エンドロール花道のスマホの画面に「好きだ」と書かれたメッセージが表示されている。午前の授業中になんの前触れもなく送られてきたらしい。その次の休み時間、俺と花道は屋上で作戦会議をすることにした。送り主は流川だった。授業なんか聞いてる場合じゃねえよなって、別にいつでも聞いてなんかねぇくせに。それらしい理由をつけて俺たちは階段を登っていく。登りながら俺の気持ちはみるみるうちに下がっていった。屋上の扉を開けて日差しを浴びるとき、花道の後ろ姿が逆光で見えにくくなった。映画かなにかのラストシーンのように、ああまだ終わらないでくれって、そういう気分になった。なにが終わると思ったんだろう。その時の俺は。
「……どういう意味だと思う」
「そのまんまの意味じゃね」
「そんなことあるか?」
「言葉の裏に意味を持たせるような男じゃねーと思うんだけどな」
「まぁたしかに」
「だろ。腹括れよ」
「受け入れろってことかよ」
「現実を受け入れろってこと。別に返事しろってことじゃねぇよ」
「返事なんかできるかよ。つかなんだよ返事って」
「モテてるんだからもっと喜べよ」
「モテたい人にモテねえと意味ねーだろ。晴子さんなら問題なく喜んだわ」
「それはそう」
「どーすりゃいんだコレ」
「正直言うとさ」
「んん?」
「ちょっと、悔しい」
「…あ?」
「悔しいっていうか」
「なんだよ」
「ぽっと出の奴が一丁前にお前のこと悩ませてさ、生意気」
「はぁ?」
「あー花道がとられちゃったらやだなー」
「なんだそれ」
「そのまんまの意味だろ。言葉の裏に他意なんてねーよ」
「別にとられやしねえだろ」
「かなしいことがあったとき一番最初に連絡する相手が変わっちまうだろ」
「なんでかなしい事だよ。嬉しい事じゃないんか」
「嬉しいことなんか好きな人と共有してる全てのことだろ。連絡なんかする必要ねーよ」
「…そういうもん?」
「さぁなー」
「洋平はたまに難しいこと言うよなあ」
「別に、簡単なことだろ。俺に彼女ができたらどう?」
「羨ましい。そんで嬉しい」
「嬉しい?」
「おう」
「ははは!」
「なんか変かよ」
「ちっとも変じゃねえよ」
「あとちょっと寂しいかもしれん」
「……」
「たぶん」
「……ふ」
「…なんで笑ってんだ」
「いやいや、ごめん、なんでもない」
「別に彼女ができたとしてもオレと洋平は変わんねぇだろ?」
「うん、そうだろうな」
「…どーすっかなコレ」
「花道さぁ…」
「あ?」
「ぶっちゃけ流川のこと好きだろ?」
「なんだソレ」
「好きなんじゃねーかなって思ってたんだけど、俺は、前から」
「好きじゃねぇ」
「ああそ、じゃあいいわ」
「…好きってどんな感じ?」
「どんなって、お前がよく知ってるやつだよ」
「洋平の好きは?どんな感じ」
「オレぇ?……好きなひといねーんだよな」
「人生で?ひとりも?」
「…うん…ああ、あの、人としてとか、そういうんじゃねぇだろ?恋愛的なやつだろ?」
「そう」
「うん…恋愛は、ねぇかな」
「ふーん……」
「流川はどう?人として」
「嫌い」
「ははは!ハッキリ言うなぁ」
「いや嫌いだろ最初っから」
「あー、まぁそうか」
じゃあなんで、そんな顔で液晶画面を眺めてるんだろうなぁとは言えなかった。まだエンドロールを終わらせたくない。まだ終わらないでくれよ。