鎮魂歌と恋の調べ鎮魂歌と恋の調べ
・Z×O
・捏造モリモリ、あるのは99%の妄想と1%の公式
・公式の関係図だけを頼りに書いている
・二人の解像度そこまで高くないから口調間違えとかは許して
鎮魂歌とは
死者の魂を沈めるための歌、もしくは慰め落ち着かせるための歌とも言う
こんなふうに彼女の歌を聴きにくるようになったのはいつからだろうか
放課後の音楽室、椅子を反対にして背もたれに腕を預け目の前の少女の歌に耳を傾けるゾンビの少年ゾビー
そしてその目の前の少女は音符から生まれたオンプー
遡ること一ヶ月前ほど
ある日の放課後いつもの如く学園近くのお気に入りの墓地でゾビーは微睡んでいた。
「あぁ…やっぱりここは落ち着くゾビ……このまま昼寝でもし…んー…?」
ふと、校舎の方に耳を傾けるとどこか窓が開いているのか誰かの歌声がかすかに聞こえてきて、そんな歌声にゾビーは身を起こす。
歌というのはそこまで興味があるわけではないのだがどこかこの歌は自分にとって心が穏やかになる…そんな気がする歌だったのだ。
「…誰が歌ってるゾビ?」
気になったのだ、誰がこんなにいい歌を歌っているのか?この曲はなんなのか?
──珍しく、こんなにも興味が湧いたのだ
スロットマシーンを通って音楽室へと足を運ぶ、ドアの隙間から部屋の光が漏れているので覗き見てみる。
そこには黒髪の見覚えのある少女が一人で歌っていた
「…オンプーだったゾビか」
歌っていたのは自分とは違うクラスのオンプーであった。もちろん彼女のことはクラスは違えど同級生として少しぐらいは知っている。
音符のおばけ、歌を愛する少女…そういえばいつもはリディーと一緒にいたはずだけど、今は一人なのだろうか?
そう考えていると、オンプーはドアの外の気配に気がついたようで歌うのを止めた
「誰かいるの?……ってあら?ゾビーじゃない?」
「や、やぁオンプー…」
ゾビーがいることに驚いているオンプー、無理はない…授業以外で彼がここにくるようなことは滅多にないのだから
「どうしたのこんなところに来るなんて?何か取りに来たの?」
「いやぁ…そうじゃないゾビ」
面と向かって話したことはないから少しドキドキする
「じゃあ先生に何か頼まれたのかしら?」
「えっと…さっき歌ってたのはオンプーゾビ?」
「え?えぇ、そうだけれど…」
「…あの歌っていた曲って、なんで名前なんだゾビ?」
「歌…ああ!この歌のことね!」
そういう時オンプーは手にしていた楽譜を見せてきた
タイトルは“ ”…なんとなく西洋とかの曲っぽい
「難しそうな曲ゾビ…」
「えっとね、これは人間がミサっていう祭儀で歌う曲なの。今この曲と同じミサの何曲かを練習してて…この歌にも歌う意味があるのよ?」
「意味?」
「ええ、死者の魂を鎮める…もしくは慰めて落ち着かせるための歌…そういう歌を“鎮魂歌”って呼ぶの」
オンプーの説明でなんとなく腑に落ちた、なぜこんなにもこの歌に惹かれたのか
死者…ゾンビであるゾビーにとっては相性が良かったのだろう。
「だからゾビ…」
「どうしたの?」
「だから、この曲がとてもいい歌だって思ってここに来たんだゾビ」
「あら…」
「……えっと、練習中って言ってたゾビね…もしオンプーが嫌じゃなければ、また聞きに来てもいいゾビ?」
「!!」
「ダメ、ゾビか?」
「ダメじゃないわ?むしろ聞いてくれる人がいると気が引き締まるというか、やる気が出るというか……うん、もし気が向いたら来てくれると嬉しい」
「よかったゾビ…!また聴きにくるゾビ!」
そうしてその日は別れたのだ
そこから放課後彼女が一人で練習してる時にゾビーは音楽室に足を運んだ。彼女の奏でる鎮魂歌が一つ一つ完成されていくのが楽しみで嬉しくて…今となってはゾビーの放課後の楽しみの一つになっていた
そして今、いつものように聴きに来て初めて聴いたあの曲の練習が終わったのだ
「〜〜♪……どうかな?」
「すごいゾビ!!今まで頑張った甲斐があったってわかるぐらい綺麗に歌えてるゾビ!!」
思わず拍手をする彼に少し照れ臭そうに微笑む
「ありがとうゾビー、聴いてくれて!!…でもこう毎回同じ曲だったから飽きちゃったんじゃない?」
