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    hito_ryunen

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    hito_ryunen

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    好き勝手書いた
    小鳥 III シャーク カイト が遊馬くんに贈り物する話
    オマケにベクター

    鮮やかな赤色のドレスに身を包んだ少女がくるりと回れば、背中まで伸びた黒い髪がふわりと広がった。おぉ、と声を上げながら裾をヒラヒラと揺らしている少女の姿に小鳥は椅子から立ち上がり隣に並ぶ。

    「似合ってるわよ遊馬!」
    「へへ、ありがとな!」

    遊馬と呼ばれた少女は長年付き添ってくれている幼馴染からの真っ直ぐな賛辞を受けて恥じらいの笑みを浮かべる。
    本当に、よく似合っているわと笑う小鳥にとって今の遊馬の姿は何よりもかけがえのないものものだ。
    一年前、相棒であるアストラルと共に世界を救うため中学一年生が背負うには重たすぎる運命を背負ってボロボロになりながらも前に進むしかなかった少女が、可愛らしいドレスに身を包み笑っている。
    私の幼馴染は可愛いのよ、と自慢したい気持ちと、願わくばこの姿を独り占めしていたいわがままな気持ちに小鳥は自分に苦笑する。

    「……い、おーい小鳥?大丈夫か?」
    「あ…、う、うん大丈夫よ。ちょっとぼーっとしちゃって」

    もしかして緊張してんのか?とからかうような言葉に少しだけね、と笑って返せば、遊馬が手のひらにカードって書いて〜、と古いおまじないを教えてくれる。
    第二回ワールドデュエルカーニバルの開催を記念したパーティーに初代優勝者として招待された遊馬に誘われて一緒に参加することになった。そしてこの会場にいる誰よりも先に遊馬のドレス姿を拝めたのだ、それだけで役得だろう。
    そう納得した小鳥は机の上に置いていた小さなカバンから淡い水色の髪飾りを取りだして、未だにどこか違う古いおまじないの話をしている遊馬へと差し出した。

    「そうだ、遊馬。これあげる」
    「ん?髪飾り?」
    「この間キャットちゃんとお出かけした時に見つけたんだ」

    それに私と色違いのおそろいよ、と自分の赤い髪飾りを指させば遊馬は眉を下げて困ったように笑う。

    「俺に似合うかなぁ……?」
    「似合うに決まってるじゃない!それにこの色、少しだけアストラルっぽくない?」

    小鳥の言葉に遊馬の赤い瞳が見開かれたあと懐かしさと寂しさが混ざった色を浮べた。
    ね、と髪飾りを握らせれば遊馬は髪飾りをつけると恐る恐るどうだ?と聞いてくる。

    「ふふ、よく似合ってるわ。…ねぇ、遊馬」
    「なんだよ」
    「ちょっと早いけど会場に行かない?」
    「え、ぜってーやだ!!!」
    「あら、どうせ時間になったら会場に行くんだからいいじゃない」
    「それはそうだけどさぁ……」

    まだ心の準備ができてないというか、まだ小鳥以外に見せるのは恥ずかしいというか、などとぶつぶつと呟いている。
    それに絶対似合ってないって笑われる、と拗ねるように口を突き出す遊馬の手を取るも、小鳥が真っ直ぐと目を見つめそんなことは無い、と否定しようとした瞬間ドアが控えめに叩かれた。

    「え、もう時間!?」
    「まだ時間はあったはずだけど……どうぞー!」
    「あ、ちょ、小鳥!?」

    入室を許可した小鳥を遊馬が遮るが、非情なことにガチャリ、と扉が開く。突然の来訪に慌てた遊馬は小鳥から手を離すと最後の抵抗と言わんばかりに小鳥の小さな背中に身を隠した。
    誰だろう、とそろそろとあげた視界に入ってきたのは大きな目をまん丸くしたピンク髪の友人だった。

    ********************

    「よく似合ってるよ遊馬!!」
    「え、あ、ありがとう……?」
    「なんで疑問形なのよ」

    大きな目をキラキラと輝かせているIII─ミハエルの笑顔に圧倒されて、困惑した表情でお礼を言う遊馬に小鳥は小さく突っ込む。
    来訪してきた人物が友人だと分かって小鳥の背中から出てきた遊馬は久しぶりに会えたミハエルと仲良く談笑をしている。
    それだけを聞けば再開に喜ぶ仲の良い二人になるのだが、如何せん距離がおかしい。
    遊馬の手を握り真っ直ぐな瞳で会話の端々に賛辞の言葉を潜ませ、あまつさえ可愛いなどと真っ直ぐに褒めているミハエルに小鳥は小さく咳払いするとパン、と手を一つ叩いた。

