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    GF4S_XI

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    GF4S_XI

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    逆行キラシンオーブへたどり着くとともに、キラはモルゲンレーテへの技術協力として開発部へ通されていた。技術班の和気あいあいとした空気の中、ストライクのコクピットでキラは一人、ぼんやりと歪なOSを書き直していく。寝不足か精神的なものか、時よりぐらりと視界が歪むのがやけに鬱陶しく感じて強く目をこする。
     途端、柔らかな手が触れる感覚がして、キラは顔をあげた。いつの間にコクピットに人が入り込んだんだ。焦ればやけに見覚えのある少年が不安そうにこちらをのぞき込んでいる。
    「そんな擦ったら、めばちこできちゃうだろ。」
    「ぇ、いや、シン?」
    見間違えるはずもない。だってコーディネートされているとはいえ、こんなに人の目を引く少年居るはずがないから。長い黒檀から揺れる真紅は透き通って陶器のように滑らかな、新雪よりも真白な肌はほのかにあかくなっている。シン、シン・アスカだ。キラの部下で、キラを殺したことがあって、キラがすべてを任せて逃げた少年。記憶よりもちんまりとした姿で目の前に彼はいる。
    「え、シンだけど…なんでアンタ僕のこと…知ってんの?」
    「僕……ぼく…?」
    「ぁ!お、俺!!」
    珍しい一人称に思わずキョトンとすれば照れたようにすぐ訂正される。
     あぁ、この子もともとこんな感じなんだぁ。奪っておいてなんだけど、この頃の君ってこんなにかわいいんだね…。先程の不調なんて飛んでいってしまったようでキラの世界は輝いていた。
     キラは自分がどんどんすれていった自覚があったし、正直もう2回も全然平和にならない世界のために戦ってやるのもうんざりだった。
     それに、いまのうちにこの子どもの羽を手折ってしまえば、デスティニープランなんて実現できない。
     どれだけキラが戦場に身をおいても、キラを堕とせたのはアスラン(自爆)とシン、それからシュラの三人だけだ。シュラもたった一人で追い詰めたかと言われれば違うし、シン・アスカが現れなければデスティニープランを守るのはレイ一人。あそこまで短期間で戦況は悪化しないだろう。
     戦争の中でシンが慈しんできたいのちたちは途絶えてしまうが、幸いこのシンには記憶がない。つまりキラが今のうちに様々な教育を施せば籠の中を宇宙だと勘違いする哀れな蝶々のままでいられるのだ。
    「…その、大丈夫…?なんかしんどそうに、見えたから。」
     熱はないな。ひんやりとした手がおでこに当てられて思わずキラはその手に擦り寄る。シンはくすくす笑ってそのままキラの頭を優しく撫でてくれた。キラの目頭はワッと熱くなって、大粒の涙が頬を伝う。だんだん自分が泣いていることに気づいてきて、それから呼吸が乱れてひっひっと、息を荒く吸ってはいた。
     見かねたシンが背中をさすってくれて、その薄い体を思い切り抱きしめた。
     甘い、ミルクと石鹸の香り。シンのお腹は薄くて、皮と骨、臓物が入ってるなんて信じられなかった。とても肉なんて詰まってなさそうなのに、轟々燃える命の音であぁこの子は生きているんだとキラに伝えてくる。そう思ったら余計に涙が溢れて溢れてたまらなくって、声を上げて泣いてしまう。
    「う、ああぁ!!ひっく、おぇ、うわぁああん!!!!」
    キラがしゃくりあげるたび、ビクリ、と怯えたように肩は跳ね上がってそれから優しく背中と頭を触られる。
    「わっ!ええと大丈夫、大丈夫。」
     声変わりもうしてる。聞き慣れた声が甘くとろけるものだから、キラはやっと許された気持ちになった。死んでいくと知っていて引き留めなかったあの子。殺してしまったあの人。これから先殺してしまう彼の友人。キラは全部覚えていて、だからこそ切り捨てるたびに強く責められる夢を見る。ずっとずっと辛かった。ねぇ、君なら受け入れてくれるでしょう。だって君は誰よりも優しいんだ。だから僕は君に全部押しつけて逃げたんだもの。
     −−−−−さいていだ、最低だ、最低だ!!
     キラが元いた世界で、シンは戦死した。最後の最後まで戦い続けてそうして最後はあっけなく、ルナマリアか、アグネスだったか。どちらかをかばってのとこだったと聞いている。シンが居なくなったあと世界は核に耐えきれずそうしてようやく、世界が滅びてしまうからという名目を経て戦争は落ち着いた。
     ねぇシン、君はどんな気持ちで死んだの。ねぇシン、痛かった?怖かった?
