犬か風船気まぐれに買い物に着いてきたと思ったら、突然「海が見たい」と言い出したふみやさん。
家に帰る筈がそのまま海の方まで方向転換させられ僕たちは何故か堤防の上に横並びでしゃがみこんで海を眺めている。この時間なに?
先に言ってくれてたら、飲み物だって日焼け止めだって用意したのに。それ以上に今は大量に食材が詰まった買い物袋がある。
ふみやさん…?
一度帰らないと、買った生ものたちが…
海の底、行ったことある?
え?
見てみたいな。一番底の方。歩いてみたい。
あー…?
(突然何を言い出すかと思ったら。この19歳は。
まさか今から泳ぎたいとか言うんじゃないだろうな。)
いや…無いですね。ダイビングみたいな?
少し潜るくらいはまあしますけど、一番底までは無いかも。
(意気揚々とバーベキュー用の食材を狩りに飛び込んでいってたくせによく言うな。こいつ。)
俺泳げないからさ。
いおり、着いてきてくれる?
散歩しようよ。水の中。
……
もちろんお供しますよ。
でも僕、一人だけ浮かんでいっちゃうかもね。空気の入ったボールみたいに。何も入ってないタッパーか。
だって空っぽだから。
あはは。
(なんだその状況。物理的に、お前が浮くなら俺も浮くだろうし俺がそうじゃないならお前も大丈夫だろ。)とは何故だか口に出せず。
じゃ、その時は、首輪にリード。忘れずに付けてきてよ。
俺がちゃんと握っておいたら大丈夫だろ。
えー?首輪を引っ張られるのは大歓迎なんですけど……それだとまるで風船じゃない。
でも分かりました。それなら大丈夫ですね。
風船……
画を想像する。確かにそれは。
犬はリードが解けても自分の意思で留まっておいてくれる。
風船だと、手を離してしまったら、紐が解けたら最後、空気の流れに乗ってどこかへ消えてしまう。
リードじゃなくて。手でもいい。
そっちからも握って離すな。これは命令。