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DONEanzr匠メイ(VD)
製作中のチョコを盛大に零したメイちゃんと、駆け付けた火村さん
チョコレイトの雨がふる(匠メイ) 屈みこんだ時にはもう遅かった。目先でカラン、と派手な音を立てて、ステンレス製のボウルが落下していく。私の反射神経では受け止めることすらままならず、結局スローモーションを追うようにチョコレートが跳ねる様を眺めることしかできなかった。テンパリングは素人の割にはそれなりに上手く進められているなと思っていたけれど、僅かに油断をしたのがいけなかったのかもしれない。
ともあれ、いくら嘆いたところで後の祭りだ。いつもならきれいに整えられている事務所のキッチンは見るも無残な惨事に陥っており、辺りには場違いなほどねっとりと甘い匂いが立ち込めている。
「メイちゃん!」
血相を変えた火村さんはすぐさま駆け寄り、チョコレートに塗れてぼんやりと床を見つめている私の手を取った。
1402ともあれ、いくら嘆いたところで後の祭りだ。いつもならきれいに整えられている事務所のキッチンは見るも無残な惨事に陥っており、辺りには場違いなほどねっとりと甘い匂いが立ち込めている。
「メイちゃん!」
血相を変えた火村さんはすぐさま駆け寄り、チョコレートに塗れてぼんやりと床を見つめている私の手を取った。
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DONEanzr匠メイ
節分から数日後の食卓。試食したり思い悩んだり忙しいメイちゃんと、どっしり(?)構えている火村さん
鬼の正体(匠メイ) ばり、ぼり、ざく! と漫画の効果音のような咀嚼音が響く。思わず口を抑えながら箸を置けば、火村さんは飲みかけのロックグラスを片手に吹き出した。
「ははっ……くっふ……はははははっ!」
「……んぐ」
「喋るな喋るな」
そんなに笑われてしまうような仕草だろうか。黙々と、もぐもぐと、口を動かしたのは単純に美味しかったからなのだけれど。噛み応えがある食感と熱々でジューシーな肉汁から広がる芳香さとほど良い塩加減が絶妙にマッチしていて、いくらでも味わいたい。もう少し柔らかな食感であれば箸が止まらなくなるほどだったに違いないから、きっとこのくらいの固さがちょうど良いのだと思う。
「……、とても美味しいです」
「ありがとよ」
2297「ははっ……くっふ……はははははっ!」
「……んぐ」
「喋るな喋るな」
そんなに笑われてしまうような仕草だろうか。黙々と、もぐもぐと、口を動かしたのは単純に美味しかったからなのだけれど。噛み応えがある食感と熱々でジューシーな肉汁から広がる芳香さとほど良い塩加減が絶妙にマッチしていて、いくらでも味わいたい。もう少し柔らかな食感であれば箸が止まらなくなるほどだったに違いないから、きっとこのくらいの固さがちょうど良いのだと思う。
「……、とても美味しいです」
「ありがとよ」
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DONEanzr車内でメイちゃんにもたれかかって眠る火村さんと、未熟さを痛感するメイちゃん(with八乙女さん)
※ビター系・一部2.5章台詞バレ有
I want to touch, and(匠メイ) 右肩にすとんと落ちた心地好い重みと、首都高を軽快に駆け抜けていく外国車の独特な振動に身を委ねる。本来ならば達成感で高揚しているはずだった私は想定とは異なる緊張感でいっぱいだ。
「珍しいこともあったものね」
ドライブレコーダー機能がついているというルームミラー越しに、八乙女さんと目が合った。彼女は揶揄うような笑みをひとつ浮かべて前方へと向き直る。
追及の視線から逃れるようにそっと、右側に意識を向けてみた。ぱりっとした格好の上長、もとい火村さんは相変わらず、すやすやと寝息を立てながら直立不動の私へともたれかかっている。
「仕事は卒なく、こなしているように見えたのですが」
「メイちゃんの前だから気が抜けちゃったのよ、きっと」
1704「珍しいこともあったものね」
ドライブレコーダー機能がついているというルームミラー越しに、八乙女さんと目が合った。彼女は揶揄うような笑みをひとつ浮かべて前方へと向き直る。
追及の視線から逃れるようにそっと、右側に意識を向けてみた。ぱりっとした格好の上長、もとい火村さんは相変わらず、すやすやと寝息を立てながら直立不動の私へともたれかかっている。
「仕事は卒なく、こなしているように見えたのですが」
「メイちゃんの前だから気が抜けちゃったのよ、きっと」
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PASTanzr初出2022.8.23.
夏イベ開始前に妄想した火村さんとメイちゃんのお話
真夏の狼(匠メイ) 最高気温三十五.一度。そして八月の東京における相対湿度は平均七十一パーセント。これらを踏まえて割り出した結果、本日の不快指数は推定八十九.一パーセントであるらしい。不快指数は七十五パーセントを超えたところから暑さを感じ始めて、その後五パーセント刻みでレベルが切り替わる。八十パーセントで汗が出るほどの暑さを感じ、八十五パーセントを超える頃にはうだるような暑さを覚えるのだという。
申し訳程度の生温い潮風が頬を撫でたところで、七篠メイはちらりと前方に目をやる。原色にも似た真っ青な空の下、幾度となく踏みつけられた足跡により波打つ砂浜の凹凸を照り返す太陽光が際立たせた。視線をずらせば崩れかけた砂の山の傍らには短い枝が転がり落ちており、先ほど教えてもらった山崩しという遊びを行った痕跡と認める。
2173申し訳程度の生温い潮風が頬を撫でたところで、七篠メイはちらりと前方に目をやる。原色にも似た真っ青な空の下、幾度となく踏みつけられた足跡により波打つ砂浜の凹凸を照り返す太陽光が際立たせた。視線をずらせば崩れかけた砂の山の傍らには短い枝が転がり落ちており、先ほど教えてもらった山崩しという遊びを行った痕跡と認める。