     ねぇシン、僕はね、君は誰かを守って死ねて、嬉しかったって思うんだ。
     嗚咽を閉じ込めて、自分の懺悔さえ閉じ込めるように唇を噛み締めれば、シンは責めちゃ駄目だとキラの唇をふにふに弄ってくる。
     この子は本当に警戒心ってものがないのかな。
    どこか冷静な自分が、シンを不思議な目で見つめる。グシャグシャになった顔でシンを見上げれば、シンはふにゃっとわらって、スッキリした?なんて聞いてきた。
    「うっ…うぅ………」
    「ま、また泣くの?子供みたいなやつ」
    「僕16歳なんだけど、君が悪いんだからね、君が頭なんて撫でるからぅっ…うう……」
     またボロボロ涙をこぼせば焦って慌ててコロコロ表情の変わるシンが面白くって、くすくす笑いながら涙を拭けばもう平気だと思ったのか、シンはするりとキラの腕から抜け出してしまった。
    「あ…」
    離れてしまったぬくもりが寂しくて思わず手を伸ばす。行かないでよ、そばにいて。そんな言葉は喉につっかえてしまってキラは困ったようにシンを見つめた。見かねたシンは手のひらを握って、笑いかけてくる。
    「名前、名前は?俺はシン・アスカ。なんでか知らないけど、俺のこと知ってるみたいだけど…」
    「僕は、キラ…キラ・ヤマト」
    「キラさん」
    分かっていたけれど、君は僕を知らない。うつむいてキラにとって2度目の自己紹介をする。この間は慰霊碑だったっけ。
    シンのはつらつとした声がキラの名前をまるく呼ぶ。なぁになんて返事をすればふにゃふにゃ笑ってまたもう一度、キラの名前を優しく呼んだ。その笑顔の眩しいこと、愛おしいこと。キラは今すぐコクピットを閉め切って、この子供を閉じ込めてやろうかと思ったけれどそれはキラの泣き声に駆けつけたムウによって阻止されてしまった。
    「キラ?すごい声が聞こえたが…何だその子供」
     キラと、狭いコクピットにもう一人、見覚えのない少年がいることに驚いたのだろう。ムウはジロジロシンを眺めたあと、キラの瞼が腫れているのに気づいてギョッとする。そしてシンの腕を引っ張って、キラから距離をとらせた。
    「う、わっ!」
    「一応ここは部外者立入禁止なんだかな…どこの坊っちゃんか知らんが出てってもらうぞ。」
     キラは思わずシンの腕を掴んで、呼び止めた。ムウの言うとおり、シンはこんな所にいていいはずが無い。それでも、キラはシンのぬくもりを知ってしまった。これから嫌というほど奪われて奪って、失っていくのだ。キラを行いを許してくれる、包んでくれるシンの事を奪われるなんて、そんなの耐えれない。
    「いっ!!…キラ、さん?」
    「いかないで」
     両側から腕を掴まれてシンの身体は捕まったエイリアンのように固まった。キラは必死でシンにすがったからか、ムウも軍人で力があるからか、両腕を掴まれたシンは痛そうに顔を歪めて、それでも様子のおかしいキラを心配しているようだった。
    「いかないで、おねがい。どこにも行かないで。僕を、っぅ…ひとりにっ…!しないで。」
     ボロボロと泣きながら自分より2つも下の少年に縋る。キラの手のひらに力が入るたびシンは痛みに眉を寄せた。ムウがそれに気づいて思わずシンの腕を離せばシンはキラの方に駆け寄ってそのままキラのことをぎゅうっと抱きしめる。
    「大丈夫、あの人だってキラさんを心配して来てくれただけだよ。キラさんを大事に思ってくれてるから知らない俺をキラさんから離そうとしただけで…。キラさんが怖いなら側にいるよ。」
     ずびずびキラの鼻水が服につくのも気にせずシンはたえず頭を撫でてくれる。あったかい、いいにおい。なんでこんな所にいるかはわからないけれど、他国の軍が来ているのを知ってたのだろうか。シンの服装はちょっぴり私服と言うにはかっちりしてる。少しお高めの生地の服をキラが涙と鼻水でびちゃびちゃによごしても、シンは優しく包んでくれる。
    「そばにいて、くれるの」
    「いいよ。あはは!マユみたい、あんた。」
    もう平気?ここじゃ狭いから外で話そう、なんてシンは笑って、ぴょこぴょこストライクのコクピットから降りていく。ムウも落ち着いたキラの様子に苦笑して、シンのあとを追った。
    「トリィ!トリィ!」
    「あっ」
     突然トリィが羽ばたいて、何処かへ行ってしまう。キラはハッとしてシンがトリィを探す前にコクピットを抜け出した。
    「フラガ大尉!この子をお願いします!」
     しっかりと地面に着地して、ムウにシンを押し付ける。
    「道案内しようか!」
    「駄目だ!!君はここにいて!」
     せっかくアスランと出会う前に、君を見つけれたのに彼に出会ったら懐いてしまう。それは嫌だった。
    「また、すぐ戻ってくるから…だから」
    お願い。なんて言わずともシンはお利口に笑って、いいよ、とこれまた警戒心もなくムウさんと手のひらを繋いで僕に手を振った。
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