ファム・ファタールのダンスホール街灯り一つ届かない夜さりの倉庫街。海に程近いこの場所は夜の帳が降りると、現世で最も黒く濃い闇の世界になり果てる。何が起ころうが、静寂な闇は強固な檻のように、ここでの全てを包み込む。数多の人々が暮らす安寧のまほろばには決して届かない、黒の世界にだけ反響する悲鳴と破砕音。
「うわあッ!な、なんだっ!?何が起きたッ!?」
「うがッ…!!」
「ぐは…ッ、かっ…!」
「うわあああっ!」
男たちの絶叫する声が倉庫街の一角で重なり合う。互いの顔さえ認識できないほどの暗闇の中で、男たちは叫ぶ。スーツに身を包んだ十人ほどの集団、そのうちの一人が突然の衝撃に叫び、痛みに悶絶する声を上げたのを契機に、仲間たちは懐から取り出した銃を構え、そして。今。
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