「すごいですね、その背中…引っ掻き傷がたくさん」
いきなり目の前で着替え始めたふみやさんの背中を見て言った。
しっかりと付けられた掻き傷。
随分と独占欲の強い猫と遊んできたみたいですね。
少し嫌味混じりで言ったのに、ふみやさんはは動揺も反応すらしなかった。
今まで別の誰かと逢っていたにも関わらず帰って早々自分を部屋に呼ぶなんて一体どんな神経してるのか。
盛大な溜め息をわざとついた。
早く用事を済ませて欲しい。
「…大瀬に頼みがあるんだけど」
「はあ、何でしょう?」
こちらへゆっくりと近寄って来たと思ったら、あっという間に押し倒された。
随分とお盛んな事で。
「俺と付き合ってよ」
は?
ふみやさんのこの言葉はいつも以上に信憑性を感じられなかった。
今まで他の人に迷惑かかるくらいならと彼の要望にできる限り応えてきたけど…流石にこの頼みは絶対に断る。
そもそもあれだけ遊んでる男の何処を信じろと言うのだろう。
こっちはまだ何も言ってないのにコトに及ぼうとするふみやさんの腹を一発蹴ってやった。
そして怯んだ一瞬に手が解放された為、頬にも一発食らわせた。
乾いた音が部屋に響く。
猿川さんがみたら褒めてくれるんじゃないかってくらい綺麗に決まった。
「そういうことは引っ掻き傷が消えたら言うべきじゃないですか?」
それだけ言うと自分の部屋に戻った。
すごくイライラした。
あんな告白の仕方ってないと思う。
本当信じられない。
年下相手に二発もいれるとか大人気ないかなとも思ったけど、今まで散々迷惑かけられてきたんだからこれくらい許してほしい。
「随分と沢山キスマークついてるじゃん」
急に言われて驚いた。
誰がつけたと思ってるのか。
全部自分がつけたくせに。
特にふみやさんお気に入りの箇所はすごい事になってる。
欲しい玩具が手に入った子供みたいにすごく嬉しそうに笑うから怒るに怒れない。
あれからしばらくしてふみやさんはまた僕を部屋に呼び背中を見せてきた。
そこには前のように引っ掻き傷の痕は一切なかった。
意外だった。
てっきり自分の方を切ると思っていたのに。
結果、そういう事になってしまった。
本当自由過ぎて困る。
そもそもなんで自分なのか。
見た目も中身も地獄の様に不細工なクソ吉を選ぶなんて性癖ぶっ飛んでるんじゃない?
顎を掴まれ視線が合う。
悪い男の顔で嘲笑うふみやさん。
この人は年相応なのか子供なのかいまいちわからない。
言いたい事はたくさんあったのに結局何も言えないまま強引にキスしてくる。
苦しいほど攻めてくるキスに毎度の事ながら息絶え絶え。
何でこんな男に敵わないのか、とか思ってるうちに服に手を掛けられて身ぐるみ剥されていく。
「趣味悪…」
彼は笑う。
余裕な笑みで。
そんなふみやさんに仕返しにと自分からキスをしてみた。
もちろんディープキス。
それぐらいじゃないとふみやさんを負かすなんて無理。
もっと驚くような事じゃないと。
そして今度は耳を甘噛みしてみた。
すると艶やかな声を小さくあげる。
こっちの方が恥ずかしくなった。
「今日は積極的じゃん」
…ヤバい、本気にさせちゃったかも。
逃げないと大変な事になる。
素早く彼から離れようとしたのに、未だにふみやさんの腕の中にいる。
「大瀬は俺にどうされたい?」
そうにっこりと嬉しそうな含み笑いのふみやさんに寒気がした。