やり直しましょう、お姉ちゃん③ 弟に恋人ができた。
僕の可愛い可愛い、聡明で、勇敢で、優しくて、かっこよくて、目に入れても痛くないほど愛おしく思っている弟が、恋人を作ってくれたのだ。
…………………………………………………………やばい、顔がニヤける。ようやくあの子も寄り添える人を見つけたのだ。こんなに嬉しいことはない。反対なんてするはずがない。だって僕の可愛くて聡明な弟が決めた人なら文句ないし。しかもエンデヴァーだよ?僕の可愛い可愛い弟が小さい時から好きだったエンデヴァー。そんなの反対できる訳ない。
それにエンデヴァーなら僕より啓悟のこと大切に、幸せにしてくれる。今まで疎遠だった僕が啓悟を幸せにできる筈ないし、何より今さら姉貴ヅラとか図々しいでしょ。僕なら「今更何なの?」って絶対零度の眼差しで拒否するね。啓悟もきっとそうでしょ?……………………啓悟にそんなことされたら僕生きていけないわ…最悪死ぬ…最悪でなくても死ぬ……。
「………………さっきから何を1人で百面相してるんですか?」
「何でもないでーす。何かありました?」
「いえ別に…先日のホークスとの食事はどうでした?」
「最高としか。というか目良さん!ホークスに連絡先教えるならそう言ってくださいよ!突然電話かかってきてすっごい驚いたんですけど?」
「あーすいません。許可取るの省いてしまいました」
「報告連絡相談は社会人の基本ですよ?それでよく公安が務まりますね」
「某トリプルフェイスですか君は」
キーボードを叩く手を止めずに、隣席の目良さんと軽口を叩く。目良さん安◯さん知ってるんだ…意外……。
食事会楽しかったなぁ…ガチガチに緊張していた啓悟は可愛かった…話が終わってからも残ればよかったかな。いやでも新婚さん……結婚はまだしてないか。新カップルさん?のお邪魔するのは気が引けるし、早々に僕だけ帰って正解だよね?眺めの良い部屋を抑えたからそれなりに楽しめたはずだけど、どうだったかな…聞いてみようか?いやそれは野暮ってやつか。
それにしても、あの人からの食育という名の矯正受けといて良かったって初めて思った…あの場で自分だけ食べないってかなり気まずいし申し訳ないよね…食事って大事なんだなぁ…これからはもっと真面目に食育受けとくか…?いやでも正直緊張するんだよなぁ…今日も公安に来るって聞いたし、食育されるのか…いい加減慣れないとだけど…。
「……………朧さん?聞こえてます?」
「ハイなんでしょうか!?全く聞こえてませんでしたすいません!」
「正直ですね…まあいいですけど。いつものお迎え来てますよ」
「あー………………………………………………ハイ。アリガトウゴザイマスイッテキマス」
噂をすれば影がさすってやつかな?僕はパソコンをスリープ状態にして、上着を羽織る。今日吊るしのスーツじゃなくてパターンオーダーのスーツ着てて良かった。身だしなみぴっちりしてないとここも矯正されちゃうからね…あの人隙あらばフルオーダーのウン百万のスーツ仕立てようとするからなぁ……そんな高いもの着て仕事なんてできませんが?
「お待たせして申し訳ない」
「いや、身支度を見るのを楽しんでいたから問題ない」
「…僕の身支度って、上着羽織ったぐらいですけど?」
「君の所作は凛としていて、美しい。スキニージーンズのようにね。見ていて飽きない」
「…………………………アリガトウゴザイマス」
こんなのに慣れてたまるか、と頭を抱えたくなる。さらっと褒めてるのか口説いているのかわからんこと言いやがってこの人は…!スキニージーンズのような所作ってなんだ…!?というか毎回こっちがどんだけ心拍数上げてるのかわかってやってんのかね…!?
「では、行こうか」
「…………シュア、ベストジーニスト」
「君とこうして食事するのも定番化してきたな」
「…定番化っていうか、あなたが公安に来る度に強制的に連れてってるんじゃないですか」
「そう、矯正するためにね。3食を携帯食料かサプリメントで済ます食生活はいただけない。栄養バランスのいい食事を取り、健康に長生きしてもらわないとな」
「………矯正だけに強制ってことですか」
「ハハハ、面白いこと言う」
ベストジーニストに連れてこられた中華料理店の個室で何ともくだらないジョークを言ってしまった。この人といると調子狂うというか…何というか……まあ嫌じゃないけどさ…。
「そういえば、先日ホークスとエンデヴァーの3人で食事に行ったそうだな」
「…何で知ってるんですか?」
「その食事会の後に2人から呼び出されてね。私もご相伴に預かったよ。お代は君が払ったとのことだが、私の分はいくらだったかな?払うよ」
「いや…お気になさらず……接待交際費として処理しますので……」
「おや、プライベートなのにか?」
「そのつもりであの料亭にしたので…………と言うか待ってください。なぜ呼び出されたんですか?何かありました?」
ベストジーニストを呼び出した?なぜ?何のために?僕何かやらかした?いやそれだったら僕だって公安の人間なんだから気付くはず…。えっやらかしてないなら僕の愚痴とか?「姉貴ヅラしてきて〜」とか愚痴ってたとか?泣いていい?
