「今どき錠前なんて、アナクロですねぇ」
二人だけの室長室。外は騒然とし、扉を開けんと奮闘する人々の怒号が聴こえる。
後ろ手に手錠をかけられ、床に転がされた百貴は、
「お前みたいな知能犯には有効だよ」
と返す。飴色の机に座った富久田は、肩をすくめ、
「たしかに。監房やこの部屋のセキュリティみたいに、電子ロックなら解けたんですけど。職員名簿が保管されてる肝心の金庫は物理的に鍵で封されてるときた」
「俺は蔵の職員全員の生命の責任も負っている。逆恨みした囚人から危機が及ばないよう努めている」
「逆恨み?とんでもない。俺は会いたいだけですよ、お嬢ちゃんに」
「『今』は無理だ」
「でも『いつか』を迎える前に、俺は名探偵をしてる最中死ぬかもしれないからさ。折れてくださいよ」
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