光に陰るもの「ありゃ、完全に風邪だなあ。」
「そう…ですよね…。」
オレはまた大きなため息をついた。
孫悟空の生きる世界──残された唯一の希望を求めて、オレは過去へ行き悟空さんを生かす道を選んだ。
未だ平和は訪れないものの、緊迫感に包まれながらも皆笑顔を見せるのがオレのいた世界との大きな違いだった。
『必ず何とかしてくれそうな、不思議な気持ちにさせてくれる人なの』
かつての母の言葉が再生される。
実際に、そうなのだろうと思った。それほどまでに世界を燦々と照らす光のような人だった。
「(この人なら、きっと世界を平和にする)」
しかしそれでオレの世界が変わるわけではない。勝利に終わるであろうこの世界から、勝つための手立てを分けてもらう必要がある。そのためにオレは再びこの時代へやってきたのだ。
…それなのに、オレは今ベッドで天井を見上げている。これでは以前と何も変わらないではないか。
「オレ、自分が情けないです。助力になるはずが倒れてしまうなんて…。」
「気にすんな!気を張りすぎて参っちまってたんだろ。休むときは休むもんだぞ、トランクス。」
「悟空さん…。…すみません。」
悟空さんの言葉が優しい。
自分を情けなく思いつつも、このとききっと、オレは悟空さんに少しばかり甘えていた。本当は甘えていい立場ではないのに。
「…悟空さんは優しいですね。」
「甘いって言われたこともあるけどな。」
「はは、そうかもしれません。」
「おめえまで言うのかよぉ…。」
口を尖らせる悟空さんについ笑みを零す。あれほど頼れる人がこのような表情を見せることをオレは知らなかった。知ることになったのは、共に過ごす時間が増えてからだ。
いっそ可愛らしさすら感じる一面を知ってからは、悟空さんを見る目はただ救済を求める存在ではなくなっていた。その芽生える感情とは何か。
「でも、もっと言えば温かい人ですね。」
「あたたかい?」
「はい。…悟空さん、もう少しこっちへ来てくれませんか?」
「ん?別にいいけど。」
傍まで来た悟空さんの顔を見上げると穏やかにこちらを見つめている。視線を合わせただけなのに、一瞬だけでも特別な存在になれた気がして…ずるい。
「風邪を引くと人肌恋しくなるんです。…眠るまでの間でいいので、傍にいてくれませんか?」
…ついに言ってしまった。気恥ずかしさか、熱のせいか、顔が熱くなる。
いや、きっとこれは。
「構わねえけど、オラでいいのか?他にもっと…」
「いえ、悟空さんがいいんです。お願いします。」
「…分かった。見ててやるから、寝てろ。」
「ありがとうございます…。」
拒否されずに済んだことにほっとして、言われる通り目を閉じる。すぐ近くで腰掛ける音が聞こえ、悟空さんから発せられる些細な音までも拾ってしまう自分に、火照る顔が更に赤くなるのを感じた。
…きっと、きっと、オレは悟空さんに惹かれているのだろう。禁忌も禁忌でありながら、今はっきりと自覚してしまった。
異分子であるオレ相手でも細かく気にかけてくれる悟空さんが好きだった。人柄に全てを包み込まれる心地の不思議な良さも。しかしそれは永遠ではなく、いつか終わりを迎えるもので。
この想いに気付いて寂しさを感じたのは、悟空さんに与えられる世界が残酷なまでに温かいからに違いなかった。