トウマのガチ恋モブ女vsZOOL見つけてしまった!
ずっと探してた!
私の、理想の男性の人!!!!
今日は足取りが軽かった。
鼻歌なんて歌いながら仕事に行くなんていつぶりだろうか。テレビに関わるという仕事自体は好きだけど、そうでもない日もある。そもそも労働自体は好きなわけではないのだ。
そんな私のモチベーションを上げる原因が最近できた。
狗丸トウマさん!
今日は彼と同じ番組の収録だ!
今事務所から推されている彼は、テレビの仕事もとても多い。同じ番組に出ることもあれば、思ってもみなかった日にテレビ局ですれ違うこともある。そんな日はどんなに落ち込んでいてもラッキーな日に変わるのだ。
好きの力は本当にすごい。
そんな狗丸さんだが、少し前まではなんだか怖くて正直近寄りがたかった。
元々鋭い目つきの彼は、他のアイドルの番組でゲスト出演した時も無愛想だったり、どこかやるせない顔をしていたと思う。
その頃は芸能界も色々あって、現場の雰囲気がなんか不穏だったり、ヤラセだとかコネだとか不誠実な恋愛関係だとか嫌な噂話が流れていたりしたし、彼の所属するŹOOĻというグループは、デビューしたての頃全体的にオラオラしていたので狗丸さんも怖い人なのかな?と思っていた。
友達に教えてもらったけど、狗丸さんが前に所属していたグループにいた時は、すごくにこにこした人だったらしい。それを聞いた時思わず「ウッソ!」って大きい声が出た。
しかし、最近彼は笑顔を見せることも増えた。他の共演者たちと仲良く話をしているのも見かけることが多くなった。あと、笑うと、目つきが柔らかくなって、よく見ると八重歯なんだ、かわいいかも。前のグループでもこんな感じだったのかな。
動物番組で共演した時に、子犬と戯れている彼のキラキラした笑顔を見て確信した。
動物好きな人に悪い人はいないのだ。
犬の特集の時、名前にちなんでゲストに呼ばれていた彼は、沢山の犬たちに飛びつかれ、ぺろぺろと舐められ、何とも幸せそうに笑っていた。
カメラが回ってないところも、「あはは、本当に可愛いな。お、そっちはすっげー美人さん。よしよし。」
と話しかけながらずっと犬と楽しそうに戯れていた。
その姿に私は完全に落ちてしまっていた。
ちなみに私は捨てられた子猫に傘を差し出して去る不良みたいな人が好きだ。
自覚してからの行動は早かった。経験上、何事も行動早い内にした方がいいのだ。特に恋愛という面では。
好意を抱いてる人と少しでも仲良くなりたいのは当然の事ではないだろうか。
狗丸さん人が良さそうだし、浮いた噂とか全然聞かないし、何故か抱かれたいランキングにも名前が入る気配もない。もしかしたら本気でイケるんじゃ?!アイドルの彼氏なんてサイコー!
そんな邪なことを考えながら、うきうきと帰った。明日から早速押して行こう!!
収録の後、彼を探していると、友達からさっきロビーで見たよ!との情報を得た。この業界、裏切られることもあるが、仲の良い友達というものは本当にありがたいものだ。
用が済んだら狗丸さん、移動してしまうかもしれない、私は急ぎロビーへ向かう。
目当ての彼は、ロビーのソファに座り、誰かと談笑していた。あれは、ŹOOĻの亥清さん?
