特別な呼び方[れいちゃん、おめでとう!]
[Happy Birthday!]
[おめでとうございます!!!!!]
[誕生日、おめでとう]
次々とお祝いの言葉やスタンプが流れてくるグループの通知をそっとオフにして個人宛ての画面を開く。
[おめでとうございます。寿さん]
グループと同じ文面を打ち込み、指を止めた。
バックスペースを数回押して書き直す。
[おめでとうございます。嶺二さん]
甘い時間を過ごす時だけの呼び方だ。
“呼び捨てには、してくれないの?”
いつだったか甘えるような声で言われた台詞が浮かび、二度バックスペースを押した。
[おめでとうございます。嶺二]
照れが先だって避けている呼び方も文面だけならこんなに簡単に作れる。
少し迷ったが、恋人の誕生日と言う特別感に背中を押され、送信ボタンを押してしまった。
すぐに既読が着き、着信音が響く。
深呼吸を一つして冷静な自分を作り出す。
「お誕生日、おめでとうございます。どうかされましたか?」
「え?あれ?あれれ?見間違い?さっき、嶺二って…」
「あぁ、すみません。手が滑ってしまって。今、送り直そうかと」
「いい!このままで!」
慌てる姿が目に見えるようで笑いそうになる声を抑え、誤送信だと告げると食い気味に制止される。
画面上の呼び方一つでそんなに喜んでもらえるのならば、と欲が出た。
誕生日なのだからこれはプレゼントなのだと自分に言い訳をする。
「そうですか?要件がそれだけでしたら私はもう寝ますね」
「え、あ、そうだね。おやすみ」
「おやすみなさい……嶺二」
通話を一方的に切り、誰に見られているわけでもないのに口元を手で覆って隠した。
自分はこんなにも演技が下手だっただろうか。
声が上ずってしまっていたし、顔は確認するまでもなく真っ赤なのがわかる。
きっと意図的に送ったと気付かれてしまった。
次に会ったときにどんな顔をしたらいいのだろう。
深いため息をつき、画面に目をやるとありがとうとスタンプだけが送られてきていた。