歌に駆け寄ってくる。
「遅れてごめんね、一歌!」
「ううん、気にしてないから、大丈夫。体調はどう?」
「ご覧の通り、今日は調子がいいから大丈夫! 行こう、一歌」
手をつかみ引っ張り出す黒金に、「ちょっと待って、しろは?」と尋ねると「白銀ならワープでもして来るでしょ」とあっけない。
「ちなみにボクは一歌が好きな格好が好きだよ」
まるで今までの会話を聞いていたかのようなセリフをあっさりと言われながら、一歌は黒金に半ば引きずられる形で今日のデイリーがある場所に連れて行かれるのだった。
* * *
「・・・・・・置いて行かれたな」
黒金に吹き飛ばされた姿勢で、白銀は独りごちる。
確かに黒鉄の言った通り、ワープすれば今からでも間に合うだろう。
「あいつ、出てくるタイミングはかってただろ」
間に合う間に合わないよりも、白銀が引っかかった部分はそこだった。
邪魔をしたいと言わんばかりの登場の仕方。
「欲しいものが同じだからか」
独り占めするなと、黒金が離れぎわに残した言葉に苦笑する。
一歌を独占しないと黒金と約束したのを思い出したからだ。
約束した。それは事実。
「でも、欲しいものを欲しいと願うのは間違いじゃないよな」
絶対に手に入れる。誰に言うともなく呟いた決意。
無意識に体を起こしていた白銀は、とりあえず二人と合流するべく星座盤へと向かったのだった。