愛之介と忠が墓参りをする話恐ろしかった。
それが正しい感情なのか、忠にはわからない。だが愛之介が愛一郎の墓標に花を手向けるさまは息を呑むほど美しく、そして身体中の血液が冷えていくような心地を覚えた。かつて何もできなかった自分、そして歪んでしまった愛之介。せめて隣にいることで罪滅ぼしになればと思うのは、忠の自己満足にすぎない。
「なんだ、何を見ている」
「……いえ」
「犬のくせに、行儀良く待てもできないのか」
「申し訳、ありません」
墓標の前で膝をつき、手を合わせている愛之介が何を思っているのか、その表情から読み取ることはできない。
だが生前の愛一郎と愛之介との確執を知る忠にとって、その感情が一枚岩ではないことくらい、容易に想像がついた。
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