監視対象・江の者② 少しだけ丈を持て余している内番服を着て、俺は厩舎の前に立っていた。本来ならあまり気が進まない作業だが、今日はいつもと事情が違う。
この俺、本歌山姥切長義は「江の者たちの監視及び観察」という任務を政府から命じられている。中でも、本体が所在不明である豊前江は、重要監視対象として指定されている。
今日の馬当番で、俺はその豊前江と初めて対峙する。豊前江の情報だけなら松井が頼んでないのに山程教えてくれるのだが、やはり本人を直で観察しないと見えてこないこともあるだろう。
身体の奥から込み上げる緊張感。微かに胸が張り詰めるのを感じる。俺は意を決して、厩舎の中へと足を進めた。
厩舎内には、人影がひとつ。それは黒いシャツを着て、上着は腰のあたりに結んでいる。そして、襟足が刈り上げられている。俺は豊前江を上から下まで確かめるように見てから、さりげなく声をかけた。
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