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    harukotwst

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    harukotwst

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    本作は、ルーク受けWebオンリー「もちろん、私が猫役を Season4」の展示作として執筆した作品になります。

    ※注意※
    ・この作品に登場するツイステのキャラは「全員」ねそべりぬいぐるみの姿です。

    よいこのどうわ ねそルの嫁入り ぬいのおやまの奥深くには、魔法の鏡もこの国一番と認めざるを得ないほど、優れた体と心をもつねそルが住んでいました。
     ねそルの個体は多々いるものの、このねそルは少し風変わりなねそべりぬいぐるみでした。
     元来ねそべりぬいのねそルは体を動かすのが大好きで、成長するにつれて綿やフェルトの質感が暮らし向きに適応した強靭なものへ変わっていくのですが、このねそルは体を動かすことより、空を流れ行く雲を眺めたり、山の中の鳥や獣達と歌を歌ったりする方が好きでした。
     また、類まれなる幸運に恵まれたねそべりぬいでもありました。食事に困ったことはなく、嵐が来て食べ物や家が吹き飛ばされてしまうことがあっても、どこからともなくやってきた鴉の群れに何度も助けられてきました。
     そのせいか、ねそルは成体になっても真っ白くやわやわなフェルトと綿を保ち続け、知る人ぞ知る美ねそとなったのです。
     そんなねそルでも、夏の盛りが終わって涼しくなり始めた秋口に、成体になると全てのぬいが直面する、とある問題について考えるようになりました。
    「ぬうう。いまのくらしにふまんはないけれど、やはりともにわたをあたためあえるようなつがいのねそぬいがいてほしいなあ」
     しかし、ねそルは鳥や獣達とともに暮らしていたので、ねそぬいの友人はおろか知人さえいませんでした。
     考え込んだ末、ねそルは四つの手紙を用意しました。これを見たよそのねそぬいが自分のことを見つけて、せめて友達になってほしいと思ったのです。
     一つ目の手紙は、海辺で拾った空き瓶に詰めて、大好きな木の実と一緒に海へ流しました。
     二つ目の手紙も同じく瓶に詰めて海へ流しましたが、手紙の他に山で拾ったきれいなビー玉を詰めました。
     三つ目の手紙は、ここからとくに離れた場所で、自分と同じように隠れ住んでいるねそべりぬいに渡してほしいと言付けて、鳥に運んでもらうことにしました。
     四つ目の手紙を預かった鳥は、山を離れて遠い砂漠を飛んでいる途中にとてつもなく好みな同族の鳥と出会い、意気投合した結果番となるものの手紙を手放してしまい、どこかへ飛んでいきました。
     そうしてねそルが書いた手紙は、東西南北それぞれの地で、さまざまなねそべりぬい達に届くこととなりました。


     北の海に住んでいるねそアズは、幼少期から時々諍いを起こしながらも愉快に暮らしていたねそジェイとねそフロとともに、難破船へ探検にきていました。
     海で暮らすねそべりぬいにとって、難破船の探検ほど楽しいことはありません。暮らしがマンネリになりがちなねそべりぬい達と違って、さまざまな種類のぬいが乗船していたと思われる船内には、多種多様な生活の痕跡を見つけることが出来るのです。
    「きょうは、たくさんしゅうかくがありましたね」
     宝物の中でも特にコインを好んで集めているねそアズは、投網を加工した袋へ満杯になるまでコインを押し込み、満足そうに言いました。他に金目のものはないか周囲を見回していたねそフロが、海面を指しながら言います。
    「なんか、うえでぴかぴかひかってるものがあるよ」
    「とりにいってきます!」
     こうなるとねそアズは止められません。袋を半ば強引にねそジェイへ預け、ねそアズは瓶を取りに行きました。
    「こ、これは……!」
     中に入っているのは手紙と木の実のようですが、木の実は海底では手に入らないため高値で取引されています。瓶は魔法で封がされているため、水が一滴も入っていません。おそらく相当知能の高いねそべりぬいがこの瓶を流したのでしょう。
     一旦棲家へ戻って宝物をしまい込んだねそアズは、いそいそと外へ出ていき、誰も来ない秘密の海辺で手紙を読み始めました。
    『私は山に住んでいるねそべりぬいです。山での暮らしは楽しいですが、一人ぼっちは寂しいです。この手紙を読んでくださるねそべりぬいが今とは全然違う世界に住んでいたら、そちらへ行ってみたいです』
     山へ住んでいるぬいということは、海に何があるかなど知るはずもありません。きっと刺激的で目新しいものがたくさんあるはずです。ねそアズは手紙から判別できる持ち主の魔力の高さや気配り上手さ、何より手紙の端に書かれていたねそルの似顔絵にすっかり心を奪われてしまいました。
     何が何でもこのねそべりぬいに会いたい。そして是が非でも自分の番にしたい。
     そう考えたねそアズは、秘密の海辺の岩場を崩して小さな洞穴を作り、これまで集めてきた色々な宝物で飾り立て始めました。ここを新たな新居とするためです。
    「あーあー、そのきになっちゃったよ」
    「ねそアズはいっかいそのきになってしまうと、とめようがありませんからね……」
     ねそアズに聞かれないよう、ねそジェイとねそフロはそっと溜め息をつきました。


