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    柚木🍊

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    柚木🍊

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    リハビリを兼ねていつかツイッターで呟いていた夏くん娘(捏造)視点の原作軸父子について書き起こしたもの。書きかけ。やぴ没後かつお父さんが危篤。カプ色は驚きのほぼゼロ!

    血筋にまつわるあれそれ 迎えが来た5時間目終わり、理科の教科書そっくりの積乱雲、、、があった時点で嫌な予感はしていたが、ぽつぽつと雨粒が落ちてきたと思ったら、あっという間に土砂降りになってしまった。ワイパーは60のメトロノームと同じぐらいか、それよりも速いスピードで絶え間なく振れている。それでもこの量の雨は拭いきれないようで、おまけに車は夕立と同じ方向に進んでいるのだから余計に悪い。
     車内は静かだった。かろうじてカーナビでニュースはついているが、音量はぎりぎりまで絞られている。前に座っているふたりにさえ聞こえるか怪しいぐらいの大きさで、つけている意味あるのかなと思う。パパはずっと黙っている。ママも、スマホを貸してくれる感じじゃない。運転席の後ろのポケットのところにはDVDが何枚か入っていているし、ゲームができないならせめて後ろのモニターでアニメでも見たかったけど、この空気で言い出せるはずもなかった。ディスクは前のカーナビに入れなくてはいけないのだ。
     ピリピリしているのはパパ。──ママはそれを気遣っているというか、半分ぐらいは気圧されているんじゃないかと思う。
     こんなに長く感じるのに、時計を見たらまだ2時半だった。学校を出てから30分しか経っていない、ということになる。説明といえば担任の先生から「早退だそうです。おじいさんのお見舞いですって」と聞いたきり、そもそも"おじいさん"とは誰のことを指すのだろう。私の知ってるおじいちゃん、つまりママにとってのお父さんは超元気で、先週も登山に行ったらしいけど、いままで倒れたという話は聞いていない。要はどこに行くのかもわからないのだ。暇だな、どうしようかな、と考えるうちに何だか眠くなってきて、うとうとと船を漕ぐあいまに車が止まった。
     そこは病院だった。当然、お見舞いという名目にも矛盾しない場所だ。ママから渡されたマスクをつけて、手を繋いでエレベーターでいちばん上の階まで上がる。パパはひとことも発さない。わたしたちはいまから誰に会うというのだろう。
    「夏雄……! よく来てくれたわね、」
     病室にはおばあちゃん──パパにとってはお母さんがいた。顔に大きい火傷があるけれど、50代とは思えないほど綺麗なおばあちゃん。最後に会ったのは去年の年末だから、会うのは半年振りだろうか。ねぇね、、、にぃに、、、も揃っていて、「ここまで疲れたでしょう」「よく来たな」とそれぞれ頭を撫でてくれる。嬉しい。
     ベッドにはとても大きな身体のおじいさんがいた。
    (父方のおじいちゃん、生きてたんだ)
     見たことのない顔だけれど、見覚えがないわけではない。──呼吸器で覆われていない顔の半分からしても、その顔立ちはパパにそっくりだった。パパの髪を赤くして、もうちょっと火傷の痕を酷くして、そのまま老けさせたような感じ。おばあちゃんやねぇね、、、にぃに、、、も揃っているし、ベッドに横たわるこの人こそが父方のおじいちゃんだと見て間違いないだろう。
     おばあちゃんはママに、「来てくれてありがとう」と言った。私のほうをちらりと見て、連れてきてくれてありがとう、とも。おばあちゃんが頭を下げたのを見て、ママは慌てていた。この状況も、このやりとりの意味も、何ひとつわからない。生きているのならどうして会わせてくれなかったの、と疑問に思っても聞ける状況ではなかった。
     それから大人たちは難しい話を始めた。せめて本の一冊でもあれば、と車に置きっぱなしのランドセルを思い浮かべたところで、この退屈を紛らわせる方法は思いつかない。
     ぼんやりと大人たちを眺めて、──ふいに、ピッ、ピッ、……という音が耳に入る。それはおじいちゃんの近くモニターから鳴っている音で、そのときふと、ベッドの脇に置いてある写真立てが目に入った。
     男の子の写真だった。
     私とそんなに歳の変わらない──どころか私より年下かと思うぐらいには幼い感じだけれど、学ランを着ているからきっと中学生なのだろう。白い髪に青い目、顔のつくりはおばあちゃんそっくりの、綺麗な雰囲気。ひょっとすると女の子よりも可愛い顔をしているかもしれない。
     誰なんだろう……と考えていると、ぽんと肩を叩かれた。にぃにだった。「ジュースでも飲むか?」きっと私がつまらなそうにしてるのを見かねたのだろう。咄嗟にママのほうを見ると、『行っておいで』と口パクされた。
     手を引かれて、病室を出る。にぃには自販機がいっぱい並んでいるところまで連れていってくれて、抱っこでそれぞれの自販機のいちばん上の段まで見せてくれた。「あ、悪ィ。抱っこされるの嫌だったか」私にサイダーのボタンを2回押させ、地面に下ろしたあとでにぃには言った。いまさらすぎるけど、嫌じゃないよ、と言うとにぃに、、、はほっとしたように笑った。正直にいえば、パパに抱っこされたときよりも高いのでちょっと面白い。十歳でそんなことと言うの恥ずかしいから絶対言わないけど。
     ジュースの蓋を開けてもらって、ちびちび飲みながら、「ねぇ、にぃに、──あのさ、」聞きたいことはいっぱいあった。あれはおじいちゃんだよねとか、どうして会わせてくれなかったのとか、──それから、あの男の子は誰なの、だとか。
    「ん? どうかしたか、」
     半分ずつ色の違う、にぃにの目。片方は灰色、もう片方は青色。あの男の子と、、、、、、同じ色、、、。「──ぁ、……ううん。何でもない」聞いちゃいけないと思った。さっきまであんなに聞きたかったのに、途中でやめてしまった理由は自分でもわからない。
     にぃにはヒーローだ。──No.2ヒーローの、ショート。こうして直に会うより、テレビでそのすがたを見ることのほうがずっと多い人。
    『にぃにのことは、友達にも誰にも言わないと、絶対に約束してくれ』
     小学校に上がる前、パパと約束したこと。にぃにと初めて会ったのはその年の正月だった。──パパはテレビにショートが映ると嬉しそうにするくせに、ときどき途中で見るのをやめてしまうことがある。どうしてって聞いたのに、何も答えてはくれなかったっけ。
     ベンチの後ろ、大きな窓からは夕日が見えた。雨はとうに止んでいる。「アイスも食うか? ──あ、義姉さん的にはダメかな」にぃにはいつも優しい。何でも買ってくれるし、ちょっと蒸しているこの廊下も、にぃにの横にいれば涼しくいられる。
    「ママ何も言わないと思う。──ねーあれ、右から二段目のいちごのやつがいい」
    「いいけど、腹壊すぐらいなら途中でやめるんだぞ」
     私は子どもだ。誰かと一緒じゃないとどこにもいけないし、何も買えない。お腹を壊すタイミングだって自分じゃわからない。「はーい」けど、不自然を不自然と思わないほど幼くはない。……