    「せっかくだから三人で写真を撮りましょう!」
    「いいね!」
    「絶対やだ!」
    「どうして?」
    「だってIVとかVにも見せる気だろ!」
    「当たり前じゃないか!」

    だから嫌なの!と抵抗を見せる遊馬を無視して小鳥はミハエルに遊馬の右隣に行くように指示する。そして小鳥とミハエルで遊馬を挟むとDゲイザーを起動させる。

    「おい、小鳥!」
    「あら、この間課題を手伝ってあげたのって誰だったかしら〜?」
    「っぐ、それは……」
    「さて撮るわよ、IIIもいい?」

    小鳥の言葉にミハエルはもちろん、と満面の笑みを返す。それはずるいだろ、と恨み言を呟いていた遊馬も自分の頬に、頬を寄せて笑う二人につられていつの間にか笑みを浮かべていた。

    「撮れた!」
    「見せてもらってもいいかな?」

    小鳥は先程撮った写真をミハエルへと見せると彼のDゲイザーにデータを送る。
    楽しそうな笑顔を浮かべて並ぶ三人の写真。
    きっとこの写真を見せたら自分の兄たちも顔を綻ばせてくれるだろう。
    自分たち家族を救ってくれた小さな少女の隣に今並べている幸せにミハエルは小さく笑うと小鳥にもう一度お礼を言うと、ここに来た目的を渡すべくポケットから小さな箱を取り出した。

    「そうだ、これを遊馬に渡したくて」
    「なんだこれ?」
    「ふふ、開けてみて」

    ミハエルに促されて遊馬が箱を開けると、中からピンク色の石が飾られた小さなイヤリングがはいっていた。

    「これ、」
    「この間トーマス兄様と買い物に行った時に見つけたんだ。遊馬に似合うと思って」

    良かったらつけて欲しいな、と笑うミハエルに遊馬はイヤリングを取り出すがどうやらつけたが分からないようでもたついている。

    「貸して」

    その言葉と共に遊馬の手からイヤリングを取ったミハエルは黒くサラリとした髪を上げて小さな右耳にそれを飾る。チャラ、と小さな音を立てて揺れるピンク色の石にミハエルの心がじんわりと満たされる。

    「似合ってるよ遊馬」
    「ありがとなIII!」
    「……ッ、どういたしまして」

    そう言ってにこりと笑った遊馬に、ミハエルは一瞬詰まるがそれを悟られないようにいつものように笑顔を浮べた。
    今はイヤリングだけど、いつか彼女のまっさらな耳にピアスを飾れたら。そしてあわよくば、なんて考える。
    楽しそうに笑う遊馬をほんの少しの欲望を滲ませた瞳で見つめているミハエルに、小鳥は小さく溜息をこぼした。

    ********************

    「それじゃあ、また会場でね」

    そう言って部屋から出て行ったミハエルを見送ったあと、小鳥としばらく談笑していた遊馬はふと喉の乾きを覚えた。

    「なぁ、ここら辺って自販機あったっけ?」
    「廊下にあったと思うわ」
    「喉乾いたからちょっと飲み物買ってくる!」

    そういうや否や部屋から出ていく遊馬に、小鳥は気をつけてね、と言葉を投げた。


    すれ違う人に挨拶をしながら廊下を進んでいくと目的である自販機に辿り着いた。飲んだことの無い飲み物がずらりと並ぶ中、端っこのジュースのボタンを押せばガコン、と飲み物が落ちてくる。
    冷たい缶を取り出して部屋に戻ろうと振り返った遊馬の前に影が差した。咄嗟に避けようとしたが間に合わず、軽い衝突を受けて遊馬はその場に尻もちをついてしまう。幸いなことに大した痛みもなく、謝罪の言葉と共に差し出された手を取り立ち上がる。

    「悪ぃ、前見てなくて……ってシャーク!」
    「遊馬!?お前、その格好」

    久しぶりだな!と呑気に挨拶をする遊馬に凌牙が困惑したまま挨拶を返す。
    ジロジロと全身を見てくる視線に遊馬が似合ってないよな、と苦笑いを浮かべればハッと目を見開いた凌牙は慌てて違う!と否定する。