     西の海岸には魔力の流れる道筋があり、あまりにも強力な魔法であるため長い間無人となっていた洞窟がありましたが、それを逆手に取って居着いたねそぬいがいました。
    「あ〜……きょうもなんにもやるきがでないなー……」
     ねそイデは魔力に対する耐性は非常に強かったものの、全身のフェルトが脆弱であるため、夜から明朝にかけての間しか屋外へ出ることができませんでした。
     ねそべりぬいは主に食事から魔力を供給しないと生きていけませんが、ここで暮せば住んでいるだけで魔力が無尽蔵に手に入るため、狩りや採集をしたくないねそイデにとってはうってつけの住処でした。
     弟のねそオルにはねそイデのようなハンディキャップが無いため、外の世界で暮らすこともでき、かつ洞窟で過ごすこともできました。ねそオルと遊ぶ時間はねそイデにとって癒やしのひとときでしたが、ねそオルには懸念材料がありました。
    「にいさんももういいとしなんだから、そろそろつがいをみつけなきゃだめだよ」
    「ででで、でも、せっしゃここからでられないし……」
    「にいさんとおなじように、よるだけうごけるねそべりぬいとくらせばいいとおもうよ。それに、もしぼくがいなくなっちゃったらどうするの?」
     ねそオルの言葉はねそイデには非常に刺さりました。ねそイデがそうであるように、ねそオルももう立派な成体です。そろそろ番を見つけて結婚してもいい頃です。
    「じゃ、じゃあ、せっしゃとおなじくらいにこどくで、たぬいからはなれてくらしていたきかんがながいけど、たぬいよりずばぬけてあかるくむじゃきなねそべりぬいがいたら、つがいになってもいいよ……」
     まさかそんなねそべりぬいがいるはずがない、そう思ってねそイデはねそオルに言ったものの、この発言から三日ほど経って、ねそオルは手紙の入った瓶を持ち洞窟にやって来ました。
    「にいさんがいったとおりのねそべりぬいがいたよ!」
    「マ!? そ、そんなことが、あるわけ……」
     ねそイデは魔法の封を解き、瓶をひっくり返して手紙とビー玉を取り出しました。
    『私は山に住んでいるねそべりぬいです。ひとぬきりで暮らしていて寂しいですが、これを読んでいるあなたもひとぬきりならば、孤独を癒やし合えると思います。あなたの住んでいる世界へ行ってみたいです』
     ビー玉は、洞窟内に満ちている青白い仄かな光に照らされて、ぴかぴかと輝いています。生まれ持った性格はもとより、自分の体質では番のねそべりぬいと暮らすなど夢のまた夢と思っていたねそイデは、にわかに綿が熱くなるのを感じました。
    「せっしゃもこのねそべりぬいにあってみたいでござる!」
     ねそイデは初めて心の底から会いたいと思ったねそべりぬいに会うべく、身繕いと洞窟内の掃除をすることにしました。相手がどう思うかはともかく、兄がやる気になってくれたことは嬉しいので、ねそオルも喜んで手伝いをしました。


     東には常日頃から暗雲が立ち込め、側面が真っ黒な茨に囲まれている上、ちょっとしたことで雷が落ちるため、他ぬいがまったく寄り付こうとしないような渓谷があります。
    「またこんかいもしょうたいされなかった……」
     この谷の主であるねそマレは、今朝方茨に引っかかっていた遠い異国のぬい達のパーティーについて描かれたポスターを見ながらしょんぼりしていました。
    「ねそマレさまをさそわないなど、なんというふとどきものか!」
     茨めがけて雷が落ちます。この谷に落ちる雷の三割ほどは激怒したねそセベによるものでした。
     ねそマレは過去に一度だけ、よそのぬいとの交流に憧れて、東の谷でパーティーを開こうとしたことがありました。招待状を方方へ送り、茨を刈り、谷底までの道を花で飾り立て、よそのぬいをもてなすための様々なごちそうを用意していました。その時ばかりは、東の谷にも僅かに日光が射したと言われています。
     しかし、ねそマレが楽しみにしすぎたあまり当日になって体調を崩してしまい、谷は大嵐に見舞われてしまいました。そのせいで誰も中に入れず、パーティーは中止となってしまったのです。
     そのことがすっかりトラウマになってしまったねそマレは、幼少期から共に暮らしているねそリリ、ねそセベ、ねそシルの三ぬいと谷底へこもる日々を送っていました。
    「もうぼくはにどとほかのぬいにはあえないんだろうか……」
    「そんなことはありません。げんきをだしてください」
     ねそシルにもちもちされながら励ましを受けていると、ねそリリが頭に鳥を乗せて帰ってきた。
    「かみなりにあたってけがをしてしまったようじゃ。ねそマレ、おぬしのちからでなおしてやってくれ」
     ねそマレにとっては、その程度造作もないことです。鳥の怪我は一瞬で治りました。せっかくの訪いぬい、ならぬ訪い鳥であるため、ねそマレはほかにも鳥が好みそうな木の実や飲水を分け与えました。
    「それにしても、なぜこのようなばしょをとんでいたのだ?」
     鳥はねそマレに、ねそルから預かっていた手紙を渡しました。
    『この手紙を読んでいるあなたは、ここから遠く離れた場所にくらしているぬいだと思います。私は山の中でひとぬきりで暮らしているねそべりぬいです。遠い土地にいるあなたへ、良かったら友達になってもらえませんか?』
     ひときわ大きな雷が、東の谷底めがけて落ちていきました。突然のことに鳥は驚き、ねそリリの頭にしがみついています。
     ひょっとしたら友達ができるかもしれない。四ぬいしか住んでいないこの地へ、ついに別のぬいがやってくるかもしれないのだ。
    「このぬいにぜひあってみたいぞ。つれてきてくれたら、まつだいまでうえにくるしまないようほうびをさずけよう」
     手紙を運んだ鳥は怯えつつもねそマレの誘いに乗り、ねそルをここまで連れてくる約束をしました。