「狗丸さ」
声をかけようとした瞬間、
「あっ、痛っ」
「どうしたハル?」
ソファの、狗丸さんの隣に座っている亥清さんは目を擦りながら、何度か瞬きをし、顔を顰めている。
「まつ毛が目の中に入っちゃったみたい…トウマ、取ってくれない?」
「大丈夫か?顔、見せてみろ」
「うん…」
やましい事なんて何もないのに、なんだか見てはいけないものを見ている気がして、入り込めない様な世界が作り上げられている気がして、咄嗟に私は狗丸さんたちから死角になる壁の陰に移動した。
もう一度ソファを見ると、一瞬角度の関係で狗丸さんが亥清さんにキスしてるみたいに見えてしまった…。
「うわ、ハル、まつ毛長いな。女の子みてー」
それ!私も思ってました!亥清さんは身長も低いわけでもなく、手足も細く、一見すらりとしているが、ダンスやパフォーマンスで培った筋肉の付き方は男の子らしい。女性的というわけではないけど、きれいな金色の目は羨ましいくらい縦にも横にも大きく、それを縁取るまつ毛は濃く長い。美少年って、こういう人のことを言うんだろうな。
そして、その顔を覗き込む狗丸さんの真剣な声はかっこよすぎて正直堪らなかった。顔も見たかったが仕方ない。
「ちょっとトウマ!そういう発言って今の時代に沿ってないから!」
女の子みたい、が引っかかったのか、亥清さんは顔を覗き込まれたまま頬を膨らませ、不満げな声をあげる。
「そ、そうだな、気をつける。ん、取れたぜ。」
狗丸さんはにっこり笑って亥清さんから顔を離した。
「ハルはしっかりしてんなぁ!」
「わ、ちょっと頭撫でないで!セットが崩れる!…もう、仕方なートウマは。…オレがいないとダメなんだから!」
ぷいと顔を背ける亥清さんの顔を、狗丸さんが笑顔で再び覗き込む。
「ははっそうだな!ハル!頼りにしてるぜ!」
「もー!だから、頭撫でるのやめてってば!」
同じメンバー同士の微笑ましい光景。まるで兄弟の様だ。
そして私は腕時計を覗き込んで慌てた。もうこんな時間!!でもいいものを見れたし、狗丸さんは次の機会にお話ししよう。と、身を隠していた陰からこっそりと移動する。最後にイケメン達のほのぼの姿を目に焼き付けようと一瞬2人に目をやると、気のせいだろうか、亥清さんと、目が合った気がした。
「狗丸、さ、っ」
ŹOOĻのマネージャーさんから居場所を聞き出しŹOOĻのレッスン場の扉を開けると、床のフローリングの上で、棗さんが膝を枕にしてレッスン着のまま狗丸さんがすやすやと眠っていた。
「あ、」
慌てて口を押さえる。
「ふふ。うちのリーダーにご用ですか?でもごめんなさい。今日忙しかったみたいで休憩中なんです。」
棗さんは、しー。と言うように人差し指を自らの桜色の薄い唇に当てる。
棗さん、唇も綺麗だなー。リップは何を使ってるのかな。呑気にそんな事を考えていると棗さんは言葉を続ける。
「だから今は、お静かにお願いしますね。」
「はい!」
もちろん。狗丸さんに会いたくて、あわよくば会話できるかも!とか期待はしてたけど、レッスンの休憩の邪魔をするのは本意じゃない。
私は音を立てない様にそろりと2人の側へ座った。
「…」
棗さんは男性だけどとてもきれいで、柔らかい雰囲気の人だ、が。
「狗丸さん、私の膝枕がお気に入りみたいで。よくここで寝てしまうんです。可愛いでしょ?」
なんだろう、こんなに優しくて綺麗な笑顔なのに、なぜか体がぞくぞくする。
「…棗さんは狗丸さんにすごく信頼されてるんですね。」
「ええ。」
食い気味に返された。まるで聖母の様な笑顔だが、圧がすごい
「…」
「…」
棗さんの穏やかで優しい視線は狗丸さんの寝顔に注がれ、私を映すことはない。棗さんの綺麗な指先は、子供をあやす様にやさしく狗丸さんの頭を撫でたり、遊ぶ様に優しく狗丸さんの少し傷んだ髪の毛をさらりと漉いたり。飽きることもない様でそれをずっと繰り返している。お静かにと言われた手前、こちらから会話を切り出すこともできず、無言の時間が流れていく。気まずい。
「…あの、私、もう行きます。狗丸さんが起きたらこれ、渡していただけますか?」
私はバッグから、以前好きだと言っていた甘さ控えめの菓子折りを取り出した。差し入れを口実に少しでも会話ができればと思っていたが仕方ない。棗さんに手渡すと、私は立ち上がった。
「ふふ、うちの狗丸さんに、わざわざ差し入れ、ありがとうございます。」
視線を上げた棗さんと、今日初めて目が合った。彼は私を見ながら目を細め、口角を上げた。
やはり、ほんの少しだけだけど背筋がゾクリとするのを感じながら、私はレッスン室を後にした。
「ん、ミナ…?いま、なんじ?」
「あらあら、起こしてしまいました?狗丸さんお疲れでしょ?もう少し大丈夫ですよ。ちゃんと私が起こしてあげますから」
「わり、さんきゅ」
出て行った部屋の向こうからそんな話し声が聞こえてきた。寝起きで掠れてハスキーな声は、やはり好きだなと思った。
「失礼します。狗丸さん、は、えっ」
挨拶をするためにŹOOĻの楽屋をノックし、ドアを開ける。
二人がけのソファに狗丸さんと御堂さんが座っていた。それはいい。
御堂さんがソファの真ん中にそれはもう長い長い足を、大きく広げて座っており、狗丸さんは御堂さんの足の間に収まり少し浅く腰掛けていた。そして、狗丸さんが持ったスマホで動画を二人で見ている様だが御堂さんの腕は、狗丸さんの身体を後ろから抱きしめている、様に見える。
えぇ近くない?一緒に動画見るのに後ろから抱きしめる必要あります?その距離もう友達でもなくない?!