    「珍しい格好だったからつい見ちまっただけだ!」
    「あはは何慌ててんだよ」

    そう言って遊馬がケラケラと笑う。
    いつもの動きやすさ重視なボーイッシュな姿ではないドレス姿に思わず見惚れていました、だなんて素直に言えるわけが無い。
    そんな凌牙に気が付くはずもなく遊馬は早く着替えてぇ、と小さくこぼした。

    「なんでだよ」
    「だって、俺こういう女の子らしい服似合わねぇし」

    小鳥とIIIは似合ってるって褒めてくれたけどさー、と眉を下げて笑う遊馬の言葉に、凌牙の心の中にモヤモヤとした感情が生まれる。
    俺が最初じゃないのか。
    俺よりも先に見たやつがいるのか。
    生まれた嫉妬心に凌牙は何を考えているんだ俺は、と頭を左右に振って遊馬の肩を掴む。

    「シャーク?」

    こちらを心配そうに見上げてくる宝石のような赤い瞳に、意を決したように口を開く。

    「似合っている」
    「へ?」
    「似合ってるって言ってんだよ!」
    「お、おう…ありがとな?」

    覚悟の決まった顔で褒めてくる凌牙の勢いに気圧されながらも、遊馬は素直に言葉を受け取る。
    きっとこの状況を凌牙の妹である璃緒が見たら呆れたような表情で情けない自分に溜息を吐いていたであろう。しかし幸いなことに璃緒はこの場にいない。
    それにしても、と凌牙は改めて遊馬の姿を見る。
    赤色のドレスは活発で明るい遊馬の程よく焼けている肌に良く似合っているし、何よりも太陽のような笑顔が何倍も輝くように引き立たせている。
    彼女とは何度も困難を共にし、時には敵として対峙した。その度に彼女のかっとビング精神と太陽のような笑顔に救われ、手を差し伸べられた。世界を救うために、自分を救うために身体を張った彼女が笑っている。
    それだけで自分の心は満たされる、と頬を緩めた瞬間、視界にきらりと何かが光る。
    小粒だがしっかりと存在を主張しているピンク色の石に、因縁の相手の弟の姿が脳裏に浮かんだ。
    くそ、やりやがったな…!と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ凌牙はそれならば、と己のポケットから小さな箱を取りだして遊馬に投げる。

    「それ、やるよ」
    「え、別にいいよ」
    「……璃緒から渡せって言われてんだよ」
    「妹シャーから?」

    何度も注意されてるはずなのに一向に直される気配のない呼び方に苦笑いすると、遊馬の手によって箱が開かれ中身が現れる。
    そこには小さな青い石が飾られたリングが入っていた。

    「なぁ、これって……」

    リングと凌牙の顔を何度も見ている遊馬の頬はほんのりと赤く染まり、瞳には困惑の色が浮かんでいる。それは凌牙も同じだったようで一気に顔を赤く染めあげてDゲイザーを起動させた。しばらくすると聞こえてきた可愛らしい声に凌牙が声を荒らげる。

    「お前、どういうつもりだ!!」
    「あら、ヘタレな凌牙のためを思っての行動よ」
    「誰がヘタレだ!!」

    通信の相手は璃緒のようだ。
    目の前で繰り広げられている兄妹喧嘩に、遊馬は凌牙の横からひょこりと顔を覗かせる。

    「妹シャー!これありがとな!」
    「何度言えばその呼び方をやめてくださるのかしら?」
    「わ、わりぃ!」
    「全く……贈ったものはつけてくださいましたか?」
    「まだつけてねぇよ……なんか恥ずかしいし」
    「ふふ、でしたら凌牙。つけて差し上げなさい」
    「はぁ!?」
    「いいから、つけなさい貴方が」
    「シャ、シャーク、無理しなくていいからな?」

    どこか圧力の感じる璃緒の言葉と心配そうな表情を浮かべている遊馬に、凌牙は息の飲むと意を決して箱からリングを取り出し、震える手で遊馬の右手を取る。
    そしてゆっくりと時間をかけて小指へとリングを贈る。

    「ふふ、よく似合ってますわよ」
    「あ、ありがと……シャークも」
    「あ、あぁ……」

    僅かに頬を染めながらそっぽを向いている二人に璃緒が満足気に笑う。
    しかし僅かに感じるこのヘタレが、と言わんばかりの呆れた視線に凌牙は出来るわけねぇだろ!と心の中で抗議する。