「そんなことないゾビ。もちろんこの曲も好きだけど……」
「けど…?」
「オラはオンプーが歌ってくれてたからずっと聴いてられたし、オンプーの歌が大好きなんだゾビ」
「!!」
自分の思った感想を伝えると彼女は赤くなる、それと同時に“自分もしかしてとんでもないこと言っちゃった?”と気づき思わず焦ってしまう
「い、いいい今のはそのプロポーズとか告白とか!!!そういうのじゃ全然ないゾビよ!?」
「そ、そうよね!?やだ私ったらびっくりしちゃった!!」
焦ってテンパって二人で問答して、落ち着いてから改めて向き直る
「…でも、オンプーの歌が好きなのは間違えてはないゾビ、それだけはわかって欲しいゾビ」
「…ありがとう、それだけでも嬉しいわ」
「…そ、そろそろ夜明けになっちゃうから帰るゾビ!!ま、また明日ね…ゾビ」
「え、ええ!!また明日…」
微妙な空気に耐えきれなくなって逃げるように帰るゾビーの背を見つめる
「……純粋に私の歌を褒めてくれただけだよね?」
火照る顔を抑えて一人誰もいなくなった音楽室で呟く
「……あんな顔で言われたら、ドキドキしちゃうじゃない」
あの笑顔が忘れられなくなって、初めて感じるこの気持ちをどうしたらいいのか、この感情はなんなのか…
一人そんな思いを抱えたままその日は夜明けを迎える…
それから、なんとなくゾビーといることが多くなった気がする
多いと言ってもずっといるわけではなくて、以前と同様音楽室での歌の練習もそうだし、カフェテリアでたまたま会ったら一緒に食事したりと…前まではなかった距離感に内心少しの戸惑いもありつつもオンプーはそんな時間を楽しいと思っていた。
二人が違う距離感になったと思うのと同じで二人の関係性の少しの変化を周りが見過ごすわけではなかった…
ある日のカフェテリア、その日は時間帯が合ったゾビーと一緒に練習曲の感想やあれこれを話していた時だった。
テレビからノイジーの緊急ニュースの放送が入った
『緊急ニュースです!!なんとこのミッドナイトスクールに新たなカップル誕生疑惑が噂され始めていると情報が入りました!!』
「またそんな疑惑かぁ〜……」
「相変わらずだなぁノイジーは…」
カフェ内の端々でニュースに対するコメントがつぶやかれている中ノイジーから発せられた名前に周りも、二人も顔を見合わせる驚くしかなかった
『なんとその疑惑のある二人は…ゾビーとオンプーなのです!!!』
「ゾビ!?」「えぇ!?」
その発言の後周りの視線が二人に集中してカフェ内がざわつき始める
「あの二人が…?」
「いやいやまさか…」
「でも最近一緒にいるの見かけない?」
「もしかして今回はノイジーの言ってるの間違いじゃないのかも…?」
自分たちを見ながらヒソヒソ話をするみんなの目線にオンプーは
「ちょ、ちょっと待って!!ゾビーとはそんな関係じゃ…」
そう言い切る前にカメラを持ったノイジーがエレベーターから突撃してくる
「早速インタビューしていきましょう!!さてお二人はいつ頃からお付き合いを始めていますか!!」
「の、ノイジー!!付き合ってはないわ!」
「最近お二人が一緒にいるのを目撃された生徒が多数いると話もありますが真相の方は!!」
「だから〜!!!」
「の、ノイジー!流石にもうやめて欲しいゾビ!」
質問攻めについに我慢できなくなってオンプーは叫ぶ
「だから!!“まだ”付き合ってはないんだってば!!!」
一瞬でカフェテリアが静かになる
それと同時に今自分が何を言ったのか
「ま、まだ…?」
「ま、まだと言うことはこれからお付き合いすると言う考えがあるってことですか!?」
「や、あの、違
「お、オンプー…?」
「〜〜〜!!!」
恥ずかしくて怖くて泣きそうで、心がしっちゃかめっちゃかになってエレベーターに走っていってカフェテリアから逃げ出した
「オンプー!待ってゾビ!!」
そんな彼女の背を追いかける
息を切らしながら外の校舎の陰に逃げ込む
「ハァ…ハァ………っ、……どうしよう」
壁にもたれ膝を抱えてうずくまる
なんで自分は“まだ”なんて言ったのだろうか?
