証2人で出掛ける時は、車を出し少し遠出の大型スーパーに行くのが恒例になっていた。
今日もいつものように昼前まで自宅で過ごし、昼食をかねて出掛けた。
マンションの地下までエレベーターで降り、自身の愛車のもとまで行く。
小さな電子音と共に車の鍵を開け、俺は運転席、ボスキは助手席のドアを開ける。
「……あちぃ」
ボスキの唸るような声と共に車内の熱気が外に漏れ出る。
「すまない…暑い日が続いてるからな。今、エンジンを入れる」
ハンドルの左下にあるスイッチを押しエンジンをかける。
「なんでお前が謝る…誰のせいでもねぇだろ」
そう、ぶっきらぼうに言い座席に座ると慣れた手つきでシートベルトをつける。
「そう…だな。すまな…あ、いや…ありがとう」
謝りそうになったのを言い直し、自身も座席に座る。
「…別に、礼を言われることもしてねぇだろ」
運転席側の手で軽く顎を掴まれ、指先でくすぐられる。
では、どう言えというんだ…と頭の隅で思いつつも、これ以上の問答は不毛に近い。
細められ何かを捉えんとする瞳から顔を背け、ボスキの手を自身の顎から外させる。
くくっ…っと、何処か楽しそうな笑い声が聞こえたが、聞こえないことにし自身もシートベルトをつけハンドルを握る。
…………
ピーピーと、聴き慣れた電子音と共に左手で円を描くようにハンドルを切り、2台の乗用車の間に自身の車を駐車させる。
ボスキが良く「器用だな」と、言ってはくれるが…俺にとっては、おにぎりを作れるボスキのほうがよっぽど…などと考えていると…
「……い、おいっ。ハウレス」
「…えっあっ…な、なんだ?」
声をかけられてることに気付かづ、しどろもどろな反応になってしまう。
「ったくよ…使うんじゃねーのか?」
呆れた声と共に助手席の足元に置かれていたサンシェードを手渡させる。
「ありがとう。助かる。」
感謝の気持ちと共に受け取ると、助手席側の腕を軽く掴まれて引かれる。
「…っと」
身体がぐらりと揺らぎ、
引かれた方向に傾く。
「……っ!」
目の前に澄んだ淡緑色が広がり
距離が縮まり
息が
「ボ、ボスキ…!」
甘い誘惑に流されそうになった自身の思考を引きずり戻す。
「…なんだよ。」
低く甘い声色が不服そうに呟く。
「ぁ、いや…近い…」
「…近い…?」
「………」
「………くくっ…」
「…………??」
「…ホコリ」
「え……」
「前髪にホコリのようなものがついてたから、とろうとしただけだ」
「………っ!?」
カッと全身の血液が顔に集まるのが分かった。
俺の反応がよほどお気に召したのか、可笑しそうにクツクツ笑いながら身体を離す。
「……何を想像したんだ?」
シートベルトを外しつつ、目線だけを此方に向けてくる。
「別に……何も想像などしていない」
自身のシートベルトを外しながら淡々と答え、取りこぼしてしまったサンシェードを取り直し、フロントガラスにくっつけるように置く。
後部座席にある自身の鞄をとろうと助手席側に身体をひねろうとした時、不意に声がかかる。
「なんだ………っ!?」
全てを言い終える前に何かに口を塞がれる。
喋る為に開けていた口内に
ぬるりと
反射的に相手の身体を押し返そうとしたが、後頭部にまわされた手に阻止される。
侵入してきたボスキの舌に自身の舌を絡め取られ、背筋に甘い痺れが走る。
「…ふぅ…んっ…ボス…キ」
薄っすらと空いた隙間から、相手の名を呼ぶと、塞ぐ角度をかえたより深いものになる。
「…ん……っ…ン…ぁっ」
決して長くはない口付けではあったが、頭の芯が甘く痺れるには十分だった。
「ハウレス…」
少しだけ息の上がった声が俺の名を呼ぶ。
「今日1日良い子に出来たら…」
後頭部に回されていたボスキの左手が襟足部分を指先でくすぐるように撫でる。
「…たっぷり甘やかしてやるよ」
撫でる手とは反対の耳から息を吹きこむように囁かれ
もう片方の手で
首元を撫でられる
人差し指と中指で、愛くしむように
優しく
指先で撫でられているであろう場所
擦られて紅くなっている
所有の証