    「似合ってるぜ遊馬」

    誤魔化すように声をかければと遊馬が恥じらうように笑う。
    願わくば反対の手に、なんて願わない。
    こうして自分が渡したものを身につけてくれるだけで凌牙の心は満たされる。
    そもそも自分のような人間が遊馬に指輪を贈るなんて、と後ろ向きに考えた凌牙が遊馬の方を向くと言葉を失った。
    キラキラと輝く石を優しげな手つきで撫で、幸せそうな笑みを浮かべている遊馬の姿に先程の考えが一瞬で離散した。
    こいつの薬指に指輪を嵌めるのは俺だ。

    そうしてしばらく話をしていると遊馬はハッと何かを思い出したのか、急に慌て始める。

    「どうしたんだよ」
    「小鳥を待たせてんだった!!」
    「はぁ?お前忘れてたのかよ」
    「いや、えーと、そう!シャークと話すのが楽しくて!つい!」
    「お前な……」

    えへへ、と誤魔化すように笑いながらそれじゃ!と笑いながら手を振って廊下を小走りでかけていく遊馬の背中を見送る。
    ようやくその背中が見えなくなったあと、凌牙はその場にしゃがみ込むと真っ赤な顔を隠すように顔を下に向けた。
    なんて恐ろしいやつなんだ。
    最後の最後までこちらを喜ばせるようなこと言いやがって……。
    何よりもいちばん恐ろしいのが遊馬にそんなつもりがない事だ。そう分かってはいるけど、と心の中で誰に言う訳でもない言い訳と共に大きく息を吐き出した。


    「悪い!遅くなった!」
    「もうどこまで行ってたの!?心配したじゃない……ねぇ、遊馬。それ、何?」
    「ん?これか?シャークがくれた!」
    「はぁ!?」
    「なんか妹シャーから渡してくれって頼まれてたらしくてさー」
    「……」
    「あ、そうだこれお前の分の飲み物……って小鳥?おーい大丈夫か?」

    ********************

    「疲れたぁ……」
    「お疲れ様」

    げっそりとした表情で呟く遊馬を労わるように、ぽんぽんと頭を撫でればやめろよー、と抵抗する。その声はどこか覇気がなく小鳥は少しだけ考え込んだ後、そう言えばと口を開く。

    「さっきあっちでハルトくんを見たわよ」
    「マジで!?会いに行こうぜ!」

    小鳥の言葉に遊馬はパッと表情を明るくさせる。いくら誰とでも仲良くなれる性格とはいえ、入れ代わり立ち代わりで話しかけてくる様々な人に疲れ切っていた遊馬にとってその情報は嬉しいものだった。
    早く行こうぜ、と今すぐにでも走り出しそうな遊馬に小鳥はもう、と困ったように笑う。
    すると視界の端に見慣れた髪色が映り込む。

    「小鳥?どうしたんだよ?」
    「う、ううんなんでもないわ」
    「そう?じゃあ、ハルトのところに行こうぜ!」

    そう言って呑気に笑う遊馬の元に一人の男が近付いてきた。

    「もしかして九十九遊馬選手!?」
    「え、あ、うん……そうだけど」
    「うわぁ!本物の九十九選手だ!!」

    まるでどこかの誰かのように興奮気味で喜んでいる男に、遊馬のテンションがほんの少しだけ落ち込む。ハルトに会いに行きたかったが自分に会えて喜んでいる人を放っておく訳にも行かず、遊馬はいつものような笑顔で男へ笑いかけた。

    「さすが九十九選手……ところで君は今良い相手とかいるのかい?」
    「へ、良い相手って?」
    「な、何を聞いてるんですか!?」

    男の言葉にきょとんとしている遊馬に小鳥が堪らず口を挟めば、男は冗談だよとニヤニヤと笑う。

    「えっと、いない、ぜ……?」
    「もうバカ正直に答えないの!!」

    戸惑い気味な遊馬の姿に男はほう、と片眉をあげる。小鳥はどういうつもりだ、と目の前の男を睨みつける。そしてさっさとこの場から離れるべく遊馬の手を握ると男はそれなら、と口を開いた。

    「僕とかどうかな?自分で言うのもなんだけどデュエルも強いし顔だっていいしさ、ね?」
    「え、いや、」
    「それに僕、遊馬さんみたいな子がタイプでさぁ」

    ナチュラルに名前呼びをしながらジリジリと近付いてくる男に、遊馬は苦笑いを浮かべながら小鳥と共に後ずさる。

    「いや、俺じゃなくて、私、」
    「そうだ!いい機会だから僕のことを知ってくれないかい!?」
    「いや、あの、」

    助けを求める遊馬の視線に小鳥はやめてください!と男を睨みつけるが、興奮気味の男は遊馬しか見えていないのかずっと遊馬へ迫っている。
    警備員を呼びたいが遊馬を一人にしたくない、と悩む小鳥に遊馬が耳打ちをする。

