(どうせ聞いても馬鹿にされるだけだろうけど)
「なぁオニイチャン」
頬杖を付きながら気怠げに喋るダンテに対し、
テーブル向かいの片割れは顔も上げずに本に目を落とし続けている。
今は知っている。あれは、文字に目を向けることで考え事に耽っているのだ。そんな兄の気を引きたかった頃の感覚はもう忘れてしまったのに、物静かに本を携える姿はついこの間まで見慣れた姿を思い起こさせる。
「完全な人間だったらって思ったことないか?」
「もうなった」
ない、愚かな考えだ、無視などの反応を想定していたダンテは、想定外だった即時の返答に自分がなぜそんな問を発したのかの理由すら頭から吹き飛んだ。
(きっと、なんとなくだろう。それより)
遅れてバージルの返答の意味を考え、答えはすぐ目の前にあることに気付く。
1937