幻「るし、るしふぁー。はやく、おねがい、たすけて」
深夜、自分の部屋で椅子に腰掛けアヒルを作っていると、扉がバンと開かれ、アダムが足をふらつかせながら入ってきた。彼は私の前に来て蹲り、私の袖をぎゅっと縋るように掴んだ。今にも泣きそうな目でこちらを見ている。私はその愛らしい姿に思わず笑いそうになったが、唇を噛んで我慢して、ブルブル震える彼の背中をさすった。
「どうした?また怖い夢でも見たか」
「りゅーと、りゅ、と、が、しねって、だてんしめって。わたし、りゅーとに、やだ、こんな、みないで、くるしい、こわい」
「アダ厶、大丈夫だ。私がいるじゃないか」
アダ厶の周りを羽で囲って、耳元で囁く。そして両手で彼の顔を包み、金色の瞳をじっと見つめた。彼のゆらゆら揺れる目に、私の姿が反射している。早く楽にしてやろう。
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