酷い男と、優しい男大きな手が、力強く肩を掴む。
押し倒され、組み敷かれた身体が、ひんやりとした畳の冷たさを吸う。
ざわざわと伸びながら組み敷いた身体を逃してなるものかと蠢く銀糸は、獲物の四肢を掴んだ後、ほんの僅かに撓んだ。
「なあ、ゲゲ郎」
己を拘束する男の名を呼ぶ。その声色も、瞳の藍錆も、風のない日の水面のように凪いでいる。
ゲゲ郎。
もう一度、ゆっくりと含ませるように名を呼ぶ。呼ばれた男は返事をせず、覆い被さったまま動かない。スゥ、と大きく息を吸い、膨らんだ獲物の胸元を、銀糸の隙間から紅い瞳が見つめている。
「……わしは、今から、お主に“酷い事”をするぞ」
低い声で、そう呟く。
「“酷い事”をするぞ。この手も足も、離してなどやるものか。お主が解ってくれるまで、自由になどさせてやるものか」
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