「……そんな絶望した顔しなくてもいい。ただ相談を受けていただけだ」
「………………………………………相談、ですか?それは…僕が聞いてもいいことですか?」
「そうだな…ここで教えてしまってもいいが…根本的な解決には繋がらないな。となると私にとって非常に面倒なことになる」
「ベストジーニストにとって面倒なこと…?」
「ああ。とても面倒なことだ。とてもな」
すごい圧かけてくるじゃん…?どんだけ面倒なことなんだろう…。
「と、いうわけで強制的に矯正させていただく」
「もしかしてそのギャグ気に入りました?」
「すれ違いやまわり道をあと何回過ぎたら2人は触れ合うのかわからないのでな。◯日の夜、再度食事会だ。君は引きずってでも連れて行くのでそのつもりで」
「タッ◯!?てか僕の扱いが雑!何かしました!?」
「君の弟のせいだな」
「何したのあの子!?ベストジーニストのキャラが崩壊するほど何やったの!?」
「詳細は省くが週5で恋愛相談を受けた」
「誠に申し訳ありませんでした」
いや週5って……奥手にも程があるでしょ啓悟…。というかちゃんと相談にのってたベストジーニストいい人すぎないか?今度お礼した方がいいよね…。ベストジーニストにお礼………………………………全く思いつかない。ええい聞いてしまえ。
「……………姉弟共々お世話になったお礼をしたいのですが何がいいですか?」
「お礼?そうだな………………」
ベストジーニストは腕を組んで考える。絵になるなぁ…かっこよ…写真撮りたい………撮っていいかな…?………………………………いや盗撮では?盗撮は犯罪です。盗撮ダメ絶対。No more 写真泥棒。………………………写真泥棒とは???ダメだ頭がバグってやがる………落ち着けよ僕……確かにベストジーニストのファンだけど、ファンクラブ入ってるし、グッズや雑誌は毎回買ってるけど!落ち着けよ犯罪はダメだよ!
「……朧、聞いてるか?」
「すいません聞いてませんでした」
「正直だな。偉いぞ」
ベストジーニストは僕の頭を撫でる。そういうとこやぞベストジーニスト。
「そ、それよりお礼!お礼は決まりました?」
「そうだったな。では……」
ベストジーニストは撫でる手を止め、真っ直ぐに僕を見た………………待ってこっち見ないで欲しい。目を逸らしたい。助けて啓悟。目の前のイケメンをどうにかして欲し「私と付き合ってくれ」…………………………………はぁ?
「……………………………………………それは、どこにですか?って言ってもいいやつですか?」
「ああ、漫画とかで鈍感なヒロインがよく言うセリフだな。実際に聞くのは初めてだ」
「僕も実際に言うのは初めてですよ。というか漫画読むんですね。何読むんですか?」
「最近は呪術◯戦かな」
「まさかのラインナップ」
面白いよね、呪◯廻戦。僕、七◯建人が好き。最近は夏◯傑も好きなんだよね。映画最高だった。めっちゃ泣いたわ…………………………じゃない。現実逃避してた。付き合う?え?誰と?僕と?冗談でしょ?冗談だよね?ベストジーニストと僕なんかが釣り合うとでも?いやいやいやいや合わないって。ベストジーニストにはもっと可愛い子とか綺麗な子とか…ちゃんと女の子っぽい人が似合うって。僕なんか可愛くないし綺麗でもないしよく男に間違えられるし……えっ僕女として終わっているのでは…?涙出そう…。
「あの………………ベストジーニスト…付き合うって………冗談ですよね……?」
「……(すごく戸惑っている顔をしているな。子犬感があって可愛い。飼いたい)」
「あの……ベストジーニスト?なぜ無言で頭撫でるんですか?ちょっと?聞いてます?」
「ああ、聞いてない」
「わぁ正直。じゃなくて。聞いてくださいよ。冗談ですよね?ね?」
「(必死だな。可愛い)ああ、冗談だ(と言うことにしてやろう)」
「よかった…」
よかった…本当によかった……洒落にならない冗談言うのやめて欲しい……肝が冷える…。
「……安心したらお腹空きました。ご飯お代わりしていいですか?」
「たくさん食べなさい。大盛りでいいか?」
「いえ小盛りでお願いします」
大盛りなんで絶対残しますって…まだたくさん食べれないんですから……。
「………………ちょっと待ってください。結局お礼の内容聞いてないです」
「律儀だな君は…………では私の事は名前で呼んでくれ。プライベートの時だけでいい」
「名前……袴田さん?」
「下の名前で」
「…………………維さん?」
「…………(可愛い)」
「だから頭撫でるのやめてください」
僕のことペット扱いしてません?