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    MAIKINGリハビリを兼ねていつかツイッターで呟いていた夏くん娘(捏造)視点の原作軸父子について書き起こしたもの。書きかけ。やぴ没後かつお父さんが危篤。カプ色は驚きのほぼゼロ!
    血筋にまつわるあれそれ 迎えが来た5時間目終わり、理科の教科書そっくりの積乱雲、、、があった時点で嫌な予感はしていたが、ぽつぽつと雨粒が落ちてきたと思ったら、あっという間に土砂降りになってしまった。ワイパーは60のメトロノームと同じぐらいか、それよりも速いスピードで絶え間なく振れている。それでもこの量の雨は拭いきれないようで、おまけに車は夕立と同じ方向に進んでいるのだから余計に悪い。
     車内は静かだった。かろうじてカーナビでニュースはついているが、音量はぎりぎりまで絞られている。前に座っているふたりにさえ聞こえるか怪しいぐらいの大きさで、つけている意味あるのかなと思う。パパはずっと黙っている。ママも、スマホを貸してくれる感じじゃない。運転席の後ろのポケットのところにはDVDが何枚か入っていているし、ゲームができないならせめて後ろのモニターでアニメでも見たかったけど、この空気で言い出せるはずもなかった。ディスクは前のカーナビに入れなくてはいけないのだ。
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