     南には相次ぐ干魃や森林火災により、象牙色の砂地が延々と続く砂漠地帯がありました。大地は荒廃してしまったものの、不毛の大地は天然の要塞となり、オアシスには砂漠で生まれたねそべりぬい達が愉快に暮らしていました。
     そこに住んでいるねそべりぬい達は群れを作り、頂点にねそレオを据え、ヒエラルキーのもとでそれなりに秩序だった平和な暮らしを送っていました。
     これまで不自由なく暮らしていたねそレオでしたが、番のねそべりぬいだけは外から調達してこなければなりません。気付けばすっかり階級社会となってしまった南の砂漠では、下々のぬいがヒエラルキー間を移動することはあっても、ねそレオの番となれば話は別だからです。
     そもそも階級以前の問題で、近寄りがたく気難しげなねそレオの番になることを、言葉にはしなくてもねそべりぬい含む他のぬい達は避けたがっていました。
    「でも、つぎのふゆがくるまえに、なんとかしたいとおもうッス」
     側近のねそラギは、ねそレオが寝静まった夜半にねそべりぬい達を集めて宣言しました。
    「そんなにいうなら、ねそラギせんぱいがつがいになればいいじゃないっすか」
    「いやッス。あれは、じっとねそレオさんのとなりにいられるねそぬいじゃなきゃたえられません」
     ねそラギはねそジャクの言葉に即答した。
    「べつにおれは、ねそジャクくんでもかまわないッスよ」
    「そういうのはかいしゃくちがいなんで、いやです」
     ねそジャクもねそラギの言葉に即答した。他のねそぬいも大体似たような回答です。
     何ぬいかでチームを作り、ねそレオの番問題に終止符を打つため、各チームは砂漠中を巡ることにしました。砂漠にねそべりぬいなど早々いるものではなく、更にねそレオの番候補となると話は別です。来る日も来る日も巡回は続きました。
     ある日、巡回から帰ってきたねそべりぬいが、ねそレオに手紙を渡しました。ねそレオはあくびをしながらその手紙を読み始めました。
    『この手紙は、ここから遠く離れた場所にくらしているぬいのもとへ届いていると思います。私は山の中でひとぬきりで暮らしているねそべりぬいです。遠い土地にいるあなたの孤独も、私なら理解できます。良かったらお友達になりませんか?』
     他のねそぬい達は、ざわつきながら遠巻きにねそレオの様子をうかがっていました。普段は他ぬいから手紙を受け取っても自分で読むのは最初の数行だけで、あとはねそラギに処理させることが多いにもかかわらず、今日のねそレオは自分で全て読んでいるのです。
    「こいつにあいてえ。じゅんびをはじめろ」
    「ほんきッスか」
    「どのつらさげてやってくるのか、いまからたのしみだぜ」
     その声は、いつものねそレオの意地悪げなものではなく、どこか楽しげな明るいものであるようにねそラギは感じました。この手紙の差し出しぬいは、何か新しいものをこの砂漠にもたらしてくれそうな予感がします。


    「ぬうう……」
     さて、これで困ってしまったのはねそルです。四ぬいに手紙が渡れば一ぬいくらいは返事をしてくれるだろうと思っていたら、全ぬいから返事が来てしまったのです。
    「でも、もりをでてせかいをたびするよいきっかけになるかもしれないね! せっかくだし、へんじをくれたねそべりぬいへあいにいくことにしよう!」
     とはいえ、数ヶ月もすれば厳しい冬が来ます。冬将軍はどの土地に住むぬいにも容赦しません。秋は豊かな実りの季節である一方で、同時に冬の蓄えをしていかなければならない時期でもありました。
     迷った末、ねそルは今年の冬を乗り越えて春が訪れたら、季節ごとにそれぞれのぬいの住む地を巡る旅へ出ることにしました。
     春はねそマレの住む東の谷へ。夏はねそアズの住む北の海へ。秋はねそイデの住む西の洞窟へ。冬はねそレオの住む南の砂漠へ。それぞれのねそべりぬい達に手紙を出し、了承の返事を受け取ったねそルは連日意気揚々としながら越冬準備に励み、次に訪れる春を楽しみにしつつ、いつもねぐらにしている大木のウロの中で冬眠に入りました。


