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    ブラウン

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    ブラウン

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    カラプラ『婚約者候補シリーズ』2です!
    まだまだ序盤です。
    書き直す可能性もありますがその時はお知らせします。

    最終修正 2024.9.30

    暴れ馬の背に乗りし者チューリップ物語
    1人の女性に3人の騎士がプロポーズをし、選ぶことが出来なかった女性はチューリップになり、3人の男性はそのチューリップを彼女と思い大事に育てたという話だ。騎士はそれぞれ王冠、剣、黄金を表し、チューリップの花の形を表す。それは今の我々4人をそのまま表しているように思えて仕方ない。
    王冠はステイル様、剣はアーサー、となれば私は黄金だ。
    だがいくら私が貴族だとしても王族のステイル様に財も爵位も敵わない、騎士なら聖騎士アーサーの方が相応しい。

    ならば黄金は一体何が素晴らしいというのか。
    プライド様を守る鉄壁の双璧である2人に私の何が勝っているというのか。戦う前から勝敗など決まっている。



    アランに背を押され先程から手紙を書こうとペンを手に持つも、ペン先は空を彷徨い紙にも辿り着けない。伝えたい言葉は出てきてもここには書くことが出来ないまま。書こうとしても、やはり恋文を人に見られるのは憚れる。
    どんな言葉だろうとプライド様へ贈る言葉は私の心そのままだ。それを人には見られたくない。
    特に同じ婚約者候補のステイル様には。

    差出人の名前を見られればジルベール宰相とステイル様は中身を見ないで下さるだろうか?
    気恥ずかしいは勿論、いくらステイル様が私を認めてくださっているとはいえ、私が近衛騎士以上にプライド様に近付くことを快く思いはしないだろう。想像では納得されていても、実際にその行動を見れば心変わりする可能性もある。
    それと、手紙をプライド様に出すとなれば家を経由する事になる。兄にならお願い出来るが、それが万が一あの両親に知られては──

    私がその気になったと誤解され、更に要求が酷くなるに決まっているッ!!

    唯でさえ式典だけでなく他の行事にも出るように圧力を掛けられている今、私がプライド様を誘っていると知れば、そのうち『我が家で茶会を』などと言い出し兼ねない。

    それだけは間違ってもプライド様の耳には入れられない。
    プライド様は喜んでくださるだろう。何せエリックの家や家族のことをとても楽しそうに話していたのだから。誰の家であっても同じように喜ばれ、家族に会うことを楽しみにされるのは予想がつく。
    エリックの家族だ、会ったことはないが育った環境は愛情に満ちているのは本人を見れば分かる。家も見ただけで温かな空気を感じ、弟のキースもとても仕事熱心で感じの良い子だった。

    だが私の屋敷は違う。私は前髪ごと額を押さえ息を吐く。田舎で裕福に暮らす貴族だ。仲は悪くないがプライド様が夢見るような、温かでほっこりするような家ではない。一般的な貴族の屋敷でしかない。
    再び息を吐きペンを置いた。


    出した結論は〝無理〟だった。


    家から手紙を出し、無駄に両親の期待を大きくするのは得策ではない。期待が大きくなれば大きくなるほど、選ばれないと分かった時の両親の顔は見たくない。今は暴走しているが本当は物静かで威厳のある両親だ。次男の私に対しても愛情がなかったわけでは無いし、騎士になってからも帰れば温かく迎えてくれている。
    結果の見えているというのに、無駄に期待だけ大きくさせるのは申し訳ない。

    婚約者候補となった今もプライド様との距離は全く縮まってはいない。アラン、エリックと同じ立ち位置からプライド様を見つめている。そしてステイル様とアーサーは常にプライド様の側にいる。

    例え婚約者候補として同じ階段の段にいるとしても、元々の距離の差は果てしなく、縮まることはない。絶望する程の差がそこにはある。
    私のような一介の伯爵騎士がデートに誘い、口説いたところで縮まる差ではない。
    何せプライド様とティアラ様が一番頼りにされているのは義弟であるステイル様であり、王族の3人共が一番頼り求めているのは昔から今も変らずアーサーなのだから。

