見守り人形夜の訪問時、プライドが箱を開封したところで興奮は頂点に達した。
「キャァァァーーー、かーわーい〜〜〜!!」
プライドは力いっぱい叫び、ハートを飛ばし、ネルからのプレゼントであるカラム人形3体を取り出して抱きしめた。
可愛い、可愛い、といまだ連呼しながらくるくる踊るプライドを見ながらカラムも微笑む。
婚約者候補の時は拒否していたカラムだったが、確定後は条件を飲んでくれればと首を縦に振った。
カラムも気恥ずかしさはあるものの、それ以上に自分の人形を欲しがってくれるプライドが嬉しく、また目の前でプライドの歓喜のダンスを観れたことで気恥ずかしさも吹っ飛んでしまった。
そして自分が出した条件も十分満たされていると確認も出来たら、もう愛らしいプライドを鑑賞することの方がずっと嬉しく思う。
カラムが出した条件は3つ。
カラム人形は3体、それぞれに新兵、本隊騎士、隊長の団服を着させること。
自分用にプライドの人形を叙任式の衣装で作って貰うこと。
そしてそれらをプライドの部屋の常に見える場所に飾っておくこと。
プライドもその条件に驚きを隠せなかったが全く反対する理由もないので全てを受け入れた。
そしてネルに話せば人形を3体作るのであれば是非大きさを変更したいと打診された。ずっと大きい人形も作りたいと思っていたらしい。
それも了承したことにより大きさ違いのカラム人形3体と数合わせの為にプライド人形も3体作られる事になった。
「あーこんなにも可愛い人形、幸せ〜、カラムありがとう!!だいすき〜!!」
「礼は私でなくネルさんに言うんだな」
「ネルには勿論よ!こんなに作って貰う時間もない程の売れっ子なのに!!」
「プライドの頼みだからだろう。本当に有難いことだな」
「うん、感謝しかないわ!」
会話しながらカラムもプレゼントされたプライド人形を愛しそうに見つめて撫でた。
流石のネルも仕事の合間に6体は時間が掛かった。それでも1年も経たずに届けられたのを考えれば無理をさせてしまったと2人は考える。
ネルからすれば仕事の合間のいい気晴らしになっているとも知らずに。
何かお礼をしなければならないだろうと2人で笑い合った。
「本当に素晴らしいわ。見てこの団服、こんなにも細かく作ってくれてる!」
「本当だ。ネルさんの器用さは素晴らしいな」
プライドに見せられたカラム人形は、小は新兵、中は本隊騎士、大は隊長の団服を着用し、そのどれもが精巧に模している。
そしてプライド人形も、カラムが望んだ通り一番大きな人形は叙任式の装い、あと2体は今までネルが手掛けて来たプライドのドレスが着せられている。その細部までがカラムの覚えている通りであると認識すれば自ずと人形を優しく撫で、愛でてしまう。
そんなご機嫌な様子のカラムにプライドは話し掛けた。
「ねぇ、カラムそろそろ教えて」
「ん?」
「この人形の団服!わざわざ騎士団の団服をネルに見せてまで精巧に作って貰ったって聞いたわよ」
知っているのですよフフンと鼻を高くして言ってみればカラムは顔を顰めた。
「…アランか?」
「ええ、アラン隊長も楽しそうに教えてくれました。しかもアラン隊長の人形を作ってもいいと許可もくれました!」
「アイツは……」
ちゃっかりとしていると思いながらもカラムの口元が緩んだ。そんなカラムの姿を見てプライドもクスクスと笑ってしまう。本当にとても仲良しで理解し合っている2人が羨ましい。
婚約者である自分以上に2人には信頼関係がある。いつか自分とカラムもそんな信頼関係が結べればいいなと思わず思ってしまう程だ。
カラムはプライドをソファへと誘導する。そして人形6体をテーブルに並べ、ソファに座る。
「そんなたいした意味はない。ただ自分の人形なら自分の経歴をなぞった人形が欲しいと思っただけだ」
「経歴?」
「ああ。私は騎士として新兵、本隊騎士、隊長と経験してきた。その経験を団服を見れば思い出せるのではないかと思ったんだ。だから最初に作って貰うならこの3体が良かった。そして飾るならこの部屋が良かった。今私が一番多くの時間を過ごしているのはこの部屋だから。いつでも見える所に置かせて貰えれば気が引き締められると思ったからだ」
