無題『英様、到着しました』
「ああ、すまない」
その声はどこか人ならざる者のような感じがしてならなかった。
目と鼻の先だからいいと断ったにもかかわらず中央は実家に送迎の車を寄越した。フルスモークの真っ黒なセダンは英を乗せて指定の場所へと連れて行く。
人でごった返すセンター街を入って少し歩いた先の路地にある中華料理店のあるビルの地下にそれはあった。
届けられた隊服と刀を身に着け、必ず徒歩でセンター街の入口のアーチをくぐれとの指示にばかばかしいと思っていたが、そこにはあちらへの入口があると知り中央の趣味の悪さには呆れるしかなった。
隊服と刀を身に着けると存在が曖昧なものとなるらしく、このような身なりでも誰も気に留める者はいなかった。
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