    「わりぃ小鳥、警備員さん呼んできてくんね?」
    「え、でも……」
    「大丈夫だって。いざとなったら走って逃げるからさ」

    しばらく考えてから小鳥はすぐに戻って来るからね、と声を掛けて遊馬から手を離す。
    ドア付近に立っている警備員の元へ急ぐべく振り返ると、やたらと険しい表情を浮かべている人物が早足で近付いてきているでは無いか。警備員よりも心強い人物の登場に小鳥はカイト、とその名前を呼ぶ。

    「任せておけ」

    そう言うとカイトは男の相手で精一杯の遊馬の肩に手を置いた。

    「何を騒いでいる」
    「あ、カイト」
    「おい、今僕が彼女と話を、」
    「一方的に捲し立てることが話だと?そう思っているのなら早くその考えは改めることだな」

    怒りで顔を真っ赤に染め上げた男に、カイトはふん、と鼻を鳴らすと行くぞと小鳥に声を掛けて遊馬の手を引いて進んでいく。
    そして男から離れたところで足を止めた。

    「助けてくれてありがとうカイト」
    「カイト、その……ありがとうな!」
    「また貴様が問題を起こしたのではないかと思って行っただけだ」
    「はぁ!?」
    「……それにしても」
    「なんだよ、人の事ジロジロ見て……似合わねぇならそう言えよ」
    「馬子にも衣装だな」
    「カイトお前……」

    カイトの言葉に小鳥はムッ、と眉間に皺を寄せるが、遊馬は不思議そうに首を傾げると口を開く。

    「俺はお前の孫じゃねーぞ?」

    遊馬の言葉にカイトは目を見開くとしばらくして大きく盛大な溜息を吐き出す。
    その隣では小鳥が哀れみの籠った声色で遊馬の名前を呟いた。

    「え、俺なんか変なこと言った?」
    「……いいの、うん。遊馬は何も知らなくていいのよ」
    「そういえば先程あの男となんの話しをしていたんだ?」

    場合によっては然るべき場所に突き出すが、と小さく呟かれた言葉に遊馬は然るべき場合?と首を傾げつつ先程のことを話す。

    「なんか良い相手がなんちゃら〜って言ってたような?」
    「何故疑問形なんだ」
    「だってあの人勢い強すぎて何言ってっかわかんなかったし」

    それにちょっと怖かった、と目を伏せる遊馬の顔にはかなりの疲労とほんの少しの恐怖が浮かんでいた。そんな遊馬に対してカイトは何やら考え込んでいるのか、いつもの仏頂面で黙り込む。

    「なんか来たばっかなのに疲れたぜ……」
    「なら一度休みを入れるか?」

    会場から出ていくことになるが、と続けるカイトに小鳥はそうしましょう!と言葉を被せると遊馬の手を取った。
    パーティーはまだまだこれからなのだ。
    休める時に休んだ方がいいと力説する小鳥に遊馬が頷けば、小鳥が安心したように笑う。

    「決まりだな。こっちだついてこい」

    そう言って会場を出ていくカイトの後を追って、小鳥は遊馬の手を引いて会場を出ていった。


    「疲れた……」
    「お疲れ様遊馬……ってこのやり取りさっきもやったわね」
    「えー?そうだったっけ?」

    カイトに案内された休憩スペースの椅子に腰を下ろした遊馬の表情に小鳥はほっと胸を撫で下ろす。先程よりも顔色が良くなっておりもう少し休んでいればいつもの遊馬に戻るだろう。
    遊馬と小鳥を案内した張本人であるカイトはと言えば、なにやら用事があるとだけ告げるとさっさとどこかへ行ってしまった。
    きっと遊馬と自分を休ませるために気を使ったのだろう、と相変わらず不器用な男の背中を見送ったのがついさっき。

    「あ、そういえばハルトに会えてねぇや」
    「また後で会えるわよ」
    「はるとハルトなら後で合わせてやる」

    小鳥がそう答えたと同時にカイトが現れる。
    本当か!?と表情を明るくさせた遊馬にカイトは僅かに微笑む。

    「ハルトもお前に会いたがっているからな…遊馬、後ろを向け」
    「へ?なんで?」
    「いいから早くしろ」

    言葉だけでなく視線でも訴えてくるカイトに従い、遊馬が背中を向ければ追加で髪を上げろと指示が飛んで来る。なんなんだよ、と思いながら素直に後ろ髪を持ち上げる。
    晒された項をじっと見つめたあとカイトは何かを取り出すと遊馬の首へと当てる。ヒヤリとした感覚に背中を震わせた遊馬が小さく声を漏らした。