カラムの話にプライドも納得した。
そして新兵と本隊騎士の人形に目を向ける。
「私もカラムの新兵と本隊騎士の姿見たかったわ。新兵時代なんてカラムも可愛かったんでしょうね」
「……貴方に見せるようなものではありませんよ」
15歳のカラムを想像するプライドには、顔を赤くするカラムがとても可愛く見えた。
「本隊騎士の時は一度だけ会ったのに、全然覚えてないが本当に残念よ!」
「それは、私もだ。貴方の愛らしい姿をもっときちんと見ておくべきだった」
お互いに後悔を口に出して目を合わせればプッと吹き出した。
初対面はお互いに興味なんて1ミリも無かったのに、今はこんなにも互いが大切でそして近くにいるのが不思議に思える。
「だが、これからはずっと一緒だ」
「ええ、カラムの色んな姿を誰よりも側で見られるのね!」
それがどれだけ幸せか。
カラムはプライドの肩に腕を回し引き寄せ耳元で囁く。
「それは私の台詞だ」
それだけで顔を真っ赤に染めるプライドをそっと抱きしめて幸せを噛みしめた。
一方プライドは照れと、カラムからの甘い誘いに心がグラッとしたのを誤魔化す為の話題を探す。
「そうだ、叙任式の衣装をお願いしたのは?」
プライドの問いに少しだけ不思議そうな顔をするカラムだったがすぐに笑顔で答える。
「叙任式の貴方の神々しい姿が忘れられないからだ」
カラムに真っ直ぐとそんな解答を貰ってプライドの体温が上がった。
「私を貴方の騎士にしてくれたあの日が忘れられない。今も目の奥に焼き付いている。だからこそ貴方の人形を考えた時にこの衣装が真っ先に浮かんだんだ」
笑うカラムに見つめられ更に照れてしまい、思わず一番大きなカラム人形に手を伸ばしてぎゅっと抱きしめた。
「今日はこの子と寝ます」
「遠慮なさらずみんなと寝てください」
「〜〜〜」
少しはカラムも照れてくれるのではないかと思ったのに、完全に思考を読まれて返されてしまった。ムムッと思っていれば、チュッと頭にカラムのキスが降って来た。
「これからもずっとお慕いしております。プライド」
耳元で囁かれるのは正直性感帯を撫でられるような甘美さを感じてしまう。
「な、なら…カラムも一緒に、寝よ?……」
少しは困らせたくてそんなことを口走ってしまったがカラムがびっくりした顔をしたのを見れば、よしっ!と心でガッツポーズをしたものの、脇腹を突然突かれて「ひゃっ!?」と突拍子もない声が口から出てしまった。
「誘う時は覚悟を決めた時に、とお話しましたよね?」
「………はい」
怒ったわけではないのだが、シュンとしてしまったプライドにカラムは頬をかいた。
「すみません。プライドが可愛くて私も調子に乗りすぎたみたいですね」
「へ?キャッ!?」
突然プライドの背中と膝裏にカラムの腕が入り抱き上げられた。そのままカラムは立ち上がりベッドにそっと寝かされる。
「カラム??」
「もう今日は帰りますね。なのでプライドもおやすみください」
チュッと軽くキスされてから布団を掛けられた。
そしてそっと耳打ちされる。
「婚姻までの間は夜はこの子達が貴方を守りますので、それまでお待ち下さいね」
その囁かれた言葉の意味が分かってしまえば、急激に込み上げてきた羞恥に耐えきれず、掛け布団を頭から被った。
頭上からクスクス笑われれば怒りにも似た感情まで上がってくるも布団に潜りながらカラム人形大を抱きしめた。
その後カラムによって運ばれた人形に囲まれ見守られながら夢の中へと意識は沈んで行く。
人ではないのに人形が居てくれるだけで本当に守られているように感じるから不思議だ。
もし本当にカラムとベッドを共にする日が来たら、その時はドキドキするのだろうか?
それとも今のように安心するのだろうか?
まだ分からないけど、その未来は確実にやってくる事だけは間違いないのだと思えば。
「早く来て欲しい」
そう願った。