君のため、私のため 猪野はその日、任務を終わらせ事務室に報告書を届けに行こうと高専の廊下を歩いていた。
ここの角を曲がれば事務室だ、と歩を進めると、曲がった瞬間に何かにぶつかる。
「いっ…すみませ、」
「おっと…なんだいキミは?…おや、よく見れば猪野家のところのご子息じゃないか」
謝ろうと見上げると、スーツを着た中年男性が5人ほど。
何故自分の名前を知っているのか。考えていると先程ぶつかった人が話しかけてくる。
「はじめましてかな?私たちは高専の上層部のものだ。キミのことは聞いているよ、猪野琢真くん」
貼り付けたような古参臭い笑みを浮かべる上層部の男に、猪野は軽く会釈をする。
「いやぁ、それにしても聞いた通り、本当に可愛い顔をしているね。若いっていいものだ」
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