    私は今も近衛騎士の一人に過ぎない。

    私だけが頼られるということは今後もない。
    頼りにするとしたら私とアランのセットで、だ。
    騎士団でもそうだ。それに対して私もアランも不満はない。実際組むとしたら私はアランを指名する程これ以上ない相方であるのは間違いない。

    だからこそだ。
    私一人であれば負け戦に向かう等あり得ない。
    アランでなければ私は動かなかった。というよりもアラン以外が私の背中を無神経に押す者はいない。
    そしてアランに背を押されたことで『欲が出た』。

    プライド様とデートがしたい。

    2人きりでは無いとしてもプライド様と話ができる、私の好きな場所へお連れできる、プライド様が私だけを見つめてくれる、その時間だけはプライド様を私の好きに出来る。
    王配など私の器でない、なりたいとも思わない。
    だが、プライド様とデート出来る権利は喉から手が出るほど欲しい。例えプライド様が私を見ていないと分かっていてもそれは変わらない。自分を見てくれないことに心が傷付くと分かっていても、それでも欲しいと手を伸ばしてしまう程の魅力的な特権なのだ。

    それがなんの手違いか、その特権を既に手にしているのだ。強欲な私に欲が出ないわけが無い。
    一度誘えば欲深い自分を抑え込むことは出来なくなる。
    今はまだ『デートがしたい』としか欲は出ていない。だが確実に次はもっともっとと欲が出るのは目に見えている。だからこそ今まで誘わなかったというのに。

    ハァと大きなため息一つ前髪を押さえてしまう。

    アランには敵わない。
    必死に堰き止めていた欲はアランの一押しだけで簡単に決壊し走り出した。何処に行くかも分からない走り出した馬の背中にまんまと乗せられてしまった感覚だ。
    ただの馬ではない、暴れ馬だ。
    私を背に乗せながらも今にも振り落とそうと暴れながらも進んでいく。馬はもう止まらない、何処までも何処までも走って行く、途中で下りることはもう出来ない。
    アランに叩かれた背中が痛い程の熱を持ち背を焼き尽くそうとしている。

    『俺達騎士は誰もお前を見捨てたりしねぇよ』

    プライド様は騎士団にとっては女神の様な存在だというのに、手を出せる位置に自分がいることに対して不思議な程反対している者は居らず、それどころか今でも騎士団は私に友好的だ。
    私が選ばれる理由はないと皆が思っているのだろう、その話を振る者すらいない。

    『無責任に背中を押した俺を恨めばいい』

    それでもあの言葉で私は救われた。
    私がアランを恨むことは出来ないが1度くらいなら八つ当たりはしてもいいだろうと思えた。そしてそれで吹っ切れると、アランが吹っ切らせてくれると背中の熱が思わせてくれた。

    本気で私に婚約者になってもらいたいと背中を押してくれたアランには悪いが、あの2人ならアランも騎士団の皆も納得するだろうし、私が選ばれるよりも安堵するだろう。プライド様の隣に立つ事が誰よりも相応しい2人だから。
    だからこそ私の役目は己の気持ちに決着を付け、アーサーとステイル様が動けるように風穴を開けることだ。そう自身を納得させる。
    そう納得させなければいけないのだ。
    自身の事だ、気付いている、分かっている。