     やや遅めの春の訪れとともに、ねそルは東の谷へ向かいました。
     常日頃から黒々とした茨に覆われている東の谷では、春になると白い花があちらこちらで見られるようになります。この季節になると一年を通して谷間を流れる陰気な空気も少し和らぎ、ほのかな日差しを浴びることもできるようになります。
     ねそマレが住んでいるのは、茨に包まれた荘厳なお城です。春の間は少ない側近とともに、穏やかに城の中で過ごしていたのでした。
     ねそルは城に向かって声を張り上げました。
    「ぼんじゅーる! る・しゃそぅ・どぅ・あむーるのわたしがあいにきたよ!」
     城の荘厳な門が開きました。ねそルを迎え入れる準備は万端のようです。
    「よくきたな。ぼくがこのたに──」
    「あんしゃんて、ろあ・どぅ・どらごん! うわさにたがわぬどうどうたるたたずまいだね」
    「……ぼくが、このたにのあるじの」
    「りっぱなつのだね! これまでもつのをもつぬいはみてきたけれど、こんなにりっぱなつののもちぬしははじめてみるよ!」
     ねそマレは小さく咳払いをして続けるものの、ねそルによって阻まれます。
    「きさま! ねそマレさまにたいしてぶれいだぞ!」
    「もん・でゅ……ちょっとはしゃぎすぎてしまったよ」
    「ぼくはかまわない。ところで、ぼうしからのぞいているしろいものはなんだ?」
     ねそマレに言われて気づいたか、ねそルは少し帽子を上げ、はみでていた白い布を引っ張りました。小袋のように丸めていたそれを、ねそマレに向かって差し出します。
    「きみへのぷれぜんとだよ!」
     ぷれぜんと、と誰にも聞こえないほど小さな声で、ねそマレは繰り返しました。
    「ひがしのたにははなのしゅるいがすくないときいてね、いろいろなはなのたねをもってきたんだ。いままけば、はやければなつにはつぼみがではじめて、あきにはなひらくとおもうよ!」
    「このたにのかんきょうで、はたしてさくかの〜」
     ふよふよと浮いていたねそリリが、横切りながら言っていきましたが、ねそルは振り返って力強く言いました。
    「たいせつなのはしんじるこころさ。とろうにおわるかもしれないけれど、ためしてみることはけっしてむだではないとおもうよ」
     ねそマレは、谷の外に咲く花を見たことがありませんでしたし、外から持ち込んだ種を撒くという発想もありませんでした。
    「このたににも、ひがさしこむところはある。そこへあんないしよう」
     城の広さに比べたら、あまりにも狭すぎる場所です。そこはねそシルがよく昼寝に使用していたお気に入りの場所で、その日も安らかに寝息を立てていたものの、不憫にもねそマレたちに立ち退きを要求されてしまいました。しかし、ねそマレから目的を聞いたねそシルは納得して、雑草を抜き取り、土を耕して均し、種を撒く手伝いをしました。
     最初は半信半疑だったねそマレも、ねそルから話を聞くうちに、将来的に生まれるであろうささやかな花壇に思いを馳せるようになりました。谷のぬい達は、甲斐甲斐しく花壇の世話をするねそマレを見ると、とても綿が温かくなるのでした。
     悲しいことと言えば、この花壇が花で満たされる頃、ねそルはもう傍にはいないということです。
    「きみとはなればなれになるのはつらいけれど、ほかのねそべりぬいにもあいにいかなければならないんだ。しんじていればきっとはなひらくから、たにへかみなりをおとしてはならないよ」
     春と夏の境目の日、ねそルは東の谷から去っていきました。
     ねそルが去った後も、ねそマレは花壇の世話を欠かしたことはありませんでした。谷の住人たちが、そういえば最近谷に雷が落ちないなあと思いながら空を仰ぎ見たのは、それからさらに一つの季節が過ぎた後だったといいます。


     夏になると、ねそルは北の海へ向かいました。
     北の海は極端に冷え込み、流氷によって行く手を阻まれることすらある場所ですが、夏ともなると海面は穏やかに凪いでいます。ねそルは、空の色とはまた異なる青さの浅葱色の海面が広がる北の海がすぐに気に入りました。
     ねそルはねそアズが補修し、目印として船の残骸のそばに立てていた旗へ近づいていきました。
    「ようこそ! えんろはるばるよくいらっしゃいました」
     ねそルを見つけたねそアズはきわめて好意的に話しかけてきたものの、ねそルは首を傾げていました。聞いていた話と、ねそアズの姿が少し違う気がしたからです。
     送られてきた手紙の内容によれば、ねそアズはそれぞれの足にみっちりと綿が詰まった蛸の人魚のぬいぐるみであるはずですが、目の前に現れたのはねそルと同じ四肢を保つねそべりぬいでした。
    「あなたはみずのなかへはいっても、およげずそのまましずんでいってしまうでしょう? だからぼくがあわせることにしたんですよ」
    「とれびあん! そのこころづかいはうれしいよ!」
     ねそアズとねそルはすぐに打ち解け、ねそアズは意気揚々と北の海を案内して回りました。ねそルはにこにこしながらひたすら話し続けるねそアズの話を聞き続けていました。満を持して案内された、ねそアズがねそルのために用意した洞穴もすぐに気に入り、ねそルは北の海の美しさを詩に読み上げてたたえました。
     美しいのは、海だけではありません。夜が更けると海と空の境界は溶け、まるで世界が球体になったかのように思えてくるほどです。夜空を覆い尽くす満天の星々と、夜の海面に散っている淡い光は、まるで宝石を撒いたかのような煌めきを放っていました。
     最初は距離を起きがちだったねそジェイとねそフロも、ねそアズがすっかりねそルに心を許しているのを見て、少しずつ話しかけたりその日の収穫を分け与えるようになりました。
    「おもしろくねーぬいがきたらきゅっとしめてうみにほうりなげてやろうとおもってたけど、おまえはたのしいからいいよ」
    「あなたもおもしろいですが、あなたとはなしているねそアズを見るのはもっとおもしろいです。ふだんは、あんなふうにようきにしゃべったりしないので」
     実際、ねそアズ自身も、幼少期から共に過ごしてきたねそジェイとねそフロを除いたねそべりぬいと話している時、これほど楽しいと感じたことは今までありませんでした。
     夏が終わりに近づくと、空の青さは淡くなり、どんどん遠ざかっていくように思えてきます。ねそアズは、秋になったらねそルは別のねそべりぬいに会いに行くことを知ってはいたものの、空の遠さがねそルの体だけでなく心までも遠くへ追いやってしまうような気がして、内心は穏やかではありませんでした。
     最後の晩、ねそアズはねそルに向かって、自分が抱いている壮大な計画のことを話しました。
    「ぼくは、いずれはこのうみからでて、もっとおおきなじぎょうにとりくむつもりです」
    「そうなのか。だいじょうぶ、きみならきっとたっせいできるはずだよ」
    「あなたにも、いっしょにきていただきたいのですが。ぼくと、ねそジェイやねそフロがいっしょであれば、きっとたのしくゆかいにやっていけるとおもうんです」
    「おーらら……おさそいはほんとうにうれしいのだけれど、これからほかのねそべりぬいにもあわなければならないんだ」
    「ぼくといっしょにいるのが、いちばんたのしいとおもいますよ」
     どのねそべりぬいもきっと同じことを言うのだろうと、ねそルは思いました。ねそルはぎゅっと、ほんのり冷たくも柔らかいねそアズの手を掴みます。
    「きっと、さいかいしたあとのきみはすばらしくせいちょうしているとおもうんだ。いまのわたしは、そんなきみとふたたびあえるひがたのしみでしかたないよ!」
     ねそルのその言葉は、ねそアズの心にじんわりと染み込みました。
    「かならずまたあいにきてくださいね。いまとはくらべものにならないほど、せいちょうしたぼくをみせてあげますから!」
     ねそアズにとってのねそルは、番というよりも信頼が置ける得難いパートナーのように感じられました。
     翌日、三ぬいは北の海からねそルを見送りました。


