楓可不『無意識スパイシー』「かーえでちゃん! 見て! 売店に綺麗なドリンクあったから買ってきちゃった。期間限定なんだって」
可不可が持ったグラスの中はオレンジと水色で層になっている。カランと音を立てて可不可がグラスを揺らすたびに夕焼けと夏空の境界が曖昧になっていく。
いつもと違うアクセサリーだけを身につけた上半身は透き通りそうなほどに白い。つい数ヶ月前まで病室で消毒液に混じった死の匂いを纏っていた可不可の、病的な青白さを思えば随分と健康的になった、と楓は思う。けれど身体は薄く、細い腰は楓が両手で掴めば指先同士が触れてしまいそうなほどだ。
「……可不可、なんか羽織るものないの? 日焼けしちゃうよ」
「もう、心配性だなあ。ちゃんと持ってきてます」
楓にグラスを預けた可不可が鞄をごそごそとあさり、薄い布を引っ張り出す。可不可が袖を通したそれはリゾートらしい柄とグラデーションが涼やかなシャツだった。
「じゃーん! UVカットは千弥のお墨付きだよ!」
涼やか、というか透けている。紫外線は防げるのかもしれないが、かえって危なっかしいような気がする。
グラスにまとわりついた水滴が可不可の手を滑り落ちる。水滴を追いかけた視線の先で素肌と、透けた布越しの肌色が見え隠れしている。
「ね、ストロー2本さしてもらったから一緒に飲もうね」
楓にもたれた可不可が小首を傾げた拍子にズレたサングラスを抜き取ってかけ、せめてもの抵抗として胸元のボタンを閉めたが、あまり効果はなさそうだ。仕方なく、やけに喉が渇くのを誤魔化すように、持ったままだったストローに口をつけた。