しかし狗丸さんは、特に気にしているような様子はない。
「あはは、なんだよこれ〜!めっちゃウケる!」
やだ狗丸さん!!!今日も笑顔がかわいい!
きゅんとしてしまう。
「そうだな」
御堂さんはそっけなくそう答えたが、視線は動画よりも狗丸さんの横顔に注がれているように見える。
御堂さんの様な整った顔立ちの男性にそこまで近くに寄られて見つめられたら、色んな意味で耐えられない自信があるけど狗丸さんは、全く、全然、気にする様子はない。ということは、いつもこんな距離感なんだ。
扉を開けたままむずがゆい顔をしていると、狗丸さんが私に気付いてくれた。
「あ、おはようございます!」
狗丸さんは御堂さんの腕の中からするりと抜け出すと立ち上がり、こちらに挨拶に来てくれた。
「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」
「あはは、いつも元気ですね!こっちも元気貰えちゃいます!」
「わ、私の方こそ!」
狗丸さんとの会話は癒されるなぁ〜。
「そういえば、こないだミナから差し入れ受け取りました!オレの好きなやつ覚えててくれたんスね!あの時すんません、俺、寝ちゃってて」
「いえいえ!お疲れのところ押しかけちゃってすみませんでした!それで、今日のことなんですけど、その、今日、仕事の後、」
他愛ない会話で盛り上がっていると、御堂さんがソファから立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩いて来た。いつも通りの自信たっぷりで優雅な笑み浮かべている。
そして、
「すみません、これから打ち合わせあるんで。それじゃ。トウマ、来い。」
「えっトラ?」
「もう忘れたのか?今日はこれから新曲の打ち合わせだったろ?」
「そうだったっけ?!」
「全くトウマは。俺がいたから良いものの」
「あ、すみません、それじゃ、ま」
あくまでもにこやかな表情のまま、御堂さんは狗丸さんの腕を部屋の中へ引く。狗丸さんが私への気遣いかける言葉を遮り、私の目の前で乾いた音を立て、扉は閉じられた。
バタン
呆気に取られた私はそこから動けずにいた。
すると、
「すみません、宜しいでしょうか?」
呆然とする私の後ろから声がかけられる。棗さんと亥清さんだった。
「そちら、通していただいても?」
「え、あっ、すみません」
ここはŹOOĻの楽屋の前だ。固まっている私は完全に邪魔になってしまっていた。慌てて避けると、
「ふふ。すみません。これからメンバーで大事な新曲の打ち合わせがあるもので。」
「…どうも」
亥清さんは何か言いたげにこちらに視線を向けたが、軽く会釈をして棗さんと楽屋に入って行った。
人数が増えた楽屋の中からは、やがて楽しそうな声が聞こえてきた。
なんなのよ!!!!!!!!
大声で叫び出したかったがぐっと堪えた。
うん、今日は出直そう。
なんだかこの間からタイミング悪いなあ。
気のせいじゃない
私が狗丸さんに話しかけようとしても緊急ミーティングが発生したり、他のメンバーの方と一緒だったり、何故かタイミングが悪くもやもやする日が続いた。
のだが、久しぶりにチャンスがやってきた!!!
今日は確か単独でのお仕事!控え室にはグループ名ではなく、個人の名前が貼ってあった!
他の方のスケジュールまでは把握していないが、今日の局の予定を見るに、恐らくここでの仕事はない、と思う。
私は彼を探し回り、1人で中庭のベンチに座り、コンビニで買ったカップコーヒーを飲む彼を見つけた。
「狗丸さん!お疲れ様です!」
「あ、こんにちは!」
狗丸さんはこちらに気づいて、にこにこと笑顔で手を振ってくれた。
今日はどうにかしてもっと仲を深めたい。
私は心の拳をぐっと握りしめた。
久しぶりに狗丸さんと他愛無いことを話す。あぁ〜癒される。しかし、今日は久しぶりのチャンスなのだ。これだけで終わるわけにはいかない!私は切り出した。
「そうだ、そういえば狗丸さん動物お好きでしたよね?」
我ながらいい話題を出したと思う。狗丸さん、動物好きだったしこの流れで動物園とかに誘ってもおかしくないのでは?!
