コンコン。
節くれだった拳で室長室の扉を叩く。
入っていいかという問いかけ、ではなく、入室する際の単なるくせと化していたので、松岡は返答を待たず、ノブを回して押した。
「よぉ。入るぜ」
刑事時代の部下で、現在直属の上司にあたる百貴船太郎が書斎机に向かって座っている。
「お前が寄越した捜査資料なんだが……っと」
松岡は咄嗟に声量を下げた。窓から射す夕陽が、短髪の頭頂部を照らしている。珍しいことに、平素は真面目で精勤に励む百貴が、腕を組んで居眠りをしていた。
松岡は足音をおさえて忍び寄り、スタンドミラー横のブラインドの紐を引いた。室内がうす暗くなり、松岡は彼の寝顔を凝視する。ニ年前と比べて明らかに目元の熊や皺が増えていた。
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