もちろん憶測でニュースにされて挙句に質問攻めされたことには怒っていた、でも…
(……彼とそんな仲になったって言われて、嬉しいと思った自分もいる)
でも、自分はそうだったとしてもゾビーは?彼はどう思っているのだろう?同じだったのかな?それとも嫌だったかな…?
もし嫌で、今までの関係が壊れちゃったらどうしよう…もうあの日みたいに歌を聞いてくれなくなっちゃうのかな…?
一緒に、いられなくなっちゃうの、嫌だなぁ…
「ぁ………」
そんな思考を巡らせてオンプーは気づいてしまったのだ
「…私、好きだったんだ。ゾビーのこと」
気づいた途端に目から涙が溢れる
好きなのに、自分の気持ちに気づけなくて、付き合ってないって言ってもしかしたら傷つけたかも知れなくて…
「どうしよう、あったら、謝らなきゃ…でも、でも今更…どんな顔であったら……」
泣いて動けなくて、自分自身でも情けなくなってきた
そんな中、隣で声がした。
今一番聴きたくて、聴きたくなった彼の声
「オンプー、大丈夫ゾビ……?」
心配そうに顔を覗き込み背中をさする
「ゾビ、わ、私、わたし…」
「落ち着いてゾビ。大丈夫、あのニュースなんて気にしなくていいゾビ」
「ゔん、あの、ゾビー…ごめんね」
「なんでオンプーが謝るゾビ?」
「あのとき、付き合ってないって、叫んじゃって」
「?」
「それ、なんか今までのゾビーとの関係、否定しちゃったみたいな、言い方で…もしかしたら、嫌だったかなって…も、もう今までみたいに、話したりできなくなっちゃいそうで…っ!!」
「そんなことないゾビ。あんなことで壊れるオンプーとオラの関係じゃないゾビ」
「よ、よかった…」
「その、寧ろ……“まだ”ってことは、オラの行動次第では付き合ってくれるってことゾビね?」
「え……」
予想外の返答が返ってきた
「……前にオンプーの歌が好きって言ったの覚えているゾビ?」
「うん…」
「…歌ももちろん好きだけど…こうして話したり会ったりしていくうちにオンプー自身のことも好きになったゾビ」
「え」
「うん、やっぱオラ、オンプーの事が大好き」
「え、えぇ!?」
「い、嫌だった…?」
嫌じゃないと首を横にブンブン振る、すっかりさっきまでの涙は引っ込んでいた
「ぞ、ゾビー…あのね!!わ、私も…あなたのこと、好きよ?多分今あなたが私に向けてくれている気持ちと同じぐらい…」
「ほんとゾビ!?な、なんかそうとわかると照れちゃうゾビ…」
「えへへ…そ、そうだね」
いざお互いが好きだとわかるとまたあの日みたいに気まずい沈黙が流れてしまう
「な、なら付き合って
「ま、待って!!その、私からそんなこと言う権利ないのだけど…いざ付き合うってなったら、心臓が保たなくなりそうで…その、えっと…」
「……わかった。ちゃんとオンプーの気持ちが落ち着いたら、その時はまた…告白してもいいゾビか?」
「ええ。私でよければ…」
どちらともなく互いの手を握り笑い合う
──そんな一つの騒動から結果的に良い方向へと向かった、そんな夜なのだった
おまけ
目立たないパーティーにて
「それでね、リディーちゃんがね…あ、なんか歌が聞こえる…?」
「本当なの、校舎から聴こえる…」
話が盛り上がる中ふと後者から歌声が聴こえる、その歌にゾビーはハッとした顔をする
「どうしたボロ…?そんな顔して」
「その、みんな…えっと」
返答に困っていると何かを察したような顔でフォントンがカードに文字を書く
《待っているんだろう?行っておいでよ》
「…うん。ごめんみんな、大事な人を待たせているゾビ。また今度続きを聞くゾビ!!」
そうして墓場から駆けていく、そんな背中を残ったメンバーが見つめる
「ゾビー、最近なんか楽しそう…」
「もしかしてこないだのニュース、本当になったボロ…?」
「ふ、フォントン何か知ってるの…?」
《さぁ?でもなんとなくそうかなって》
いつものように、あの日のようにスロットマシーンで音楽室へ
ドアを開けると愛しい君がそこで待っている
目線があって部屋へと足を進める
「ゾビー、此間の返事を…」
きっとその先に待ってるのは、二人だけの幸せな時間だけだろう
終わり