Recent Search

    shido_yosha

    @shido_yosha
    お知らせ=日記です。ご覧になんなくて大丈夫です!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 91

    shido_yosha

    DONE鳴+百。
    「同じ場所に辿り着いていたらいいですね」
     鳴瓢が目覚めたとき、視界に映ったのは、暗い足元と身体の前面を覆うチェスターコートだった。コートは鳴瓢の所有するものではなく、平素親しくする先輩の香水が香った。
     曖昧模糊とした意識で目線をあげる。どうやら誰かが運転する車の助手席で居眠りをしてしまっていたようだ。
     五人乗りの車両は現在夜の高速道路を走行しているらしく、右車線や前方を並走するのは普通車より運送会社のトラックのほうが多かった。
     隣の席へ首をまわす。短髪で端正な横顔が、テールランプに照らされて窓辺に頬杖をついていた。普段は皺がつくからと嫌がるのに、珍しく、ライトブルーのワイシャツの袖をまくっている。
    「……ももきさん?」
     鳴瓢が掠れた喉で呟くと、運転手はこちらを一瞥して、
    「起きたか」
    「あれ……俺なんでここに……」
    「はは、寝ぼけてるのか。湾岸警察署と合同捜査してやっと事件を解決した帰りだ。五日間不眠不休で走りまわって、犯人捕まえたとたん、お前、ばったりと倒れたんだぞ」
    「そうでしたっけ……でもこのまま直帰しないんですよね」
    「ああ。あそこへ向かわなきゃならないからな」
    「はい。あの場所に必ず行かなければならない」
    2872

    shido_yosha

    DONE百貴さんと富久田さんが面談する話。
    *本編後富久田生存設定
    「何の話をしたい。今日は私が君の質問に答える番だ」
     白銀の取り調べ室。百貴はスチールテーブルのうえで指を組んで訊ねる。相対する富久田は鉄製の椅子にもたれて、
    「室長の名前には数字が二つ入ってますね」
    「百……と二つめは?」
    「太郎っておおむね長男に命名するでしょう。一番だ」
    「なるほど」
    「どちらも人気の数字ではありますよね。100%、百発百中、100周年。1だって、一等賞になるのは誰でも好きでしょう。1は全ての整数の約数にあって、自分以外の約数を持ちません。孤高で原初の数字です」
    「君はあまり好かないようだな」
    「ええ。自信過剰な数字です」
    「0が生まれたのは1より後だったか」
    「はい。何桁もの計算は紀元前三千年にはメソポタミアでなされてたんですけど、六十進法を用いてたので0は存在しませんでした。紀元前数世紀には、63と603を区別するため6と3の間に記す記号はありましたが。インドの数学者が演算しうる数字として0を発明したのが七世紀頃です」
    「記号でなく数字としての0のおかげで大きな数の計算が容易になったんだったっけか。0は始まりも表すよな」
    「事象を計測する際の起算点ですね。距離 3882

    shido_yosha

    DONE愛されミナトさん。ミナト最高司令官が禁煙を始めたらしい、という噂が、一部のシティ住人の間で囁かれた。彼の素体としての身体は、代替のきく人工物であるから、健康にいいとか特段騒ぐことではないのだが、電子煙草は彼のトレードマークだった。だから彼を知る者は。心配半分、好奇心半分の興味を抱いた。
    「ミーナトさん」
     久方ぶりに素体姿でシティを散歩していたミナトへ、最初に声をかけたのはナツメである。
    「うん?」
     ミナトが振り向くと、目の前に橙色の長い髪をした女性タンカーが立っていた。
    「煙草、やめたんですか」
    「む。誰から聞いたんだ」
     ここは旧司令塔を基礎にしてつくられた展望台。デカダンスシティを一望に見渡すことができ、ガラス壁を介して屋内とデッキに分かれている。
     ミナトは前職を担っていたころからこの高台を愛用していた。当時とは異なり、今では役職と種族にかかわらず万民が憩うことが許されている。
     女性タンカーはにっこり笑うと、
    「口寂しいでしょう。どうぞ」
     とミナトの掌に小さな包みをのせた。
    「なんだ。これは」
     リボンを解くと色とりどりの宝石の欠片のようなものが詰まっていた。ナツメは、
    「琥珀糖です」
      5281