「はい!特に犬!と、猪と蛇と虎!」
付け加えてはは、と照れくさそうに狗丸さんは笑う。
「…そう、ですか。」
同時に頭に過ぎる3人の顔。
「あ、猫、はアレルギーだから近寄れないんですけど。」
続く狗丸さんの言葉が頭をすり抜けていった。
「狗丸さんはŹOOĻの皆さんのこと、大好きなんですね。」
「あ、いえ、…はい!みんな、ちょっと難しいところもあるけどいい奴らなんです!」
頭の中で皆さんを思い浮かべたのであろう狗丸さんは大きく口を開き、嬉しそうににっこりと笑った。今まで見てきた中でその笑顔が一番、好きだな。でも、狗丸さんにその顔をさせるのは、
「これからもずっとずっと、永遠に、生まれ変わっても、あいつらと一緒に歌っていたいんです!」
ちょっとはにかんだへにゃりとした笑顔がとても眩しい。
ダメだ、浄化されそう。
ガタン
「…!!…!!!」
後ろの自販機の陰から物音と何かの声が聞こえてきた。こそこそと小声で何かを言い争っている様だ。具体的にいうと3人くらいの人の声が聞こえた。ちなみにあちらは風下だ。
「?局内なのに野良猫かなんかいんのかな?」
心から不思議そうな狗丸さんは本当に気づいていないらしい。野生の勘は鋭いのに…。これは確かに皆さんも苦労が多いだろうな、ともはや他人事の様に思った。
「じゃ、私行きます」
「え?あ、はい!お疲れ様です!」
急に変な切り上げ方だっただろうか。
でも、もういいや。
私は早足でそこから立ち去る。
これは失恋っていうのかな。
私には絶対に入り込めない所に狗丸さんの永遠はある。それはショックだった。けど、狗丸さんの心から嬉しそうな顔を見た時に、羨みや悲しみというより、いっそ諦めやお幸せにという気持ちが強かった。
私は狗丸さんと恋人にはなれないだろうけど、狗丸さんがずっとああやって笑っていられればと思う。
っていうか、狗丸さん思ってたより重いな
「ところでトウマ、す、好きな動物ってなに?」
「え?うーん、犬かな」
「狗丸さん、犬以外に好きな動物、いません?」
「えーと、あ、昨日の動物番組でコツメカワウソの赤ちゃん特集やってたんだけど、カワウソって結構かわいいな!」
「え、大人のカワウソって結構怖いよ」
「そうなの?!」
「おいトウマ、アレも好きだろ?真っ直ぐ走って猛進してくるやつとか、細長くてシャーってするやつとか、かっこいい猫科のやつとかも!!」
「え?何それ動物当てクイズか?この間のジェスチャークイズでやらかしちまったのまだ怒ってんの?!」
「ちがう!!!!!」
廊下ですれ違う時、そんな会話が聞こえてきた。
(皆さん苦労されてるんだな)
「なあ、お前らにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「え、な、なに?」
明らかに動揺した様子の悠、巳波、虎於は互いに顔を見合わせた。
「なんだ?改まって」
「どうしたんですか?」
「え、も、もしかして、トウマにか、彼女できた、とか?」
皆がそわそわしている変な空気の中で、恐る恐る悠が口を開く。
「ちげーよ!未だに抱かれたい男ランクに入れない俺への嫌味か!」
「なーんだ、良かっ……んん、聞きたい事ってなに?」
あからさまにホッとした顔になった3人は、トウマの話に耳を傾ける。
「この間番組で共演した女子アナの子、いたろ?」
『さあ』
そっけない3人の声がハモった
「オレ知らなーい」
「さあ、私も知りませんけど」
「俺も分からないな。そんな子いたか?」
「え?!この間から差し入れくれたり楽屋に挨拶来てくれたりしてた子だよ!覚えてないのかよ!」
「だってそれ、多分トウマにだけだし」
「んなわけねーだろ」
(んなことあるの!!!)
「結構色々話とかして、仲良くなれたと思ってたんだけどさ、なんかこの間から急に距離を感じるってか、よそよそしくなっちゃって」
しゅんとした犬の様に項垂れるトウマに、悠が声をかける。
「またトウマがデリカシーないこと言ったんじゃないの?」
「そうなのかな?!あーーー!!!いい人だったから仲良くなれて嬉しかったのにな。」
頭を抱えて呻き始めるトウマを横目で見て、3人はため息をついた。
「本当に、(トウマの気持ちは嬉しいし)マジで俺らが言うのはなんだが、明らかに好意を持たれてる女の子に対してあの言葉はないよな」
「(私も狗丸さんとは永遠にグループを組むつもりですがあれは)ないですね」
「(トウマとみんなと来世まで一緒に歌うつもりだけどあれは)ないよ」
うんうんと頷き合う3人の中でトウマはしばらくあーーだのうーーーー俺なにしちまったんだと頭を抱えていたのだった。