ワルイコト(🐙🦈)パソコンがシャットダウンしたことを確認して、パタンと閉じる。ちらりと時計を見るといつの間に日を越していたのか、0:30を示していた。そろそろ寝ないとまずいだろう。アズールが椅子を引いて立ち上がった瞬間、キイと蝶番が鳴って扉が開いた。
「アズール。」
そのまま開いた扉から部屋に入ってきたのは、片手に大皿を乗せたフロイドだった。
「ノックしてから入りなさいよ。」
「ごめぇん、集中してたら悪いかなって思って。」
眉を下げて謝る素振りこそするものの、その実悪いとは思っていないのだろう。すぐにフロイドは元の表情に戻った。
「フロイド、どうかしましたか?」
さっきは小言を言ったものの、そこまで怒っているわけではないので要件を聞く。扉の前で立ち止まったままのフロイドは、何か企んでいる様な怪しい顔をしてアズールを見た。
「アズール、売り上げデータの入力終わったぁ?」
「はい。」
意図が読めないまま質問に答えると、フロイドは笑みをさらに深める。怪しい。何を企んでいるんだ。
「ならぁ、オレとワルイコト、しよ?」
そう言ったフロイドは徐に手に持った唐揚げが大量に乗った大皿を持ち上げた。
さく、さく、と唐揚げの衣を噛む音が部屋に響く。アズールは今、フロイドにされるがまま大量の唐揚げを食べさせられていた。
「アズール、美味しい?」
言いながらフォークに唐揚げを刺して差し出すフロイドは実に満足そうだ。頬を緩めて愛しくてたまらないと目を細める姿は、日頃フロイドに締められている契約違反者が見れば衝撃を受けるだろう。
「美味しいですよ、流石フロイドですね。」
唐揚げを飲み込み、フロイドの言葉に答える。褒められて嬉しそうに笑うフロイドを優しく撫でれば、一つ瞬きをしてから照れたように少しだけ顔を赤く染めた。
「でしょ?アズール入力作業大変そうだったから、ご褒美必要だなぁと思ったの。」
だからラウンジのキッチンでこっそり揚げてきた、とフロイドが得意げな顔をする。
「ありがとうございます。疲れていたので嬉しいです。」
正直今の時間の唐揚げは体型にダイレクトヒットしているが、この時間のフロイドの唐揚げが一番美味しいのだ。仕方がない。アズールは自分で自分の中で唐揚げを食べる手を止めようとする理性を捩じ伏せた。
「良かったぁ。アズールもしかしたらカロリーが、って食べてくれないかもと思ってたから嬉しい。」
にこにこと笑うフロイドはとても可愛い。もう一度撫でれば、くすぐったいと言ってフロイドはさらにご機嫌になる。
「僕が人が作ってくれた料理を無駄にする訳がないでしょう?」
もうあと数個しか残っていない唐揚げを見て言う。
「いやでもアズールマスターシェフの審査員の時容赦なく残すじゃん。」
「あれは人が食べられるものではないです。よって料理ではありません。」
「いや酷くね。」
アズールの言い分を聞いたフロイドが楽しそうにけらけらと笑う。
「アズール、今日一緒に寝よ。」
本当に今日のフロイドはご機嫌なのだろう。空になった皿を持ってフロイドはアズールの返答も聞かずにその手を引く。口の中に残っている背徳の味を噛み締めながら、アズールはフロイドに連れられ部屋を出た。