    shido_yosha

    MAIKING青白く光る、無機質で、窓のない空間。生物の気配は一切排除され、楕円形のガラス製のプールが床を占拠している。貯水槽を満たす無色透明の液体は、微量の電流さえ伝える電解質が配合され、半永久的に潜水できる酸素濃度が保たれている。人間の深層心理を顕現させるミヅハノメの中枢。
     わたしは水底へとつながる白亜の階段をおりる。肩と腰が露わになったデザインのスイムスーツは撥水と伸縮性に優れ、白地に緑色の電極が取り付けられている。この宮殿も正礼装もわたしのために作られていてる?
     頭上のスピーカーから、
    「カエル、やれるか」
     と、あのひとの声がする。私は耳にかけた防水性のマイクへ是を答える。
    「よし、鳴瓢を準備させろ。『飛び降り』のイド構築後迅速に投入」
     平素、蔵の外でのあのひとは、敬語と敬称を欠かさない親切な人柄だ。しかし職務中となるとわたしやパイロット呼び捨て冷然と指示をくだす。おそらく前局長からくりかえし教育されたのだろう。わたしを自我ある生命体ではなく、世界を出力する機構として扱えと。そしてそれは半分正しい。
     鎮静剤が効いてきたわたしは微睡む。わたしの役目は、連続殺人鬼達の殺意が顕現した世界 7114

    shido_yosha

    MAIKING100日後に死ぬ鳴瓢〜プロローグ〜
    「先日頭のMRI撮ったんですけどね。お医者さんが『あなたは人より扁桃体が大きいですね』って言うんですよ。『普通、危険な状況や不快な物に直面したら、立ちすくむか逃げるのですが。あなたは近づいたり攻撃したり……ようは飛びこんだり飛びかかってしまうようですね』って」
     雲ひとつない青空。病院の屋上。晩秋の木枯らし。ベンチに寝転がる鳴瓢が、歌うように話す。
    「扁桃体というのは大脳辺縁系の一部で、感覚情報に対して、すぐさま快・不快、有益・無益を判断して、感情や行動を起こす場所らしいです」
     隣に座る百貴は、
    「それは褒められてるのか?軽蔑されてるのか?」
     と眉間を曇らせる。鳴瓢は、
    「真面目で看護師さんにも丁寧な先生でしたから『心配』でしょうね。俺、あのひと好きだなぁ」
     百貴は掌で缶コーヒーを転がす。
    「それが俺の、『お前は何故怪我をしてまで無茶するのか』という質問の答えか」
     怒気と呆れを含んだ問いは、「答えになると思っているのか」という揶揄がこめられている。
     実際、鳴瓢は患者着姿の頭と腕に包帯を巻いている。二人は刑事部捜査第二課に所属する警察官であり、百貴は今日、犯人を 9679

    shido_yosha

    MAIKING保春の本堂町が妊娠したとき二人や周りはどう動くのか考えたかった
    あと富久田にあえて「世間的にありふれた幸福」を付与してみたかった
    「…マジで?」
    と富久田が驚きと困惑を混ぜた間抜けな声を漏らしたのは至極当然のことであった。
    「まじで」
    と頷いた本堂町の方も、喜びのなかに緊張を孕んだ面持ちをしている。
    富久田は、やはり信じられないという表情で本堂町の腹部を凝視する。
    「子供がいるの。そこに」
    「うん」
    「そっかぁ」
    ソファに腰掛ける富久田は、本堂町の手を引いて、自分の脚と脚の間に座らせる。小さな身体を後ろから抱きしめて、彼女の下腹部を両手で包む。彼の広くて白い手の甲に、本堂町も掌をかさねる。
    富久田は背広を着た小さな肩に顎をのせて、
    「聞いてはいたが、避妊してても100%じゃねぇんだな」
    「そうだね」
    「……ごめん」
    「どうして謝るの」
    「あんたに負担をかける」
    本堂町は、「馬鹿ね」と首を巡らせ、富久田の頭を撫でた。
    彼の方が遥かに体が大きくて、年齢も十歳上だというのに時々そんな気がしない。しょんぼりとうなだれる彼は、まるでペットの大型犬のようだ。本堂町は、
    「富久田は嬉しくない?」
    と尋ねた。すると、耳元にぼそりと、
    「嬉しいから困ってる」
    と返ってきた。
    本堂町は、こんなときに口にできる言葉を持っていなかったの 1043