     秋になり、ねそルは西の洞窟へ向かいました。
     西の洞窟の岩場に打ち付ける波の色は、北の海とは違って淡い浅葱色に染まっていました。延々と続く岸壁をなぞって歩いていくと、一箇所だけ中央に向かってえぐれた箇所があったので、ねそルはそこがねそイデの住処だと分かりました。
    「ぼんじゅーる、ろあ・でぃ・てしょんぷ! あえてうれしいよ!」
    「ひいいいい!」
     辛うじて日差しに当たらない場所でねそルの訪れを待っていたねそイデは、ねそルの明るい声に驚きました。一瞬だけ火力が上がり、頭のフェルトが洞窟の天井へ届きそうな勢いで燃え上がります。
    「あ、う、あ、いらっしゃいませ……どぞ」
     ねそオル以外の他ぬいを中へ招き入れることなど、ねそイデには初めてのことでした。ねそオルは、越冬準備を始める時期までは帰ってこないと言い残してどこかへ行ってしまいましたし、洞窟にはねそイデとねそルの二ぬだけです。
     ねそイデは何を話せば良いのか分からず、しどろもどろになっていましたが、ねそルは不思議な青い光で満たされた洞窟の中が気になって仕方なく、忙しなく洞窟内を見回していました。
    「ここはとてもすてきなかがやきで溢れているね。キミはいつもこのひかりを見てすごしているのかい?」
    「いや……おとうととあそんだり、ぼんやりしてることがおおいいけど」
    「そんなのもったいないよ。このどうくつのなかのひかりを、もっときちんとみてごらん。いろんなかがやきでみちあふれているじゃないか」
     そう言われて、ねそイデはなじみきった洞窟の中をぐるりと見回しました。ねそルの言う通り、洞窟内にはひときわ明るく輝く場所や、ちかちかと明滅を繰り返す場所、光が淡く帯のように流れる場所など様々です。
     ねそルは持ち前の語彙力で、洞窟内の光を様々に喩えていきました。
    「でもキミのかがやきがいちばんうつくしいよ!」
     ねそイデは洞窟の中でもそうと分かるほどに顔を染め、気恥ずかしさのせいでその場へうずくまってしまいました。
     翌日の夜から、二ぬは少しずつ外出をするようになっていきました。秋の風はとても心地よく、二ぬの上の空を流れていきます。最初は外出するのを嫌がっていたねそイデも徐々に打ち解け、日が傾きかけた午後であれば、日中でも外へ出られるようになりました。
     今までは見かけても何も感じなかった花や虫たちでも、ねそルと共に見ると感じ方が全く違います。これまでの自分が見ていた世界が、ねそルにとってはこれほどにまで美しいものだったとは思いもしませんでした。
     秋の盛りを過ぎて空気が寒さを帯び始める頃、ねそルはねそイデのために冬の蓄えを集める準備を手伝っていきました。
    「ほんとうにいっちゃうの?」
     最後の日、ねそイデは寂しげな声で問いかけました。
    「ほかのねそべりぬいにあいにいくんだ。きみとももっといっしょにいたいけれど、わたしはきっとまたきみにあいにくるよ」
    「ぬう……きをつけていってくだされ」
     次の秋も来てほしい、何ならずっと一緒にいてほしいと言いたかったものの、ねそイデはその言葉を飲み込みました。
     ねそルを見送ったねそイデは、洞窟の中でじっとねそオルの帰りを待つことにしました。ねそルがいなくなった後の一人ぼっちの洞窟は、とても寒かったのです。
     ねそオルが越冬のため戻ってきて、旅の話を色々と聞かせてくれましたが、心に空いた隙間はまだほんの少し開いているように感じられました。