    ずっと片想いで終えると思っていた恋心が、婚約者候補に選ばれた事で暴走し始めていることを。


    だからこそ何だかんだ考え、動かないペンを置いた今も


    〝デートに誘わない〟という選択肢は浮かんでこないのだから。


    「本当に恨むぞ、アラン……」


    最後はまたどれだけ泣くことになるのか。
    その時は何時間でも何日間でもとことん自分に突き合わせると決め、私はペンをしまった。





    夜の近衛騎士の終了時刻を過ぎて、私は少しだけプライド様にお時間を頂いた。いつもは後ろに立っているが今は許可を得て前へと回る。
    何故かニヤニヤした顔のアランも付いて来たが今はほっとく。
    そして私が話し出すとプライド様は耳を傾け、手は胸の前で合わせどんどんとその目が輝いていく。
    「まぁ!それはとても魅力的な湖ですね!是非行きたいです!!」
    私が紹介した湖を想像し、目を輝かせ花のような笑顔を見せた。
    本隊入隊してから知ったその小さな湖は辛い時や行き詰まった時に訪れる度に心が癒される、私にとっては特別な場所だ。城下からも離れた山の中の自然公園にあり、道も舗装されてない箇所もある隠れた名所。休日は親子連れはいるものの少なく、平日は殆ど貸し切りになってしまうほどだ。
    だからこそ行き詰まった時に静かに過ごすのにとても都合が良い場所だった。

    私が何を言いたいのか理解したアランからのニヤニヤとした顔、周りの専属侍女達のマリーやロッテや近衛兵のジャックの驚いた顔まで、浴びせられている目線で簡単に想像出来る。この部屋にいる全員が今私へと視線を向け、次にプライド様に向けられる。
    それでもプライド様は私が話題を出した意図には気付かれない。
    彼女の言う『行きたい』というのも視察かレオン王子との定期交流でと考えての発言だ。私からいい場所を教えて貰ったとしか考えていない。
    いつものことだ。プライド様は私を婚約者候補として選んだ一方で、一切恋愛対象とは見ていない。あくまでも近衛騎士なのだ。今まではそれで問題なかった。私は彼女とデートすらする気はなかったのだから。
    だがこれからは違う。

    「ですので」

    例え選ばれないと分かっていても、デートに誘う以上は〝私を〟見て欲しい欲求はある。

    「?」

    この御方は他人の心に機敏なのにいつもいつも自分へ向けられる感情は勘違いをされる御方だ。

    「その湖に私と一緒に行って頂きたいのです。〝婚約者候補〟として貴女と過ごすお時間を頂戴致したい!」

    だからこそ間違いを起こさせない為にあえて自分がどういうつもりで誘ったのかを宣言する。もしこれでも勘違いするようなら自分はそれだけの男だったという諦めも付く。
    顔の赤さと強張る顔の表情筋、力の入る両手は背中で組みなら、なけなしの勇気をかき集め、彼女から目を逸らさなかった。
    伝えた瞬間にボワッとプライド様の顔が赤い絵の具を塗りたくった様に赤らみ、そして目を泳がせながらも「〜〜……はい………よろ…しくお願いし…………ます………」と消え入りそうな声でうなずかれた。

