「……いいか?」
唇が触れ合う寸前、まともに顔も見えないような近さになってから問う。それが、タキのやり口だった。ユージンはまたかと思いながらも、いつもの如く唾を呑むことしかできなかった。囁くような声と共に湿った吐息がかかる。こんなのはもう、キスしているのと同じだろう。そもそもこの状況で逃げ出さず、顔すら背けずにいるのは、ほぼ頷いているようなものだというのに、何の確認をされているのか。それでも、形だけでも嫌がったり、拒んだりする気は起きなかった。もし徒にそうしたことで、次が無くなるのが、——終わってしまうのが怖かった。タキは見切りをつけるのが早い。だからといって、潔く頷こうとは思えなかった。恥ずかしいからとか、悔しいからとか、そんなつまらない理由ではない。一度でも頷いて、受け入れてしまったら、それこそ終わってしまうような気がした。ならば、何者にもなれないままでいいから、触れ合っていたい。愚かにも、ユージンはそう願ってしまっている。
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