     冬が来て、ねそルは南の砂漠へ向かいました。
     荒涼とした風が吹く南の砂漠でも、他の地域同様に越冬の準備が行われますが、寒暖差の厳しい土地らしく準備は念入りに行われます。他の地域よりも準備に長い時間がかかり、真冬ともなれば気温が零下になることも珍しくない砂漠では、冬の始まりから春の訪れまで、ねそべりぬい達はみんな地下へ潜ることになっていました。
     一部のねそべりぬいが越冬へ入った後で、ねそレオはオアシスの入り口でねそルを出迎えました。ねそレオの姿を見たねそルは目を輝かせ、元気に挨拶をしました。
    「ぼんじゅーる! ろあ・どぅ・れおん、あうことができてうれしいよ!」
    「ちっ……さむいだろうが、はやくなかにはいれ」
     既に越冬に入ってしまったぬいもいるため、オアシス内は静まり返っていたものの、ねそルはその静寂が嫌いではありませんでした。独り寝の寂しい夜に、そっと寄り添ってくれるような優しさを感じられるのです。
    「ここにきてもやれることはないぜ。さばくでもふゆはさむい。いちどここへきたら、はるになるまででられないぞ」
    「もちろん、わかっているよ」
    「ろくにくうものもねえぞ。ふゆようのびちくはまずいめしばっかりだ」
     ねそレオの言葉を聞いていたねそぬいは、聞こえないようひそひそと話し合いました。ねそレオの本心が違うことは分かっていたからです。
     ねそレオはねそルが西の洞窟で過ごしていた秋の間、ずっと砂漠の中を歩き続け、備蓄向きの食料の中でも脂肪が多くて栄養価が高く美味しい木の実をせっせと集めていました。本来なら他のねそべりぬいに全て任せてしまうところを、ねそルの食料の分だけは自分で集まると言って聞かなかったのです。
     大半はねそレオが集め、一部は実力行使で群れの中で奪い合った木の実の量は、一ぬいどころか三ぬいは一冬を余裕で過ごせるだけ集まっていました。
    「せぼん! はじめてたべるあじだけど、まったりしていてとてもおいしいよ。わたしのために、たくさんあつめておいてくれたんだね。ありがとう」
     さすがのねそレオもまんざらではないようで、少々赤みが差した顔を見られるのが恥ずかしいのか、ねそルから顔を逸しました。
     ねそレオは自分のねぐらにねそルを案内しました。さすがにねそべりぬいが二ぬもいると少々狭く感じるものの、いつもの冬ならばあるはずの寒さがまったく感じられません。
    「ほんとうにいいのか。つぎのはるまでこのままだぞ」
    「あんしんしておくれ。きみへのてみやげをたくさんもってきたんだ」
    「なんだ?」
    「わたしがすんでいるやまのことや、とりやけものたちからきいたおはなし、よるにほしぼしがささやきかけてくれるものがたり……いくらでもはなしていられるよ! それに、きみのおはなしもきかせてほしいな」
     ねそルがやって来た日の翌日、南の砂漠ではねそレオによって越冬開始宣言が行われ、オアシスは無ぬいとなりました。
     ねそルはねそレオに言った通り、冬の間はさまざまな話を聞かせました。ときには歌を聞かせ、二ぬで寄り添い合いながら眠りました。底冷えするはずの地中が寒くないと感じたのは、ねそレオにとってはこの冬が初めてだったかもしれません。備蓄の食料が減ってくると、ねそレオは多くを語らずに、自分の分をねそルに譲りました。
     少食遅れてやって来た春、ねそレオが越冬終了宣言をする前に、ねそルは自分の山へ帰ることにしました。
    「ああ、なごりおしいよ。とんでいくいっぽんのやのように、あっというまにきみとすごすふゆがおわってしまった」
    「うるせえ。さっさとじぶんのやまへかえりやがれ」
     そうは言っても、ねそレオは引き止めたい気持ちでいっぱいでした。ねそルの話す物語や歌を聞いている時は、ずっと抱え続けてきた憂さを忘れることができたからです。
    「……でも、きたくなったら、またきていい」
     最後に小さく言い添えると、ねそルは何度も大きく頷き、ねそレオの手を握りしめました。その感触を忘れないように、ねそレオはねそルを見送った後も、しばらくはその場から立ち去れずにいました。


     かくして、ねそルの旅は終わりました。一年間放っていた山の自宅は荒れ放題になっていましたが、魔法があったので一瞬で綺麗になりました。
     また、一年が始まります。穏やかな春が終われば、夏と秋を経て次の冬が来ます。
    「とてもすばらしいいちねんだった。でも……」
     大きな白い花びらが舞い落ち、ねそルの顔にまだら模様の影を作ります。
    「つがいを一ぬだけえらぶというのは、とってもむずかしいことだなあ……」