    取り敢えずは正確に伝わったようでやっと身体中に入っていた力を意識的に抜き、頭を深く下げる。
    やはりこの御方にはこれぐらい強く出なければこの想いは届かないのだと、この数年で散々思い知らされてきた甲斐があった。
    「ありがとうございます。楽しい時間になるよう尽くさせて頂きます」
    「ぁ、はぃ……」
    ぷすぷすと頭から湯気が出そうなプライド様は何とか返事を返したというところだろう。日程の調節はまた後日という話をしてこの日は終わった。
    王宮を出てすぐにアランが私の肩に腕を回してきた。
    「いや〜まさかとは思ったがやるじゃん」
    「アラン、ここはまだ王宮から見えてる。ちゃんと歩け!」
    だぁはは、わりぃと上機嫌で私の肩から腕を外す。
    「いや〜まさか俺や他の人の前で誘うとは思わなくてな。お前のことだからこっそりと手紙か誘い出してとかの方法を使うのかと思ってたわ〜」
    本当ならそうするべきだったのだが、と思いながら前髪を指先で掴み払う。
    「手紙は彼女以外に読まれたくなかった……」
    アランもそれには「あー」と苦笑した。
    毎日毎日届く手紙の流れはアランも知っている。勿論カラムからの手紙なら中身は見ないだろうとも思うが、それでもカラムが嫌なのも何となく分かった。
    「それに……」
    「ん?」
    「顔を見てちゃんとお誘いしたかった」
    前髪を押えた手で顔を隠しているが、アランから見える耳は真っ赤だ。
    プライド様に勘違いされたくないという想いもあるが、やはりプライド様の顔を見てお誘いしたいという欲には勝てなかった。
    自分のお誘いでも喜んで下さるだろうか?
    嫌な顔はされないだろうが、困った顔をされたらどうしようかと心臓が破裂するかと思ったほどだ。銃弾飛び交う戦場を駆け抜けた方が何倍もマシだとすら思ってしまった。
    今回が最初で最後かも知れない、もう2度とこんなチャンスは訪れないかも知れない、そう思ったらそれしか考えられなくなっていた。
    そしてプライド様の真っ赤な顔を見れば喜びより安堵の方が強かった。今では誘えて良かったとまで思っている。
    「それと今いた者達は隠す事は出来ないだろ。なら先に知らせても問題はないと判断した」
    カラムの言葉にアランも納得して頷く。
    自分が婚約者候補だと他者に公表する気はないが、あの場に居たのはアランとプライド専属の3人だけ。彼らに知られずにプライド様とデート出来るとは思えないし、彼らなら私が婚約者候補と公言しても大丈夫だと判断した。
    「そっかそっか」
    「アラン」
    他人事の様に呟くアランを睨み付けるもどこ吹く風だ。
    アランから見たらいつも他人から見られる自分、そして騎士団を一番に気にするカラムが、今は自分を一番に考えて欲を出して行動しているのが面白くておかしくて楽しくて、そして〝嬉しくて〟仕方ない。
    プライド様がカラムをちゃんと〝婚約者候補〟として見てくれた可愛らしい様子にもアランは満足していた。
    アランからすれば棚からぼた餅、自分には一生向けられない表情だが、これからそんないつもなら見られない表情をカラムに向けてくれれば自分もそのお溢れが貰えるという打算もある。
    勿論カラムが誰よりもプライド様の隣に相応しい、そしてカラムの隣もまた、プライド様が相応しいと思っているからこそである。
    「わーてる、わーてる、ちゃんと責任は取るからさ」
    「んっ」
    軽くカラムの背中を押せばカラムも頷いた。
    悩みぐるぐるしていたカラムの心をつつき、欲を出させた責任は取る。その約束を破る気はサラサラない。それを表すように無遠慮にカラムの肩に腕を回す。
    「そん時は俺がお前を嫁に貰ってやるよ」
    「なッ!?そんなこと頼んだわけでは無い!」
    「それぐらい責任取るって話だ。それが嫌ならさ、アレになれるよう頑張るしかないだろ?」
    「どこまでが本気だ?」
    「ん~~?全部だけど??」
    カラムがどんなに睨み付けても、いつも以上に上機嫌のアランの笑顔に流されるだけでやはりその心は読ませてくれない。前髪を抑え諦めて息を吐いた。
    「やっぱ俺は今のカラムの方が好きだな」
    「気色悪い言い方をするな!」
    「俺はカラムがいいんだからな~」
    「はぁ、その台詞も変な意味に聞こえるぞ」
    「ん?ま、いいんじゃね?俺カラム好きだし」
    「良くないッ!!」
    その好きが騎士としてなのか人間としてなのかは気になるところだと思いながらも聞いても答えは返って来ないだろうし、知る必要もない。どっちであろうとアランは態度を変えないのだから。
    カラムも口では否定しながらも、肩に回された腕を不快に思うどころか、その逞しい腕に何処か安心していることはアランには知られたくない。
    そう思いつつ、ならばさっさと払い落とせばいいというのにその腕を騎士館が近くまで払うことはないのだから、悔しい事にアランにはバレている。そんな愚かな自身に対して静かに奥歯を噛み締めた。
    昔から今もアランには敵わないのだ。



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