万寿菊は散り際に唄う厨房に立ち、忙しなく鍋の前を行き来する。
それは小さな実験を行なう男にすれば、そう珍しくもない習慣であり、料理仲間であるルルティエもそこに伴う事が少なくない。
今日は芋と穀物の崩れた余りを組み合わせて、揚げ物でも出来ないか。
そんな事を自分が呟いた事に端を発して、試しに素案だけでも構築するかと、出来た暇を使ってみることにしたのだが。
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………なあ、えっと、アルルゥさん?」
ぐいぐいと、無言で黒髪の皇女が、こちらに向かってくる。
料理の手を止めることは出来ず、だが、何も言わないこの辛うじて知人といえる娘がちょっと怖い。
「何、ハク」
「い……いやあ。親善大使の仕事は、どうしたのかと。片割れ……カミュさんだったか、は宴に参加してるんだろう?」
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