    「ぅ、なに、」
    「よし、もう下ろしていいぞ」
    「なんなんだよ……ってこれ」

    遊馬は自分の首にかけられたネックレスを撫でるとカイトを見上げる。
    遊馬の首に飾られたネックレスはシンプルなものなのだが、まるでカイトのエースモンスターを彷彿とさせる銀河を閉じ込めたような宝石が飾られている。
    やったわね、とジトリとした視線を向けてくる小鳥を気にもせずカイトは平然とした表情で遊馬を見下ろす。

    「虫除けくらいにはなるだろう。さて、俺はそろそろ戻るがお前たちはどうする?」
    「え、俺も戻ろうかな……小鳥は?」
    「私も戻るわ」

    不機嫌なオーラを出している小鳥に遊馬が首を傾げれば宝石が光を反射してきらりと光る。よく似合っている、と口には出さず口角をあげたカイトは遊馬の手を取って行くぞ、と声を掛ける。
    彼女を何よりも大切にしている幼馴染である小鳥のオーラがまた一段と不機嫌になったがカイトは気にもせず会場へと向かう。

    --------------------

    カイトに手を引かれて会場に戻ると、近くにいた人達の目が見開かれた後何故か生暖かくなる。中には悲しげな表情を浮かべている人もいるが大半が向けてくるそのような視線に遊馬は少し前を歩くカイトに声をかける。

    「なぁ、カイトこの空気何?なんでみんな俺たちのこと見てんの?」
    「さぁな」
    「さぁなってお前……てかなんで小鳥はそんなに機嫌悪いんだよ」
    「カイトにでも聞けば?」

    ふん、とそっぽを向く小鳥にカイトお前何かしたのか?と聞くが答えは返ってこず、なんだよぉ…と呟いた。
    すると視界の端に先程の男がこちらへ近付いてくる姿が見え、遊馬は無意識のうちにカイトの手を強く握る。そんな遊馬に気が付いたのかカイトが遊馬を庇うように動けば男は露骨に嫌な顔をしたあと遊馬の首元に視線を落とす。そして何故かショックを受けたような表情を浮かべると逃げるように去っていく。

    「……?なんであいつちょっと落ち込んでるんだ?」
    「知らん……おい、遊馬」
    「ん?」
    「あ、兄さん!遊馬!それに小鳥さんも!」

    名前を呼ばれてカイトが示す方を見ると、水色の髪の少年がオービタルと共に手を振りながらこちらへと歩いてくる。

    「ハルト!久しぶりだな!」
    「久しぶり!遊馬、そのドレスとっても似合ってるよ!」

    カイトから手を離した遊馬はハルトへ駆け寄るとぎゅ〜っと抱き締め、きゃらきゃらと楽しそうに笑う二人を見つめるカイトの隣に小鳥が並ぶ。

    「どうした」
    「ねぇ、カイト。男性が女性にネックレスを贈る意味って知ってる?」
    「……知らんな」

    目も合わせずそう言ってのけたカイトに、小鳥は表情を険しくするとほんの少しだけ声に棘を乗せる。

    「そういうことは告白の一つでもしてからやって貰える?」
    「……俺だけではないだろう」

    自分だけでは無いと、遊馬の耳と指を飾るアクセサリーを見つめるカイトの姿に、小鳥は喉元までせり上がってきた文句を溜息として吐き出した。
    決して言葉には出さないくせして誰より大胆な行動をとることが多い彼の事だ。遊馬がそういうことに疎いのをいい事にネックレスを贈ったのだろう。しかしそれは彼だけではなく、遊馬の剣と盾を自称する彼や不良である彼。
    そんな彼らの意図を知りもせず、呑気にハルトと戯れている遊馬の姿に小鳥はもう一度溜息を吐き出した。

    ********************

    <おまけ>

    「ところで遊馬、そのドレスって明里さんから借りたの?」
    「ん?違うぜ」
    「え、じゃあ誰かから借りたとか……?」
    「それも違うぜ。ベクターがくれたんだよ」
    「は?」
    「よかれとおもって良かれと思って遊馬くんにあげます!って言ってさ」
    「…………」
    「こ、小鳥……?なんで、怒ってんだよ?」
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