2021.12.29
キスを重ねるごとに、器用な爪先がぷつ、ぷつとベストをひらく。布越しの冷えた空気が近付くのを少しだけ不快に思いながら、受け入れてくれる口内を暴く。
生ぬるい。俺より少しだけ低い総士の温度は、だからこそ興奮を誘う。
「ん……ふ、ん、んむ」
健気に応えようとする舌と、裏腹にもっと寄越せと引き寄せる強引な手に、こちらからも熱を与えるつもりだと髪をすくった時だった。
カツ、カツと軽い足音が二区画ほど向こうから聞こえた。女性の履物の音だ。誰かに見られてしまったらしい。
口止めをしておくべきだろうか。この、堅物が人目に付くところで行為に及ぼうとしているなど誰も信じないだろうけれど。
「甲洋」
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