     さて、ねそルは一年間を四ぬいのねそべりぬいと楽しく過ごしていましたが、この状況を好ましく思っていない一ぬのねそぬいがいました。
     中央の平原に住む魔法の鏡の持ち主、ねそヴィです。
     小高い丘の上の城で住んでいるねそヴィは激昂し、自分のまんまるの手を鏡へ押し付けて叫びました。
    「あたしがさいしょにめをつけていたのに、ほかのねそべりぬいにとつぐなんてゆるせないわ!」
     ねそヴィとて、本当に何もしていなかったわけではありませんでした。数年前から鏡越しにねそルを見守り続け、成体になって次の春が来たら城を出てねそルにプロポーズをしたいと思っていたのです。
     もっともねそルは、ねそヴィのことは全く知りません。何しろねそヴィがやっていたことは、鏡越しに見守り、困っているようなら丘の周辺を飛んでいる鳥や小動物達の力を借りて、ちょっと助けてくれるように言っていただけだったものですから。
     そして、ねそヴィも他のぬい達と同じように、自分が欲しいと思ったものは絶対に手に入れる主義でした。ねそルは自分を選ばないのではないか、などという想像はしなやかな綿の一欠片にも過りません。
     ねそヴィの全身の綿が嫉妬で熱く燃え上がり、山の中腹にねそヴィが放った大勢の鴉が飛んできました。
    「おーらら! おーららっ!」
     いつものように外へ出てのんびりしようとしていたねそルは、そのまま鴉達によって連れ去られ、気づいた頃には中央の平原の城へやって来ていました。
    「ぬっ! ……ぬわわ〜!」
     とても立派な石造りの城を前にして、ねそルは興奮していました。住処の周りには、自然の営みによって作られた多種多様な美しさがありますが、このお城には別種の美しさがあります。
     しかし、わくわくしながら門へ近づいた瞬間、転移魔法が発動して、ねそルはお城の奥にあるねそヴィの間へ転送されてしまいました。
    「ぬっ……ぬう」
     ねそヴィは咳払いをして、目の前に現れたねそルに声をかけました。
    「よくきたわね。あたしはこのへいげんをすべる……」
    「せ・たみゅざん! いまにもうごきだしそうなほどせいこうなちょうぞうがたくさんあるよ。りょうめにはめられているのはえめらるどかな?」
    「あたしは、このへいげんをすべる……」
    「こちらはきんぞくでできているはなだ! いちまいいちまいのかべんがとてもうすくつくられている。これはだれかのてによってつくられたもの? それともじせいしているものなのかな」
    「ぬーっ!」
     ぽんっと軽い音を立て、ねそルが見つめていた花が弾け、白煙とともに消えてしまいました。
    「ぬー……なんてはかないいのちなんだ」
    「それはあたしがつくったのよ! そうじゃなくて」
    「そうじゃなくて?」
    「あんたはこのいちねんかん、さまざまなとちへたびにでて、いろいろなねそべりぬいとあってきたそうね」
    「ああ! みんなじぶんのしそうとしんねんをつよくもつ、すばらしいねそべりぬいだったよ」
    「どのねそべりぬいをつがいにするかは、もうきめたの?」
    「ぬうう、それがまだなんだ。やはりひとぬいだけきめるというのはむずかしいね。だれにするかをきめるまでは、まだまだじかんがかかりそうだよ。でももういちどおなじことをくりかえしてしまうと、またいちねんかかってしまう」
    「ここはちゅうようをとるべきよ。あんたはあたしとつがいになるべきだわ」
     ねそルはじっとねそヴィを見つめました。
     これほどにまで美しいぬいは、世界のどこを探してもいないでしょう。フェルトはなめらかで光沢を帯びており、体内の綿はしなやかで一つ一つの挙動が軽快です。ただ平穏に生きているだけならこうはなりません。ねそヴィは自分の役目を把握しつつも、自分磨きに余念がなかったのです。
     なにより、ねそヴィの帯びている空気は、甘やかなものを感じます。ねそヴィは紛れもなく自分に愛情を懐いているようです。ここで番になると言えば、間違いなく幸福に慣れる道筋が開けることでしょう。
     しかし、考えあぐねたねそルは小さな両手で顔を覆いました。
    「きみはたしかにとってもうつくしいし、いっしょになればしあわせになれるだろうけど、ほかのねそべりぬいもだいすきだ。そうすぐにはきめられないよ……」
    「らちがあかないわ。ぜんぬい、ここへよびましょう。そしてみんながそろったら、あんたにはこのばでつがいをきめてもらうわ!」
    「ええっ!?」
     ねそヴィはねそルが会ってきたねそべりぬい達全員に、自分を含めた全ねそべりぬいの中で番を選ばせる旨を手紙で通達しました。それぞれのねそべりぬい達は側近のねそを連れつつ、全員が城へやって来ました。
    「ぬう。たしかにねそルがえらぶだけのことはあるわ、みんなえりすぐりでおーらをかんじるねそべりぬいたちね」
    「そういうあんたはさー、ねそルとであってなにかあったの?」
    「あたしはこれまでちょくせつあってはこなかったけど、ねそルがかいてきにくらせるよう、いろいろなおてつだいをしてきたわ」
    「わたしのみにおこっていたさまざまなきせきは、きみのおかげだったのか!」
    「そうよ」
    「そんなの、あとからなんとでもいえるじゃないですか」
    「なんですって!?」
     ねそべりぬい達が揉める中、ねそマレは悠々とした所作で片手を上げました。
    「ねそセベ、れいのものを」
    「はっ」
     ねそセベが掲げてみせたのは、額装された押し花でした。赤、黄、紫、様々な色彩の押し花が飾られています。
    「このはなばなは、ねそルがさくしゅんにやってきてぼくらにくれたたねからはぐくまれたものだ。ふゆになってもかれないよう、こうしておしばなにして、ねそルのかわりだとおもってたいせつにしてきた。ぼくこそねそルのつがいにふさわしい」
    「わかさまのおっしゃるとおりです!」
    「こちらもまけていませんよ!」
     ねそアズは、樽の底のように円形にくり抜かれた木の板を取り出しました。そこには小さく細かい文字で、何やら書いてあります。
    「あらたなこうろをきりひらき、とうざいなんぼくすべてのうみをわたられるようにしたきょかしょうです。ぼくといっしょにくれば、すべてのうみがいずれはてにはいりますよ。ぼくのつがいになるのはけんめいなはんだんです」
    「ちょーっと、まった!」
     ねそオルが話に割って入ります。
    「そもそもぼくらがいきていけるのは、こぬいのもつまりょくがあるからだよ! にいさんがくらしてるどうくつなら、しぬまでうえにくるしまないじゅんたくなまりょくがてにいれられるよ」
    「は……はい、ちゃんとねそルしがくらしやすいよう、ふゆのあいだじゅうずっとがんぺきをけずったりしてなかをととのえたりしてましてえ……」
    「そのていどか?」
    「ひいいっ」
     ずい、と近づいてきたねそレオに最初は気圧されてしまったねそイデですが、数秒向かい合った後、逆にねそレオを睨み返しました。
    「そっ、そのていど? そのていどっていいました? じゃあぎゃくに、せっしゃのすんでるどうくつないほどまりょくにあふれてるばしょをしってるぬいがいるんですかな? ねそべりぬいのきほんちゅうのきほんのものがてにはいるんです、だからせっしゃの、つがいになって、くだ、くだひゃい!」
    「かんじんなところでかんでんじゃねえよ」
    「いやだーっ、せっしゃはおどしにはくっしないぞ……!」
     二ぬの間にねそオルとねそラギが割り込み、なんとか二ぬを引き離すことに成功しました。ねそレオは舌打ちをして言います。
    「おれのところがいちばんいい。ああみえて、ちかにもぐればなつはすずしくてふゆはあたたかい。たべるものもたくさんあるし、なによりてしたのぬいたちがたくさんいる。なにふじゆうなくくらせるぞ」
     五ぬいの目線がねそルに向きます。
    「ぼくがいちばんだ」
    「いやいや、ぼくのつがいになるべきです!」
    「せっしゃのつがいになってください」
    「おれのつがいになるのがいちばんだ」
    「おねがい、あたしをえらんで!」
    「ぬ……ぬ……」
     ジリジリと近づいてくるねそべりぬい達に怯え、ねそルは後ずさります。
     どのねそべりぬいにも、長所と短所があります。得意なことがあれば苦手なこともあって当然なのです。どうして優劣をつけることなどできるでしょうか。
    「わ、わたしは、わたしは……」
     ねそルはきゅっと手を握りしめて、天井に向かって叫びました。

