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    きつね兎丼

    @KITUNEDONDON

    作業進捗、表に載せられないものを投げる場所
    書き続けりゃ何とかなると思ってる

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    きつね兎丼

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    IQ低くした勢いのものを書きたいと始まった文字打ち
    支部に投稿するのもあれなんで、出来たらXに放流する予定

    高主♂短編の序盤 それは突然襲い掛かってきた。
     自ら誘った酒場。
     長椅子に腰掛けて、簡単なつまみと共に酒を煽りたいところだが、今日のところは控えめに呑んでいた。
     高杉は並んで酒を呑む隠し刀の顔を横目に、自らの器を揺らす。ちゃぷりと水音が跳ねて落ちるその間に、この男の内に隠されている真意を探ろうと試みていた。元々警戒心の高い方だと自負している。面白い男だということは分かったが、まだまだ気を許すまではない。
     そういった探りを入れる際に酒は実に便利な代物であった。これは人の正気を狂わす。云えぬものも、ぽろりと溢す。その不意に口走ってしまったものを高杉は欲していた。
     しかし予想しているものは、人間の薄汚い部分を煮詰めたものであり、人間を狂わせる言葉などではなかったはずだ。
    「お前は良い男だな」
     朱い唇から、ぽろりと溢れたのは、そんな誉め言葉。
     とくとくと注がれる酒をまた呑み干して、赤い頬のまま隠し刀は続ける。
    「何よりも目が良い。力強い目だ。お前の長い睫毛の影かかる瞳に覗き込まれてしまっては、どんな男も女も惚れることだろうな」
    「……待て待て待て。一体どうしたってんだあんた」
    「何がだ?」
    「人の瞳をそんなに褒めてくれるってのは光栄だが、俺としちゃこっ恥ずかしいぜ。そういうことを男の俺に云ってもどうしようもないだろ」
     途中までは何事もなかったはずだ。普通に呑み、普通に会話をしていたはずだ。
     だが何故こんな会話をする羽目になっているのだ。
     高杉はたじろぐ。
     隠し刀は首を傾げる。
    「……では誰に云えばいいというのか?」
    「そりゃ――夜を共に過ごしたい女相手とか」
    「そんな女はいないが……あぁ分かった、龍馬にでも云えばよいか?」
    「坂本さんの瞳も、同じように褒めるつもりか?」
     想像してしまい、げんなりとしてしまう。
     隠し刀はまたもや首を傾げた。
    「なぜ龍馬の瞳を褒めなければならない。違うに決まっているだろう」
    「なんだと?」
    「龍馬にはお前の瞳が綺麗だと云うだけで――」
    「よし分かった。存分に俺に云ってくれ。だから坂本さんには絶対に云うな。絶対だぞ」
     これから起きようとしていた巻き込み事故を寸でのところで防ぐ。とんでもない評判が巷に流れてしまうところであった。高杉にとっても、隠し刀にとってもだ。
    「そうか。なら良かった」
    「……ちなみに聞くが、何が良かったんだ?」
    「やはり良いと思ったことは本人に伝えるのが一番だ。人に語っても意味がない」
     赤くなっているのは頬のみで、眉も口角も一切動いていない。能面のような顔で臆面もなく人を褒める男に、高杉は調子を崩されてしまっていた。
     わざとか?
     いや最初から薄々気が付いていた。この男はどこか浮世離れしていると。普通は同性に対してここまで身体の一部を褒めないはずだ。例えば高杉が容姿を褒めるのは、女を口説く時である。夜を共に過ごしたい女を褒めて、上げて、褥へ持ち込む。だがこの男は高杉を口説くような真似をした。その真意はいまだに測りかねるが、恐らく高杉との夜を狙っているわけではないだろう――多分。
     高杉は勿論女が好きだ。抱くのは女がいいし、抱かれるのは御免だ。
     だからだろうか。妙な矜持が疼いた。
    「俺もあんたの瞳が好きだぜ。刀を抜いた時にぎらりと煌めく黒は、見ていて飽きないもんだ」
     今度は自分から切り出す。
     やられたら、やり返すのだ。そうすればどんな気持ちになるのか分かるだろう。
     どうだ? 男から褒められるってのは。
    「……そんなことを云われたのは初めてだな」
    「そうなのか? なら俺が初めての男ってわけだな」
     追い打ちをかけるように勘違いに拍車をかけるような言葉を紡ぐ。
     高杉は想像していた。隠し刀がうろたえ、自身が云った言葉を反省する姿を。
     だが現実は非情にも、想像を裏切った。
    「――お前のような色男に褒められるというのは悪くないな。もっと褒めてくれ」
     能面の顔が崩れ、穏やかな笑みを浮かべられる。
     色付いた華が咲いて、心臓が跳ねた。
     なんだ今のは。
     高杉は胸を押さえて、笑み浮かべる横顔を見つめる。
    「……高杉」
    「なんだ?」
    「零れているぞ」
     指を差された先を見やれば、傾いた器から零れ落ちた酒によって袴が濡らされているところであった。
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