匙加減 昨夜の夢は変だった、と愛之介は言うのだ。彼は菊池の方に顔を向けながら続きを言った。「僕は一番好みの味を探していて……」それから黙った。ゼリーを食べるためだった。
「一番好みと言うのは、お菓子のことですか?」
菊池も彼に倣ってゼリーを頬張りつつ、また愛之介の方にスプーンを差し向ける。二人で食べているとすぐに無くなってしまうのだ。愛之介にやる分は多く掬った。自分の分は、ほんの小さな、粒みたいな形でもいい。
手を掴まれて、彼に向けたはずのスプーンが自分の方を振り返る。そのまま口元へと押し付けられるから素直に食べてしまった。果肉の入った旨いゼリーだ。
「僕はもう要らない」と言いながら、愛之介はチェアの上で足を組んだ。テラスは、秋を(とは言っても、この土地らしい暑さの秋だ)を感じさせる風を屋内の方へと吹き込ませている。外と室内のちょうど中間にいるのだ。風の流れが気持ちよかった。
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