    「ひとぬだけなんて、とてもえらべないよ──!」

     その時、まばゆい閃光が、城の中へ一挙に差し込みました。

     ──それから四つの季節が過ぎ、また春になりました。
     光が収まった時、ねそルのいたところに転がっていたのは、五つの卵でした。ねそべりぬい達はねそルが消えてしまったことを大いに悲しみ、それぞれの卵を一つずつ引き取ることにしました。
     三十日後、卵が孵って生まれたのは、あのねそルに瓜二つのねそべりぬいでした。しかし、違うところもありました。
     東の谷へ運ばれた卵から生まれたねそルは寝ることが大好きで、よくねそシルと一緒に昼寝をしていました。ねそルが卵から孵る前にねそマレが作った大きなゆりかごを大層気に入り、成長してゆりかごに入ることができなくなっても、終生大切にしたと言われます。
     北の海へ運ばれた卵から生まれたねそルは泳ぎがとても得意で、魚の尾びれを持つぬい達には負けず劣らず早く泳ぐことができました。他の身体能力にも優れ、ねそアズのパートナーとしてとても良い働きをしました。
     西の洞窟へ運ばれた卵から生まれたねそルは活発で、引きこもりがちなねそイデを外へ誘っては振り回しました。散々ねそルに付き合わされた後、博学なねそイデは夜しか会えないものの洞窟の近隣に住んでいた様々な生き物たちに知恵袋として重宝されるようになり、一ぬきりで過ごす寂しさを二度と味わわなかったと言われます。
     南の砂漠へ運ばれた卵から生まれたねそルは穏やかで、常ににこにこしながらねそレオに付き従ったと言われています。気むずかし家のねそレオもねそルのことを非常に深く愛し、たくさんの子宝に恵まれ、南の砂漠で繁栄を極めたとされます。
     そして、中央の平原にあるねそヴィのもとへ残された卵から生まれたねそルは──
    「ぬっぬっ、ぬっぬっ」
    「おとなしくしなさい。ひにあたってもいいように、ひやけどめをぬってるのよ」
     ちょっとやんちゃではありましたが、ねそヴィのことが大好きな甘えん坊でした。ねそヴィはねそルを育て上げるのに苦労しましたが、少々歳が離れているものの今は立派な番として、常にねそヴィに寄り添っています。
    「さあ、おわったわよ」
    「ぬいっ!」
     ねそルは喜び、ねそヴィの頬に軽く口付けをしました。
     果たして、五つの卵から生まれたねそルは、元のねそルと同じねそべりぬいであるといえるかどうか──それは誰にも分かりません。ただ、新たに生を受けたねそルはそれぞれのねそべりぬいのことを深く愛していました。
     ねそルを取り合った五ぬいのねそべりぬいも、同じ生命から分かたれたねそべりぬいを育てる同志として、争わず、交友が続いていたと言われています。彼らが愛を勝ち得たことにより、世界は安寧に包まれました。
     一ぬのねそべりぬいを選ぶことができなかったねそルに、それぞれの土地で生きていける体と新しい生を与えたのは、まさに本物の奇跡であったと言えるでしょう。


     この物語は、ねそべりぬいの深い愛情を伝える幸福なお話であるとして、先祖代々受け継ぐぬい達の綿に刻み込まれていると言われます。


                                                               
                                     〜完〜
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